「本当に、みんなに合わせる顔がない……」60歳で定年を迎えたばかりの〈年金見込み216万円〉元サラリーマン、猛省。初孫との愛おしい日々から2年、震える声で「じぃじが全部悪かった」と懺悔した理由【FPが解説】
子どもの数が少なくなった現代だからこそ、一人の孫に注がれる愛情とお金の総量は、かつてないほど肥大化しています。シニア世代にとって、特に初孫の誕生は人生最高のイベントであり、時に理性を失ってしまうことも……。本記事では、Aさんの事例から、リタイア後の孫育てについて、合同会社ミコサポ代表の三藤桂子FPが解説します。※事例はプライバシー保護のため、一部脚色しています。
初孫が男の子で大歓喜
Aさんは60歳で定年を迎え、もともとは再雇用で働く予定でした。しかし、その時期にちょうど、1年前に結婚した長男の嫁の妊娠・出産が重なります。生まれた子どもは、Aさんにとって待望の初孫。しかも男の子だと知った瞬間、Aさんは「でかした! 跡継ぎだ」と、1人で歓喜の声をあげました。
実は、Aさん自身も長男です。下に妹が2人いますが、Aさんの両親は昔ながらの家父長制を引き継いだ考え方を重んじる人たちでした。「長男が家を継ぐ」と育てられたAさんは、実家で常にVIP待遇。跡継ぎのため厳しく育てられましたが、その分、可愛がられたのを覚えています。その象徴ともいえるのが学歴で、Aさんだけが大学へ進学し、妹たちは高校卒業と同時に就職するという具合でした。
自分と同じ「長男のなかの長男」が生まれた嬉しさから、Aさんは現役続行の予定をあっさりと返上し、早々の完全引退を決意します。Aさんの長男は家族とともに少し離れた場所に暮らしていたこともあり、「退職金で二世帯住宅にリフォームするから、うちに来なさい」と呼び寄せました。大人しい性格の長男は、幼いころから父の敷いたレールを素直に歩んできたため、今回も反対することなく妻を説得。こうして、二世帯同居が始まったのです。
嫁との「約束」を無視して始まった、溺愛孫ライフ
Aさんの息子夫婦は共働きです。嫁は、育児休業を取得していましたが、子が1歳になるタイミングで復職するため、近くの保育園を探したものの、どこにも空きがありません。保育園探しに困っていると息子から聞いたAさんは、ここぞとばかりに胸を叩きました。
「孫の心配はしないで大丈夫だ。じぃじとばぁばに任せなさい!」
息子の嫁は、「甘やかし過ぎないか心配。保育園で集団生活を学ばせたいのですが」と躊躇いましたが、Aさんの熱意に押された息子から説得され、しぶしぶ了承。ただし、空きができたらすぐ保育園に入れる、必要以上にお菓子や玩具を買い与えない、といったルールを決めました。
しかし、念願の「跡継ぎ」との生活に舞い上がるAさんは、そんな嫁の言葉を右から左へ聞き流します。平日の昼間は、Aさんの妻が食事などの家事を担い、Aさんがひたすら孫を可愛がるという、“溺愛孫ライフ”が幕を開けました。
当時、孫はまだ1歳。ようやく一人で歩き始めたばかりで、目が離せない年ごろです。Aさんは当時61歳。体力にはそこそこ自信があったものの、頻繁な抱っこや、小さな孫の目線に合わせて身を屈める動作は、想像以上に老いた腰へと負担をかけていきました。
それでも孫が可愛い一心で、公園遊びに疲れると、毎日のようにお菓子や玩具を買いに出かけます。特に夏場や雨の日は、エアコンの効いたショッピングセンターに連れていくと孫も大喜びです。
「過剰な甘やかし」の証拠
それから2年が経ち、孫は3歳になっていました。嫁は、夫(Aさんの長男)に近ごろの悩みを吐露しました。
「最近、子どもがすぐ癇癪を起すの。私たち夫婦ともにわりと大人しい性格だと思っているけれど、3歳だとそういう時期なのかしら? 早くに保育園にいれて、集団生活を学ばせたほうがいいかも」
危機感を覚えた息子から「父さん、毎日面倒をみてくれているのには本当に感謝しているけれど……お菓子や玩具、甘やかしすぎてないよね?」と問い詰められるも、Aさんは「そんなことはない、厳しくみている」と答えました。
ある日の夕方、たまには家族みんなで外食をすることに。孫がいるので、静かな料亭ではなく、ファミリー向けの和食のお店を選びました。
店に着くと、じっとしていられない孫が動きまわり、Aさんの長男と嫁が注意すると大泣き。さらに激しくなったのは、食事を終えてレジに向かったときでした。
会計横にある玩具を欲しがる孫に、「買わないよ」と嫁がいうと、床に寝転がって大泣きしました。そして、Aさんのもとへ行くと、「じぃじ、買って! 買って!」とせがみます。
「大丈夫」といっていたAさんのことは信じていたものの、Aさんの長男も嫁も、うすうす気づいていたことでした。けれど、子どもの行動は正直です。「じぃじにねだれば、なんでも買ってくれる」と孫自身が完全に学習していた事実が、家族の目の前で露わになった瞬間でした。
孫の成長、祖父母の貯蓄に多大な爪痕
厚生労働省の人口動態統計(概数)によると、2025年の日本の合計特殊出生率は1.14、出生数は67万1,236人と過去最少を記録しています。子どもが貴重な時代だからこそ、Aさんのように、孫一人にお金をかけすぎてしまう例も少なくありません。
こども家庭庁の「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)」によると、全国の待機児童数は2,254人です。その内訳をみると、3歳未満児が全体の90.6%を占め、特に1〜2歳児が「83.3%」と圧倒的な割合を占めています。
保育園に入れない以上、祖父母に育児を頼らざるを得ない家庭は多いでしょう。だからこそ、預ける側と預かる側がしっかりとルールを決め、互いの教育方針を尊重し合う体制づくりが不可欠です。
家族会議の末、「本当に、みんなに合わせる顔がない……」とAさんは震える声で反省を口にしました。孫はひとまず認可外保育施設に預け、自治体の空き枠確認と申し込み内容の見直しを行うことに。
初孫への愛ゆえとはいえ、退職金の大半を二世帯住宅のリフォームに使い果たし、再雇用による収入機会も失ってしまったため、この2年間で手元の貯蓄は大きく目減りしました。
今後の年金受給見込み額は年間216万円(月額約18万円)。しかし、昨今の急激な物価上昇や、退職金が大きく減った現実を前に、Aさんの心には、慢性的な腰の痛みとともに、これからの生涯設計に対する強い不安がのしかかっています。
「孫とかけがえのない時間を過ごすことができたが、甘やかすことが愛情だと思い込んでいた」
静かになった平日のリビングで、Aさんは寂しさと後悔を噛みしめています。
〈参考〉
こども家庭庁:「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)」を公表します
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/b0a8057b-34bf-4c20-84fb-ae592708ca9b/c853cacb/20250828_policies_hoiku_torimatome_r7_01.pdf
三藤 桂子
合同会社ミコサポ
代表

