人間関係のストレスで老いが加速、お金の不安で死亡リスクが急上昇…最新研究「老化は心から始まる」
嫌なことがあったり、嫌いな人に会ったりすると、どっと疲れてしまうことがある。じつはそのストレスが、老化を速めているかもしれない。
ストレスが慢性炎症を引き起こす
運動不足や睡眠不足、偏った食生活は老化を速める要因として、広く知られている。
だが近年、老化を加速させるもう一つの大きな要因が、「心」の状態の悪化であることが明らかになりつつある。
老化と心の研究が大きく前進したのは'04年に遡る。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームが、慢性的なストレスによって、老化の目安となる、染色体の末端にあるテロメアが短くなっているのを突き止めた。
つまり、ストレスは気分を落ち込ませるだけではなく、細胞レベルで体を老けさせることがわかったのだ。この発見を皮切りに、心の状態と生物学的老化の関係を探る研究が世界中で進んでいった。
老化は心から始まる―では、老化を速める「心のストレス」とは、具体的に何なのか。その一つが、人間関係によるストレスだ。
人の社会行動と老化の関係を研究している米インディアナ大学社会学教授のブレア・ペリー氏が解説する。
「社会疫学や老年学の研究では、これまで数十年にわたって『社会的なつながりは健康にいい』と言われ続けてきました。友人が多い人ほど長生きしやすいというのは、たしかにその通りです。ただ、人間関係は健康に良い影響だけでなく、悪い影響も与える可能性があることが、近年の研究でわかってきました」
「厄介な人」1人につき9ヵ月分老化
それを示すのが、ペリー氏らのチームが'26年2月に発表した研究成果だ。米インディアナ州の健康調査に参加した18〜103歳の2345人分のデータを分析したという。
「私たちは参加者の唾液からDNAを採取し、生物学的老化を2つの指標を用いて調べました。すると、英語で「ハスラー」と呼ばれる、『人をイライラさせる人』が身近な人間関係の中に1人増えるごとに、老化速度は約1・5%速まり、およそ9ヵ月分老けていくことがわかったのです」(ペリー氏)
ストレスが長期間続くと、体の中では「ストレスホルモン」とも呼ばれるコルチゾールが過剰に分泌される。その結果、免疫系にも影響が及び、慢性的な炎症が生じやすくなるという。この慢性炎症は、動脈硬化や糖尿病を引き起こし、さらには認知機能の低下まで招きかねない悪の権化だ。
ここで注意しなければならないのは、ハスラーは意外にも配偶者や親友などの身近な人とは限らないという点だ。
ペリー氏が続ける。
「参加者の人間関係のネットワークを調べたところ、ハスラーは、たまに顔を合わせる親戚や、あまり近しくない家族、職場の知人といった、比較的つながりの薄い相手であることが多いとわかったんです」
老化への不安がさらに老化を加速させる
また、健康調査の参加者の約3割が、身近に少なくとも1人はハスラーがいると回答したというから、決して他人事ではない。煩わしい相手とは距離を置くに越したことはないが、簡単にはいかないことも多いもの。無理のない範囲で距離を取り、あまり気に病まないことが大切だ。
老化に影響を与える精神的なストレスの原因は、人間関係だけではない。健康、お金、老い―誰しも様々な悩みを抱えて生きているが、そうした悩みが老化を速める可能性があるというのだ。
米国の大規模調査「MIDUS(Midlife in the United States)」('26年2月に発表)のデータをもとにした研究がそれを示した。研究を率いたニューヨーク大学グローバル公衆衛生学大学院のマリアナ・ロドリゲス氏が解説する。
「私たちが注目したのは、実際に健康を損なっているかどうかではなく、『年をとれば体が弱っていくのではないか』という、あくまで主観的な不安です。
分析の結果、『病気になるのではないか』『体が思うように動かなくなるのではないか』と強く心配する人ほど、老化速度も速いことがわかったのです」
ほかにも、'25年12月に発表された米メイヨー・クリニック心臓血管研究センターの研究によると、経済的な不安は心臓の老化を速め、死亡リスクを60%も上昇させるという。また、東フィンランド大学の研究では、他人に対する不信感が強く、シニカルな見方をする人は、そうでない人に比べて認知症のリスクが3倍も高いことがわかっている。
「老いやお金についての不安は、悪いものだからなくすべきだと主張したいわけではありません。ただ、物事をどう捉えるかという主観的な感覚が、実際に体の健康にまで影響することは知っておいたほうがいいでしょう。だからこそ、時には深刻に考えすぎず、割り切ることも大切なのです」(ロドリゲス氏)
【後編を読む】あまり笑わない人は要注意、「ありがとう」を口にすると健康に…驚きの最新研究で判明した「老化と心の密接な関係」
「週刊現代」2026年8月3日号より
【後編を読む】あまり笑わない人は要注意、「ありがとう」を口にすると健康に…驚きの最新研究で判明した「老化と心の密接な関係」

