新車発表の場としては珍しく、豊田章男社長も姿を見せた(撮影:風間仁一郎)

トヨタ自動車は6月26日、会社を代表する2大モデルの新型車について、異例の同時発表に踏み切った。

この日お披露目されたのは、国内高級車の代名詞「クラウン」と、世界で最も販売台数の多い大衆車の代名詞「カローラ」の新型車であるハッチバック型「カローラ スポーツ」だ。この2モデルは価格帯や販売戦略がまったく異なるため、通常は発表を切り分けた方が宣伝効果は大きい。それでもあえて同日発表に踏み切ったのは、共通のミッションを背負っているからだ。

今回のクラウンとカローラは、インターネットと常時接続する、トヨタの「コネクテッドカー(つながる車)」の初代車という位置づけだ。車の中にDCM(データ・コミュニケーション・モジュール)と呼ばれる無線通信装置を標準搭載し、車両データがネットで車外に送信され、運転のサポート情報などを提供する。2020までに日米で販売するほぼ全車種をコネクテッドカーにする方針だ。

“コネクテッドの本気”を見せつけたい

自動車業界は今、電動化や自動運転開発の進展により“100年に1度の変革期”にあるといわれる。中でも基盤となるコネクテッドの分野は競争が激しい。トヨタの商品企画担当者は「高級車、大衆車の両方で同時発表すれば、インパクトを大きくできる。車の開発はもちろん別々に進めてきたが、発表日は調整してあえて合わせた。トヨタがコネクテッドに本気だということを見せつけるためだ」と鼻息が荒い。


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実際、当日は気合が入っていた。招待客向けイベントを全国で同時に実施。車のコンセプトが“つなぐこと”だけに、東京や名古屋、福岡など全国主要7都市の会場をネットでつなげ、120の販売店にも同時中継するなどして盛り上げた。

新車発表の場としては珍しく豊田章男社長も姿を見せ、東京会場で「カローラとクラウンは日本のモータリゼーションを牽引してきた車。移動する楽しさがあった。今回も本当に楽しい車に仕上がったと自信を持っていえる」と語ったうえで、「今、その楽しさの概念が変わった。走る、曲がる、止まるに加えて、つながるという性能が求められている」と強調した。

コネクテッドカーをめぐっては、すでに米ゼネラルモーターズ(GM)や独BMWなど欧米勢もサービスを始めているほか、グーグルやアップルといった米IT大手もスマートフォンと車載機器を連携させるサービスを展開する。ただ、トヨタはライバルとは一線を画す方針だ。

トヨタが掲げるのは、人が介在するというコンセプトだ。コネクテッド関連事業を率いる友山茂樹副社長は、「欧米勢もコネクティビティを重視するが、スマホが使えるかといった程度だ」と分析する。

ネットだけでなく“人”ともつながる

それに対して、トヨタが強調するのが、安全・安心だ。友山氏は「ジャストインタイムの安全・安心を24時間365日提供する」という。AI(人工知能)を用いた音声操作機能も搭載するが、有人のオペレーターが目的地設定やドライブサポートをする「コンシェルジュ」のようなサービスを重視していることが特徴だ。


メッセージアプリ「LINE」上で目的地を登録し、カーナビに送ることが可能だという(撮影:風間仁一郎)

具体的には、車両トラブル時にコールセンターから適切なアドバイスを受けることが可能。車両情報は瞬時に販売店とも共有され、その場で検査や修理のために販売店の予約もできる仕組みだ。

また、ドライバーの運転傾向をもとに、安全な運転やエコ運転の2つの観点で自動診断し、翌月の保険料が割引される保険プランとも連動する。メッセージアプリ「LINE」のトーク画面上でナビの目的地登録を行ったり、ガソリン残量や天気などの情報を得たりすることもできる。

トヨタが今後コネクテッドの進化の先に見据えるのが、ビッグデータの収集・分析だ。コネクテッドカーから取得した走行データなどの情報は、匿名化しながら、今後の自動運転の開発などに活用したい考えだ。

2016年にはビッグデータを活用して新しいサービスを開発する子会社「トヨタ・コネクティッド」も設立済み。米国のIT勢や欧州メーカーも膨大なデータを集めるが、トヨタは年間販売1000万台を超える車両規模を武器に本格化させる。

一方、コネクテッド以外にも、今回のクラウン、カローラにはもう一つの使命がある。顧客層の若返りだ。

新型クラウンは15代目。1955年に誕生した国内専用の高級車だ。全国のトヨタ店(東京地区は東京トヨタおよび東京トヨペット)で6月26日に発売した。価格は460万6200円〜718万7400円。エンジンは2リッター直列4気筒ターボ、2.5リッター直列4気筒ハイブリッド、3.5リッターV型6気筒ハイブリッドの3種類を用意し、後輪駆動(FR)と4駆(4WD)をそろえた。


先代よりシャープな印象が増した新型クラウン(撮影:風間仁一郎)

SUV(スポーツ多目的車)やミニバン、コンパクトカーに人気が集まる中、セダン離れが進んで久しい。ただクラウンは別格だ。売れ筋の価格帯は500万円以上と高額だが、クラウンの登録台数は毎月2500台前後でコンスタントに売れている。「いつかはクラウン」と称され、車を買い替える中で最後にたどり着く高級車の代名詞的な存在として親しまれてきた。60年以上も販売が続く国産乗用車の最古参でもある。

クラウン、カローラは“脱おじさん”を目指す

これと表裏一体なのが、顧客の高齢化や硬直化だ。14代目のフルモデルチェンジではクラウンには似つかわしくないピンク色も発売して若返りを図ったが、不発だった。「クラウンの既存顧客の中でぐるぐる回っていた」と開発責任者は語る。新たな顧客に訴求できなかった理由として、「クラウンはタクシーでしょ、パトカーでしょ、法人の車でしょとの声が返ってきた」という。色が斬新でもクラウンの保守的なイメージが拭えていなかったのが現実だ。

そこで、新型クラウンではひとつの方向に凝縮した。長年看板だったラグジュアリー志向の「ロイヤルサルーン」、スポーティな「アスリート」、ロングな 「マジェスタ」という区分を廃止し、スポーティな外観に一本化。若いイメージで攻めることにした。


カローラシリーズに新たに加わったハッチバック型の「カローラ スポーツ」(撮影:風間仁一郎)

一方のカローラは、1966年に誕生。世界150カ国以上の国と地域で販売累計台数4600万台を超えるロングセラーカーだ。10秒に1台のペースで顧客に届く。今回発売するカローラ スポーツは、今後順次展開する12代目カローラシリーズのトップバッターとなる。

エンジンは1.8リッターハイブリッド、1.2リッター直噴ターボをそろえ、価格は213万8400円〜268万9200円。カローラもクラウンと同じく課題は顧客年齢だ。国内では平均70歳に達しており、「12代目カローラは次の50年に向けて若い人に響くようにしたい」と開発担当者は意気込む。

主力2モデルで異例となる同時発表を仕掛けてまで、コネクテッドを前面に打ち出してきたトヨタ。はたして若い世代は反応するのか。新たな一歩を踏み出すクラウンとカローラは、トヨタの“つながる”将来を占う重要な試金石になる。