"スマホが学力を破壊する"これだけの根拠

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スマホを使えば使うほど学力が破壊されてしまう――。東北大学の川島隆太教授は、仙台市の中学生の生活・学習状況調査から、そうした警告を発している。川島教授によれば、家で2時間以上勉強しても、携帯やスマホを3時間以上触っていると、その学習効果がムダになってしまうほどだという。子供たちの「脳」に、なにが起きているのか――。

※本稿は、『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

■スマホを使うと2時間の学習効果が消える!?

スマホが子どもたちの学力を破壊している。それも、想像されているよりも遥かに悪い影響が学習に及ぼされている。この衝撃の事実に最初に気付いたのは、平成25年度に標準学力検査と生活・学習状況調査の結果を目にした瞬間でした。

グラフ1-1をご覧ください。平成25年度仙台市標準学力検査、仙台市生活・学習状況調査の結果です。仙台市立中学校に通う全生徒2万2390名のデータを解析したものです。

縦軸は数学のテストの平均点です。横軸では、生徒たちが平日に携帯電話やスマートフォンをどのくらい使っているのかをアンケート調査し、全く使用しない群から、4時間以上使う群まで、6群に分けてそれぞれで平均点を計算しました。

アンケート調査での実際の質問のしかたは、「ふだん(月曜から金曜日)、1日当たりどれくらいの時間、携帯電話(スマートフォンもふくむ)でメールやネットゲームをしたり、インターネットを見たりしていますか」というものになります。

さらに、私たちは、生徒たちを平日の自宅での勉強時間の長さごとに、毎日2時間以上勉強する群、30分から2時間勉強する群、ほとんど勉強しない30分未満の群の3群に分けて解析をしました。

解説をご覧いただく前に、ぜひとも、ご自身でこのグラフから何が読み取れるのかをお考えいただければと思います。

■グラフから読み取れることは

グラフ1-1についての私の解釈を述べましょう。最初にわかることは、自宅学習時間が長いほど成績が良いという当たり前の事実。2時間以上家庭で勉強をする生徒の成績は、他の2群と比べて、明らかに優れています。

次いでわかるのは、自宅で勉強をしようが、するまいが、携帯・スマホを使う時間が長い生徒たちの成績が悪いという事実。グラフでも右にいくほど、すなわち使用時間が長いほど、成績が低くなっています。

さらに細かく読み取っていくと、たとえ家で2時間以上勉強したとしても、携帯・スマホを3時間以上使ってしまうと、ほとんど家で勉強をしないけれども携帯・スマホを使わない生徒たちの方が、成績が良くなってしまうという事実。2時間以上も勉強をしたのに、その努力が全部無駄になってしまっているかのようです。

携帯・スマホの使用時間が長い子どもの学力が低いと聞くと、教育関係者を含む多くの人は、それは自宅で勉強しないで携帯・スマホを操作しているのだから低くて当たり前だと考えます。しかし、グラフから読み取れるように、自宅で勉強をしている生徒も、していない生徒も、等しく成績が低下しています。すなわち、家庭学習時間の減少が学力低下の直接の原因である可能性は低いと考えることができるのです。

私が特に深刻にとらえたのは、家でほとんど勉強をしない生徒たちのデータです。家で勉強をしない生徒たちは、当たり前のことですが、学校でしか勉強していませんから、学校の授業を受けた時に作られた知識・記憶によって、テストの成績が決まります。

学校の授業を受けただけの状態で数学の試験を受けると、平成25年度の試験では平均で約62点の点数がとれています。それが、携帯・スマホを1時間以上使うと、使った時間の長さに応じて成績が低下してしまうのです。4時間以上使うと15点も低くなっています。

2時間も自宅で勉強して、知識や記憶が増えたはずなのに、4時間以上携帯・スマホを使うと、自宅学習の分はおろか、学校で学んだことまで相殺されてしまっているのだとしたら、これは由々しき事態ではないでしょうか。

この結果から想定される最悪の仮説は、携帯・スマホを長時間使うことで、学校での学習に悪影響を与える何かが生徒の「脳」に生じたのではないかというものです。可能性(1)は、学校の授業で脳の中に入ったはずの学習の記憶が消えてしまった。可能性(2)は、脳の学習機能に何らかの異常をきたして学校での学習がうまく成立しなかった。どちらが正しいかはわかりませんが、ただ事ではないことは間違いありません。

■数学以外の教科では?

携帯・スマホを使うことで点数が下がってしまうのは、数学だけなのでしょうか? 他の科目のデータも見てみましょう。グラフ1-2は国語、1-3は理科、1-4は社会の成績です。理科と社会では、数学と同様に携帯・スマホの使用時間が長いほど成績が低くなる傾向が顕著でした。国語は、テストの性格の違いもあってか、成績の低下率が弱いように見えます。

総括すると、教科を問わず、携帯・スマホの使用時間が長い群は学力が低く、それは自宅学習時間の短縮とは関係がなさそうであることがわかります。

グラフ1-1から1-4でみえてきたことを、以下にまとめます。

・長時間携帯やスマホを使用する生徒の学力は低い。
・携帯やスマホの使用による家庭学習時間の減少が、直接学力低下の原因となっている可能性は低い。
・自宅学習をほぼ行っておらず、かつ携帯・スマホ使用時間の長い生徒たちの成績が低くなっていることから推測すると、学校での学習に悪影響を与える何かが生徒の脳に生じた可能性がある。

■さらなる実験の開始

平成25年度の仙台市の調査結果を受け、私は、携帯・スマホの使用が子どもたちの学力に強い負の影響を与えているかもしれないことに驚き、学習によって獲得した記憶を消し去っているかもしれないという可能性に恐怖しました。

同時に、平成25年度の調査自体に、スマホと携帯を区別していないなど、設定上いくつかの問題点があることも浮かび上がりました。とはいうものの、携帯電話を使ったインターネット使用は平成28年度のデータで約2.0%に過ぎず、半数近くの生徒はスマホでインターネットを使用しているのが現実です(平成28年度の内閣府政府統計「青少年のインターネット利用環境調査実態調査」より)。ですから、そのインターネット使用による影響は、主にスマホによる影響であると考えられます。

平成25年度の調査に含まれるもう1つの大きな問題点は、睡眠の影響に関してです。教育の世界では一般に、睡眠時間の短い子どもたちの学力が低いことは「常識」になっていました。携帯・スマホの使用時間が長いことで睡眠時間が短くなる場合があるために、学力の定着が悪いことが考えられます。「携帯・スマホの使用」が直接に成績へと影響を及ぼしているのではなく、単に睡眠不足のために学力が下がっている可能性があるということです。

こうした問題点を解消すべく、私たちの研究グループはさらなる調査を行い、スマホ使用と学力に関する驚きの事実を明らかにしました。詳細は拙著『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)で紹介しています。ぜひ、ご一読ください。

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川島隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学加齢医学研究所所長。1959年千葉県生まれ。1989年医学博士(東北大学)。全世界でシリーズ累計販売数3300万本を突破したニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修者。著書は累計600万部を突破した「脳を鍛える大人のドリル」シリーズをはじめ、『現代人のための脳鍛錬』(文春新書)、『さらば脳ブーム』(新潮新書)など多数。

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(東北大学加齢医学研究所教授 川島 隆太)