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*チーム勝敗は現地時間8月31日時点の数字。


  • ロサンゼルス・ドジャース:80-55


6月21日時点で30勝42敗、首位から9.5ゲーム離されていたドジャース。大補強を敢行し、一気に勝負に出たシーズンであったが当然の如く避難の対象となった。しかし、まさかその後50試合で42勝8敗という歴史的な快進撃を見せるとは誰が想像しただろうか。あっという間に首位に躍り出て、今では2位アリゾナ・ダイアモンドバックスに11.5ゲーム差を付け、完全に独走状態に入っている。

その快進撃を支えているのがキューバ出身のルーキー、ヤシエル・プイグであることは誰の目から見ても明らかだろう。7年総額4200万ドルという超大型契約で昨年ドジャース入りしたプイグは6月3日にメジャーデビュー。デビュー直後から驚異的なペースでヒットを量産し、.351/.409/.566、14HR、32打点と昨年のマイク・トラウト(LAA: LF)を彷彿とさせるような大ブレイクぷりである。おまけにライト守備もUZR3.5、DRS8と優秀な成績を残しており、怪我で離脱したマット・ケンプの穴を全く感じさせないほどのプレーをここまで見せている。その他にも出場試合数こそ少ないが、ハンリー・ラミレスが15HR、OPS1.011とようやく本来のバッティングを取り戻せば、不良債権化しつつあったカール・クロフォードが打率.289でリードオフに定着するなど個々の活躍が光っている。これに加え8月31日にはフィリーズからマイケル・ヤングを獲得。当面はサードでフアン・ウリーベと共にプラトーン起用される見込みである。ヤングの加入でウリーベをユーティリティとして起用することが可能となるため、ドジャースとしては選手起用のオプションが幾分増えた。プレーオフに向けてのラストスパートといったところだろうか。

投手陣はエースのクレイトン・カーショウを筆頭にザック・グレインキー、ルーキーの柳賢振、トレードデッドラインにマーリンズから獲得したリッキー・ノラスコと頼れる先発投手が4枚も揃っている。ジョシュ・ベケット、チャド・ビリングスリーが相次いで離脱し、一時はどうなるかと思われたが心配する必要は全くなかったようだ。13勝、防御率1.72で今年のサイ・ヤング賞候補のカーショウ、14勝、防御率2.78のグレインキー、13勝、防御率3.02の柳、移籍後は10先発6勝、防御率2.20のノラスコが全員同じチームにいるのは他球団にとっては間違いなく脅威だろう。プレーオフのような短期決戦を勝ち抜く上で投手力が非常に重要になってくるが、ドジャースはその点に関してはワールド・シリーズを制覇できるだけの力を持っているだろう。


  • アリゾナ・ダイアモンドバックス: 69-65


ドジャースの快進撃の陰に完全に隠れてしまったダイアモンドバックス。気が付けば首位ドジャースから11.5ゲーム差、ワイルド・カードの2枠目からも6ゲーム差離され、終戦が近付いている。

ジャスティン・アプトンをオフにトレードし、打線の新たな中核としてポール・ゴールドシュミットが台頭。133試合ですでにキャリアハイの31HR、104打点、OPSも.943とリーグトップクラスの打者へと成長を遂げ、自身初のオールスターにも選出された。パイレーツのペドロ・アルバレスとの熾烈なホームラン王争いが続いているが、9月の残り試合でゴールドシュミットがホームランを打った時に実況が必ず言う"Goldy Goldy Gone!"のフレーズをあと何回聞けるか実に楽しみである。
しかし誤算も多かった。リードオフとして期待していたアダム・イートンが開幕直前に左肘の故障で離脱し、出鼻をくじかれば、アプトンのトレードで獲得したマーティン・プラドが7月初頭までOPS6割台に苦しむ予想外の事態も発生。その他ミゲル・モンテロ、ジェーソン・クーベル、コディー・ロスといった選手達も平凡な成績に終わるなど打線が完全にゴールドシュミット頼みとなってしまった。アーロン・ヒルが4月中旬から6月下旬まで離脱したのも痛かった。


