大貫勇輔×柚希礼音×KELOが“PASSION”を実感する瞬間「何物にも代えがたい」
■“ダンスエンターテイメント演劇”に驚き「想像していた以上に芝居」
――ダンスエンターテイメント演劇ということで、どんな作品になるのかうまくイメージできていないのですが、みなさんはどのように受け止めているのでしょうか。
大貫:最初はダンス公演だと聞いてたんですよ。僕にとって久しぶりのダンス公演で、しかも、ちえ(柚希)さんとKELOさんとご一緒できる。どんな感じになるのか、本当に楽しみでした。でも、いただいた台本に目を通してみたら、めちゃくちゃセリフがありそうで。
柚希:私もとにかく踊る企画だと聞いていたのですが、蓋を開けてみたら想像していた以上に芝居になっていて(笑)。
――これはダンス公演じゃないぞと……。
大貫:そう(笑)。でも、脚本が本当にすばらしくて、3回も泣いちゃったんですよ。かつての僕にとって北斎は、「富嶽三十六景」を始めとする絵のイメージしかなかった。ただ、『八犬伝』(2024年)という映画に参加させていただいたときに、彼がいったいどういう人間だったのか、その深部に触れることができたんです。すごく変わっていて、とんでもない人なんですよね。
――そうなんですね。
大貫:何度も引越しをするし、女たらしで結婚を繰り返しては、家庭を顧みることなく絵ばかり描いている。“絵馬鹿”というか、狂ったように絵に向かい続けた人生だったんですよね。そんな彼という人間を、まさか自分がダンスで表現することになるなんて。
――でも、踊りだけじゃなくて、セリフのあるお芝居でも表現することになるわけですね。
大貫:そうです。踊りで表現するのと芝居で表現するのは、近いようでまったく違う。踊りなら抽象度が高いまま表現できるけど、セリフとして言葉を発するとなると、演じる人物をしっかりと自分の中に落とし込まないと表現できない。だから台本に記された膨大な情報を目にして、ちゃんと勉強しなきゃダメだと思いましたね。この公演ではダンサーとしても、役者としても、大きな勝負をすることになりそうです。
――柚希さんはいかがですか?
柚希:私が表現することになるのは、北斎の“情熱”と“理想”です。ロミオとジュリエットにとっての、“死”みたいなものをイメージしています。とはいえ、まだ台本をいただいたばかりの段階ですし、いったいどんなことになっていくのか分からない。赤レンガ倉庫のような演者とお客様の距離が近い会場で、こんなにすばらしい表現者たちとコラボレーションできるのが楽しみで仕方ないです。
――北斎の“情熱”と“理想”をどう表現されるのか、まったく想像できません。
柚希:私自身もそうなのですが、この役割を担わせていただけることに、とてもワクワクしています。ショーのように踊りだけをお見せするのではなく、彼の心情に触れるためのストーリーにも、観客のみなさんは触れることになる。北斎はなぜあんなにも絵ばかり描き続けたんでしょうね。私たち3人の内なる情熱と呼応して、化学反応を起こして、その真相に近づいていけたらと思っています。
――踊りが作品の主軸にあることに関してはいかがですか?
柚希:身体で何かを表現するのはすごく好きです。でも、そういった機会は滅多にありません。だからこの貴重な機会を大切にして、エンターテイメントやアートの深みに触れたいですし、このお2人とならできそうな気がしています。
大貫:ほんと、そうですね。
――KELOさんはどうですか?
KELO:お2人は本当にいろんなステージに立ってこられたと思うのですが、僕はダンスしかやってこなかったから、これは初めてで大きな経験になるに違いないと思っています。
――KELOさんもKELOさんで数々のステージに立ってきたはずですが、確かにお2人とはまた違いますよね。
KELO:そうなんですよ。僕の表現の場合は、ストリートダンスの現場がメインだったから。だから今回はお2人からいろんなことを学ばせていただくことになるだろうし、僕は僕にしかできないことをやれたらと思ってるんです。
――柚希さんが北斎の“情熱”と“理想”を表現されるのに対して、KELOさんが表現されるのは“世間”や“常識”、“現実の価値観”だそうですね。
KELO:北斎の抱える不安や恐怖など、内面的なものを表現していくことになります。演出のKAORIaliveさんからは、この現代社会に対して僕らが感じる不安や恐怖も表現してほしいと言われています。これをどう体現していくか、僕は僕の役目をまっとうしていけたらなって。台本が用意されていて、しかもこんなにテキストが与えられる経験は初めてなので、大きなチャレンジになりそうです。
■3人が“PASSION”を実感する瞬間とは
――みなさんが「PASSION=情熱」を実感する瞬間についてお聞きしたいです。創作活動においても、日常の中でのことでも。
大貫:僕はやっぱり仕事ですね。自分の軸にあるのはダンスですが、ここしばらくは俳優活動が多くなってきました。俳優として役に向き合っている時間って、何物にも代えがたいんですよね。人生で出会うすべての出来事を役に生かすことができるし、こんなに面白い仕事はありません。やればやるほど、そう思います。そして今回の台本を読んでいて、ふとあることに思い至りました。
――それは何でしょう?
