DH制導入で打線強化のはずが総得点20%減。高校野球が「エースで4番」の物語を捨て始めたワケ
ジャーナリストの森田浩之氏は、DH制によって打線が強化される一方、それ以上に投手の負担軽減や継投の自由度が高まり、高校野球はむしろ投高打低へ向かう可能性があるとみる(以下、森田氏による寄稿)。
高校野球に今年から導入された指名打者(DH)制には、投手の負担を軽くする効果が期待されていた。打席に立たずに済めば、体力を温存でき、酷暑の中でも球威を保ちやすくなる。そして打線には「打てる」選手が9人並ぶのだから、攻撃の迫力は増し、これまで以上に打撃戦になる──。そんな見方が多かった。
ところが今春のセンバツで、意外な傾向が見えた。総得点が前年から20%近く減ったのだ。この夏の一部の地方大会では、送りバントの大幅な減少も伝えられている。
攻撃力を高めるはずの制度の下で、なぜ投高打低の傾向が表れているのか。投手は打席に立たなくなった分、終盤まで力を維持しやすい。打線は強くなったが、それ以上に投手が強くなったのだ。
監督の采配も変わる。DH制では、打順が回るタイミングを気にせず、投手交代を決断できる。継投の自由度が高まり、疲れた投手を早めに代えやすくなった。相手打線からすれば、投手が崩れ始めるところを攻める機会が減る。
送りバントの減少傾向も興味深い。これまで高校野球は、1点を取りにいく競技だった。だがDH制では、打てる選手が9人並ぶため、送りバントという従来の定石が見直されているのかもしれない。DH制が変えたのは投手の打席だけではない。高校野球の戦い方そのものも変え始めている。
◆「エースで4番」から分業制へ
DH制を近年のほかの改革と重ねてみると、さらに大きな変化が見えてくる。投手の球数制限、延長戦でのタイブレーク、最も暑さの厳しい時間帯を避けるため試合を分けて行う2部制、そしてDH制。高校野球が近年進めてきたこれらの改革を一本の線で結ぶなら、「エース一人に勝敗を託す野球」から、「チームが役割を分担して勝つ野球」への転換と見ることができる。
それは、「エースで4番」を中心とする野球からの緩やかな脱却でもある。高校野球では長いこと、一人の英雄がチームを背負う物語が観客を魅了してきた。投打の両面でチームを引っ張る彼らは、高校野球の花形だった。
以前は、エースの献身によって勝敗が左右されることも、高校野球という競技の設計の一部だった。いまは、一人に背負わせなくても勝負が成立するように、競技の仕組みの組み替えが始まったようだ。
怪物級のエースが試合を支配する物語は、これからも高校野球の大きな魅力であり続けるのだろう。だが高校野球は、その物語だけに頼らない競技へと、静かに姿を変え始めている。
<文/森田浩之>
【森田浩之】
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など