投手陣のハイライトはやはりパトリック・コルビンだろう。元々ダン・ヘイレンのトレードで2010年にエンジェルスから加入した左腕は昨年から本格的に先発ローテに定着。今季は開幕9連勝を記録するなど絶好調で、こちらもゴールドシュミット同様にオールスターに初選出されている。27先発13勝5敗、防御率2.96、WHIP1.07、160K/46BBと全体で見ても素晴らしい成績を残しているが、後半戦は防御率4.47と調子を崩している。コルビンの不調がダイアモンドバックスの勝敗にダイレクトに影響を及ぼしていることは言うまでもない(後半戦は負け越している)。

セプテンバーコールアップでのトッププロスペクトの昇格も特にないため、現行体制で残り27試合を戦っていくことになるが、チームとしては来年にも繋がるという点で昨年の81勝81敗を上回る成績をなんとか残したいところだろう。


  • コロラド・ロッキーズ: 64-73


昨年は64勝98敗でNL西地区最下位に終わったロッキーズだが、今年は負け越しながらも一定の改善は見せている。

特に打撃に関してはリーグトップクラスの数値を記録している。600得点はカージナルスに次ぐリーグ2位、チーム打率も.266で同2位タイ、HR145本で同3位、OPSに関しては.739で同1位とあらゆる打撃部門で上位の成績を残している。
一番の要因はカルロス・ゴンザレス、トロイ・トゥロウィツキー、マイケル・カダイヤーのOPS9割トリオの活躍が大きいだろう。ゴンザレスが.302/.367/.591、26HR、70打点(現在DL入りしているが)、怪我から完全復活を果たしたトゥロウィツキーが.317/.390/.558、22HR、68打点、5月から6月にかけて27試合連続ヒットを記録し、話題となったカダイヤーが34歳のシーズンにして.328/.389/.540、18HR、71打点とキャリアベストを大きく上回るペースで打ち続けている。OPS9割台の選手が3人並び、この他にも今季20HRのウィリン・ロザリオ、意外な長打力を秘めるデクスター・ファウラー、ロッキーズ打のトッププロスペクトであるノーラン・アレナド、打撃に定評のある若手有望株コリー・ディッカーソンが名を連ねる打線は相手投手からすればなかなかに厄介だ。打のタレントだけ見ればなぜ負け越しているのか不思議に思ってしまうくらいである。

このチームの最大の問題は投手陣である。600得点しても613失点すれば負け試合が増えるのも必然ともいえる。15勝、防御率3.33のホルヘ・デラロサ、13勝、防御率3.08、WHIP1.19のジョーリス・チャシーンの踏ん張りと若干運に恵まれてる感が否めないがタイラー・チャットウッドの意外な活躍で先発ローテ崩壊とまではいかないが、4番手以降として起用されたフアン・ニカシオ、ジョン・ガーランド、ジェフ・フランシスが揃って打ち込まれている。この状況を打開するべくチャド・ベティス、ドリュー・ポメランツ、ロイ・オズワルト、ジェフ・マンシップも試してみたが4人計18先発0勝15敗、防御率6.46とあまりに悲惨な成績に終わっている。ブルペンも離脱したラファエル・ベタンコートの代わりに新守護神に就任したレックス・ブラザーズの活躍が光っている以外は微妙な成績となっている。

日本でいえば今年の横浜DeNAベイスターズのようなチーム状況だが、来季以降に向けて投手陣立て直しの策を練らなければならない。


  • サンフランシスコ・ジャイアンツ: 60-75


昨年、ワールドチャンピオンの栄冠に輝いたチームはいったいどこへ消えてしまったのだろうか。シーズン前の大方の予想では今の時期はドジャースと熾烈な優勝争いを繰り広げているはずだったが、まさか10以上の借金を抱えて9月に突入する展開になるとは誰も予想しなかっただろう。

メンバーに大きな入れ替えはなかったが、主力のほとんどが軒並み成績を落としている。2012年NL MVPのバスター・ポージーはここまで.308/.376/.476、14HR、69打点と悪くない成績ではあるが、やはり昨年と比較してしまうとどうしても物足りなく感じてしまう。「カンフーパンダ」ことパブロ・サンドバルはここ3年間で一番健康なシーズンを送っているが(それでも一度DL入りしている)、肝心の打撃は.271/.329/.394、10HR、64打点と本来の力を発揮できていない印象だ。不動のリードオフとしてワールドシリーズ制覇に大きく貢献したアンジェル・パガンの長期離脱もチームに大きな影響を与えた。唯一好材料なのがブランドン・ベルトの成長。すでにキャリアハイの15HR、OPSも.826とメジャー3年目にして開花の兆しが見えてきた。