大貫:プロフェッショナルとは何なのか、ということです。自分にとって情熱を向けられるものは何なのか。それを追求していくと、プロになる人がいますが、なれない人もいます。でもじゃあプロって、どこからプロだと言えるんでしょうね。それが仕事になって、お金をもらえたら、プロだと言えるのか。いや、そうじゃない。
――別の基準があると。
大貫:やっぱり、覚悟と責任だと思うんです。北斎は絵を描くことにおいて、誰よりもその情熱と覚悟と責任があった人間なんですよね。そしてそれは、実は決して特別なものではない。
――どういうことでしょう?
大貫:人は誰しも、必ず何かのプロフェッショナルだと思うんですよ。そう思いませんか?
――ええ、確かに。何かしらのプロですね。
大貫:その観点から言えばこの作品は、すべての人に通ずるであろうテーマを持っています。何かに向き合う中で、壁にぶち当たることは必ずやある。そこでやめてしまうのか、それとも突き進むのか。人生って、この葛藤と選択の連続じゃないですか。そこでどんな決断をしても、きっと間違いじゃない。ただ北斎の場合は、いつまでもどこまでも突き進んだ。そこが彼の偉大さです。そして僕自身、彼のように生きていきたいと強く思っています。今まさに自分の中に「PASSION」があるのを感じていますし、この情熱を持ち続けたまま、稽古にも本番にも臨みたいですね。
柚希:私も同じで、やっぱり仕事ですね。舞台上に立っていると、ときに予期せぬほど、自分の中のものがあふれ出る瞬間があるんですよ。あのとき、舞台に立っているようで、どこか違うところに立っているのを感じます。でもそういう瞬間って、頻繁に訪れるわけではありません。私はあの瞬間を求めて、ずっと舞台に立ち続けているのかもしれません。
――プロとして葛藤しながら。
柚希:そうですね。北斎は自分の好きなことにとことん向き合い続けました。今の社会では大人になると、いろいろと我慢をしなくちゃならないことが増えてきますよね。限界を感じてしまったり、周囲の目を気にしてしまったり。でも、自分の素直な気持ちを何よりも大事にすべきだと私は考えているし、みなさんにも大切にしてほしい。だからこの作品を通して、そのことをお伝えできたらと思いますね。
――KELOさんが「PASSION」を実感するのは、やはり踊っている瞬間ですか?
KELO:そうですね。僕が情熱を注いできたのは、やっぱりダンスです。自分の踊りを見た誰かの気分が明るくなったり、元気が出たりすることがあるのなら、この表現は情熱を懸けるに足る。そう思っているし、これからもそう信じています。
――最後に、みなさんは本作をどのような方々に観てほしいと思っていますか?
大貫:きっとこれは、この世に存在する舞台芸術作品の中で、少数派のものになるに違いない。横浜の赤レンガ倉庫は特別な空間で、この劇場だからこそ立ち上げることのできる作品になるはずだと思います。ちえさんが言ってたように、赤レンガ倉庫って本当に演者と観客の距離が近いですからね。
柚希:ね。演者の呼吸が感じられる空間だし、汗が飛んでくるんじゃないかっていうほど。
大貫:劇場にいる誰もが、作品の一部になっていると感じられる空間ですよね。密な空間で、きっと没入型の新鮮な体験ができるはずです。
柚希:それも、KELOさんという世界的なダンサーのパフォーマンスに触れることができる、特別な機会です。ダンス好きな方はもちろんのこと、私がこれまで関わってきたようなミュージカルが好きな方々、そして芸術に関心のあるみなさまに、ぜひいらしていただきたいですね。
KELO:子どもから大人まで、ダンスをしている人も、ダンスを知らない人も、あらゆる人々に開かれた作品になるんじゃないかと思います。ぜひ来ていただけたら。お待ちしています。
(取材・文:折田侑駿 写真:中田智章)
ダンスエンターテイメント演劇『PASSION ‐ 北斎の描く夢 ‐』は、10月22日〜11月3日まで横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホールにて上演。

