「民謡」という言葉を聞いて、日本人はどのような音楽を思い浮かべるだろうか。おそらく多くの日本人は「その地域に昔から根付き、歌い継がれている伝統的な音楽」と思うであろう。しかし、これが中国では少々事情が異なる。中国民謡を素材に中国の音楽事情を見てみよう。

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日本経営管理教育協会が見る中国 第223回−高橋孝治(日本経営管理教育協会会員)                 

  「民謡」という言葉を聞いて、日本人はどのような音楽を思い浮かべるだろうか。おそらく多くの日本人は「その地域に昔から根付き、歌い継がれている伝統的な音楽」と思うであろう。しかし、これが中国では少々事情が異なる。中国民謡を素材に中国の音楽事情を見てみよう。

 無論、中国にも日本人が想像するような、昔から歌い継がれてきた民謡も存在する。康定情歌(四川民謡)、茉莉花(江蘇民謡)、信天遊(陝西民謡)、黄土高坡(山西民謡)などがその例として挙げられる。

 しかし、その一方で明らかに昔から存在していたとは思えないような民謡も存在する。山丹丹花開紅艶艶、軍民大生産、解放区的天、翻身道情(すべて陝西民謡)などがその例である。これらがなぜ昔から根付いていたと言えないのかというと、全て中国共産党を賛美する曲だからである。中国共産党の結党は1921年であり、これらの曲もそれ以降に作られたことは明らかである。一体これはどういうことなのであろうか。

 その答えは、「メロディーはもともと昔からあったのだが、歌詞がなかった曲に1940年代半ばの国共内戦期に中国共産党が自分たちを賛美する歌詞を付けた」ということなのである。(国共内戦とは、1927年〜1949年に行われた国民党と共産党による内戦のことである。特に両者が全面戦争に突入した1945年〜1949年のことを指す場合もある。)中国共産党は国共内戦期や中華人民共和国建国初期の頃には、共産党の支配が国民党に比べどれだけ素晴らしいかを宣伝するために様々な方法を取った。その方法として、音楽、小説、漫画、映画などを使って中国共産党の素晴らしさを宣伝したと言われている。その時の音楽がこれらの民謡なのであろう。

 日本においても第2次世界大戦中は、音楽を活用し、類似した国威発揚が行われたし、欧米でも類似のことが行われており、中国だけのことではない。

 このような歴史を知れば、中国共産党賛美の民謡が存在するのも合点がいく。しかし、中国の音楽店で売っている民謡のCDを手に取ってみると、先に挙げた伝統的な民謡と同じCDに中国共産党賛美の民謡が収録されている。これは近年の日本人にとっては多少違和感があることかもしれない。

 さて、中国での民謡の扱いが日本と異なる箇所はまだある。それは民謡をポップスとして扱うということである。中国の音楽界には朱明瑛という偉大な女優がいる。この女優は、民謡や革命歌しかなかった中国に流行歌(ポップス)という言葉を持ち込んだと言われる人である。しかし、そんな朱明瑛のヒット曲として挙げられるのは「回娘家」である。回娘家はもともとは河北民謡である。中国にポップスを伝導した女優のヒット曲が民謡というのは、これまた違和感のあることであろう。

 しかし、中国では現在も若手の歌手がポップスと共に民謡を唄うということはよくあることである。中国では民謡のポップス化アレンジも盛んである。

 昔から存在する民謡、共産党の賛美歌となった民謡そしてポップス化した民謡、中国民謡にもいろいろなものがある。音楽CDに収録されている曲からも中国の様々な様子が見えてくる。今後、中国音楽を聞く機会があれば、このようなことにも興味を持って聴いてほしい。(執筆者:高橋孝治・日本経営管理教育協会会員 編集担当:水野陽子)