投手陣も誤算が多かった。昨年16勝、防御率2.79、WHIP1.04と先発ローテの柱として大活躍だったマット・ケインが今季はまさかの8勝8敗、防御率4.43、WHIP1.14と乱調。特に昨年よりも60イニング以上少ない投球回数にもかかわらず、被本塁打数が昨年と同じ(21本)なのが防御率悪化に直結している。また阪神、オリックスでプレーした過去を持つライアン・ボーグルソンも昨年までとは打って変わって3勝4敗、防御率5.49、WHIP1.55と成績が大幅に悪化してしまった。こちらもケイン同様、被本塁打数の増加が成績にダイレクトに響いている。ただ8月9日にDLから復帰して以降は5先発で4度のQSを記録するなど調子を取り戻しつつある。2008年、2009年に2年連続サイ・ヤング賞に輝いたティム・リンスカムは昨年よりも幾分マシにはなったが、微妙な成績に終始している。7月13日のパドレス戦でノーヒッターを達成した際には多くのファンがリンスカム復活に期待を寄せたが、その後も不安定な投球が続いている。孤軍奮闘しているのが24歳のマディソン・バンガーナー。27先発で11勝ながらも防御率2.91、WHIP1.04、168K/55BB、QSも18回と安定感がさらに増した。
投手陣全体で見れば、やはり自慢の先発陣がバンガーナーを除いて総崩れしてしまったのがジャイアンツ不調の大きな要因の一つであろう。残り少ない登板機会でなんとかある程度のところまで立て直せるかどうかがポイントとなりそうだ。


  • サンディエゴ・パドレス: 60-75


昨年同様、今年も苦しい戦いを強いられているパドレス。なかなか思うように勝ち星を挙げることができず、ジャイアンツと僅差ながらもNL西地区最下位に沈んでいる。

最大の要因はチェイス・ヘッドリーの不振だろう。昨年打者不利のペトコパークを本拠地としながら、.286/.376/.498、31HR、115打点とついに打撃面で大ブレイク。ペトコパークの改修で今年はさらなる活躍が期待されていた。しかしスプリングトレーニングに左手の親指を骨折し、開幕をDLで迎えると、復帰後も去年のような打撃を取り戻すことはできず。ここまで117試合に出場し、.240/.331/.368、8HR、36打点と期待外れの内容となっている。
ただヘッドリー以外のメンバーに関しては悪いことばかりでもない。ウィル・ベナブルは長打力に大きな成長が見られ、20HR、長打率も.506はいずれもキャリア最高の数値となっている。ルーキーのジェド・ジョーコも打率.249ながらも16HRと来季以降に期待が持てる成績、カイル・ブランクスやヨンダー・アロンソもわずかながら成長が見られる。

投手陣は本格的に先発転向を果たしたアンドリュー・キャシュナーが台頭。28試合に登板し(23先発)、8勝8敗、防御率3.45、WHIP1.24、151回1/3を投げて107K/46BBと奪三振数は以前と比べ大幅に減ったが、その分BB/9が2.7とコマンド面で改善が見られる。
またトレードデッドラインには周囲の予想に反して買い手に回り、来年以降も見据えてダイアモンドバックスからイアン・ケネディを獲得。2011年には21勝を挙げた右腕だが、ここ2年間は被本塁打数の増加に苦しみ、成績を落としていた。 彼が再び2011年のようなピッチングを披露するか否かは誰にもわからないが、少なくとも投手有利のペトコパークへの移籍はケネディにとってもプラスであろう。パドレス側もそれを見越しての獲得だったと推測できる。

ここまでつらつらとプラスの側面を書いてきたが、勝負をかけるシーズンはまだまだ先の話。しばらくはその下準備の期間が続くだろう。今年の9月は各選手にとって来年の成長に繋がる有意義なものであってほしいところである。



Text by Hayato UWAI
写真: http://www.flickr.com/photos/bob_in_thailand/9304007283/