マーリンズスカウトも惚れた佐々木麟太郎の“素顔” 浜田省吾を愛する青年は、なぜMLBで評価されたのか?「リンタロウは本当に絶賛されていた」【現地発】

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スタンフォード大の仲間たちからも信頼を深め、確かなケミストリーを築いていた佐々木(C)Getty Images

米球界でも評価された「パーソナリティー」

 佐々木麟太郎の新しい挑戦が始まろうとしている。

 現地時間7月11日から2日間に渡って行われたMLBドラフトでマーリンズから8巡目、全体235番目指名を受けた佐々木は、昨秋のNPBドラフトでソフトバンクから受けた1位指名と熟考を重ねた末に、マーリンズに入団してメジャーを目指すことを発表した。今後、その一挙一動にこれまで以上に熱視線が注がれるのだろう。

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 そんな佐々木はスタンフォード大学時代から、浜田省吾の「J.BOY」「家路」を登場曲として使い続けている。マーリンズからドラフト指名されたルーキーたちがマイアミにある本拠地のローンデポパークを訪れた7月24日のこと。「メジャーに上がっても同じ曲を使用するつもり?」と問うと、佐々木は嬉しそうに頷き、同じく“ハマショー”の曲を好む筆者に「なぜファンなんですか? 同じ世代なんですか?」と逆取材をしてきたほどだった。

「『家路』も最初使ってましたけど、『J.BOY』は、みんなが歌ってくれるので、(使用を続けたのは)それが大きな理由ですかね。わかりやすくていいんじゃないかなと。自分自身も好きな曲ですし」

 2年生のシーズン中に本人がそう述べていたように、「J.BOY」は一部のアメリカ人学生たちが合唱できるほどに浸透していた。浜田省吾について話す時の佐々木の嬉しそうな顔は印象的であり、これから先もテーマ曲であり続けるのだろう。

 それにしても、21歳の若者が73歳になった大ベテランシンガーの音楽を好むとは――。かなり渋い趣味であるが、成熟した佐々木のパーソナリティーを知っている者なら、あるいはそれほど意外には思わないかもしれない。

 プレー面での佐々木と言えば、なんといってもパワーだ。高校通算140本塁打、スタンフォード大でも2年間で23本塁打、2年生時にはOPS.952を記録した長打力が代名詞になっている。

 MLBドラフト直前に実施されたドラフト・コンバイン(ドラフト候補生の能力やコンディションを合同でテストする会)で全参加者中2位の飛距離を放った数字が示す通り、打撃のパワフルさはメジャーでも通用してお釣りがくるほど。それと同時に、若さに似ぬ聡明さ、思慮深さでもメディアや球界関係者の間で評判になってきた。

自慢のパワーという絶対的な長所がある一方で、佐々木には明確な課題も存在する(C)Getty Images

マーリンズは佐々木をどう育てるのか? 入団決定後の対応に見る「未来」

「スタンフォード大のスタッフは、リンタロウのことを本当に絶賛していた。どれだけ素晴らしいチームメートであるか、最初の日からどれだけ指導を受け入れる姿勢があったか、どれだけ謙虚だったかをね。日本で非常に注目されてきた選手だからこそ、本当にコーチの言葉を聞く選手かどうか、いいチームメートであるかを確認したかったんだ」

 佐々木のスカウティングを担当したマーリンズのナショナル・スカウティング・コーディネーターであるスコット・フェアバンクス氏がドラフト直後にそう語っていたのも思い出される。人格面の豊かさも指名を踏み切る一因になったのだろう。少々こじつけに近いが、それほど思慮深い21歳なら、メッセージ性の高さゆえにコアなファンが多いとされる“ハマショー”のファンなのも納得できる気がしてくるのだ。

 今後、佐々木はマーリンズのトッププロスペクトの一人として話題を集めていくに違いない。

 すでに日本における関心の高さを察知したマーリンズは、8巡目指名選手としては「異例」の個別入団会見に、エグゼクティブのリモート会見も行った。2017年までイチロー氏が、在籍したチームは日本マーケットの動きも熟知している。それだけにニュース価値の高い、“新たな金の卵”を英才教育していくはずだ。

 それだけの期待を集めるということは、求められるもの、本人が感じる重圧が大きくなることを意味する。そしてご存知の通り、佐々木はツール面で必ずしも多くを兼備したタイプではない。パワーは確かに飛び抜けている。だが、守備、走塁には、まだ向上の余地がある。打率はカレッジ2年連続で2割6分台だったことが示す通り、確実性も改善が必要になる。

 実際、米球界関係者の中には、「長所であるはずの打撃もプロレベルでは苦しむのではないか」と話していた者もいた。メジャー挑戦、日本球界入り、スタンフォード大残留という3つの選択肢の中から最も厳しい場所を選んだのから、マイナーでキャリアを積む過程で早い段階から苦しんでも驚くべきではない。

難しい道であることは覚悟の上。それでも佐々木はメジャーリーグに挑むのだ(C)Getty Images

マッカラー監督が語った初対面での会話

 しかし、だ。佐々木に関して心強いのは、自分自身の立ち位置をしっかりと認識できていることだ。マーリンズ入団発表時の声明でも、「自分自身に力が足りていないのは、皆様以上に自分でも理解しております」と記していた。

 これまでスター街道を走ってきた選手ながら、奢り、過信らしきものはまったく存在しない。自身を客観的にも見られる冷静さがある。これから壁にぶつかった時、難しい時期にさしかかった時、その聡明さ、性格の良さは大きな助けになるのではないかと思えてくるのだ。

「(佐々木の印象は)すごく良かったよ。とてもいい質問をしていた。うちの選手たちの練習を見ながら、打者のアプローチや、相手投手によってどう考えるべきかといったことを質問してきた。彼は本当に興味深い経歴の持ち主だ。日本からスタンフォードへ進み、そこでプレーし、ドラフト指名を受けた。球団として彼を迎えられて嬉しく思うし、将来的には我々が期待しているような長打力を発揮してくれると信じている」

 佐々木と初対面した7月24日。マーリンズのクレイトン・マッカラー監督は感心したような表情でそう述べていた。未完成のスラッガーがこれから挑むのは世界最高峰のメジャーリーグ。夢の場所に辿り着くために、指揮官を感嘆させた謙虚さ、勉強熱心な姿勢は絶えず必要であり続けるに違いない。

 人生の目的地について謳った浜田省吾の「家路」の中に、「どんなに遠くてもたどり着いてみせる」というフレーズがある。そのストレートな歌詞のように、たとえ険しくても、時間がかかっても、前に進んでいってほしい。真摯な姿勢を保ったまま、佐々木がメジャーという檜舞台に一歩ずつ近づいてくれると願いたいところだ。

[取材・文:杉浦大介]