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マスクから鼻が出た状態で「大学入学共通テスト」を受けて、繰り返し注意されたのに従わず、「成績無効」となった受験生。その後、試験会場のトイレに閉じこもって出てこなかったとして、警視庁に逮捕されていたと報じられている。

この受験生は、試験初日の1月16日、東京都内の会場で、マスクから鼻が出た状態で試験を受けた。監督者から繰り返し、マスクを正しく着用するよう注意を受けたが、それに従わなかったため、「不正行為」と認定されて、成績無効となった。

報道によると、この受験生は、別室に移動するよう指示されても応じず、最終的に不正を告げられると会場のトイレに閉じこもったという。駆けつけた警察官が出てくるようにもとめても応じなかったため、不退去の疑いで逮捕された。すでに釈放されているという。

NHKによると、受験生は「メガネが曇るからマスクをずらしていた。曇らないように自分もなんとか頑張っていたし、試験官にも説明したのに失格はひどすぎる。トイレにこもっていたのは力ずくで解決しようとして怖かったからだ」と話したそうだ。

この受験生は逮捕されてもしかたなかったのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。

●「退去するのに必要な合理的時間」が経過したといえるか

――不退去罪はどんなときに成立しますか?

不退去罪とは、住居侵入罪と同じ「刑法130条」に定められている犯罪です。

管理権者から、退去するよう要求されたにもかかわらず、正当な理由なく、人の住居や人の看守する邸宅、建造物などから退去しなかった場合、3年以下の懲役または10万円以下の罰金となる犯罪です。

――今回のケースのような場合、逮捕せざるをえないのでしょうか?

刑事訴訟法212条1項は、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者を現行犯人とする」と定めています。また、刑事訴訟法213条は「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と定めています。

不退去罪は、退去の要求を受けて、ただちに成立するのではなく、要求を受けた人が退去するのに必要な合理的時間が経過してはじめて成立するとされています(昭和45年10月2日・東京高裁判決など)。

報道によりますと、この受験生は、再三の退去要請にもかかわらず、午後10時までトイレに閉じこもったとのことですので、「退去するのに必要な合理的時間」が経過したのは明らかです。現行犯逮捕の要件を満たしているといえます。

実際問題として、逮捕しなければ、ずっと立てこもり続けることが予測され、収拾がつかなくなることから、受験生をその場から引き離す目的で逮捕したのだと考えられます。だから、勾留されずにすぐに釈放されたのでしょう。

●成績無効はやむをえない

――マスクから鼻出していたこと、注意されても従わなかったこと、成績無効になったことなど含めて、今回の騒動をどう考えますか?

たしかに受験生の一生に関わってくる試験で、マスクから鼻出しで成績無効とするは酷だといえます。

一方で、(1)事前にマスクを正しく着用すること、(2)試験官の指示には従うことが規則として決められていたこと、(3)緊急事態宣言下という非常事態で感染拡大を防ぐ要請が通常よりも強いこと、(4)マスクを正しく着用しない受験生がいるとほかの受験生に不安と動揺を広げてしまうこと、(5)試験官が6回にわたり注意をしたこと、(6)別室受験という代替措置も提案されていること――などから考えると、成績無効とすることもやむをえないのではないかと思います。

今回のケースは、コロナ禍という特異な状況から発生した特殊なケースといえます。早くコロナ禍が収束して、これまでのようにマスクの問題で騒がれない世の中になってほしいと願います。

【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/