【古田 拓也】セカスト店舗数「ユニクロ超え」…高粗利ビジネスなのにゲオHDの株価が冴えないカラクリ

写真拡大 (全3枚)

セカストの店舗数がユニクロを超えた?

かつてはレンタル業態で国内トップクラスの知名度を誇っていたゲオホールディングスが運営するリユースチェーン「セカンドストリート(セカスト)」が、国内店舗数でユニクロを上回ったことが判明した。(参考記事:セカストが店舗数でユニクロ超え−インフレ時代に中古市場が変える消費習慣)

物価高で家計の防衛意識が高まり、新品の服が値上がりするなか、消費者は中古品の売買へと流れている。GEOは決算資料でリユース市場の統計を取り上げ、国内リユース市場は2024年に約3.3兆円まで15年連続で拡大し、2040年には5兆円規模に達すると強気だ。

セカストはこの大波の本流に立つ、まさに時代の寵児であろう。

ところが、その快進撃を率いる親会社ゲオホールディングス(東証プライム・2681、以下ゲオHD)の株価は、まったく冴えない。それどころか足元では同社のPBR(株価純資産倍率)は0.85倍程度で推移している。

株価は右肩上がりで順調にも思われるが、市場はこの会社をPBR0.85倍、つまり「解散価値以下」としか評価していないと考えると”冴えない”と評価すべきだ。

PBRが0.85倍という現象をわかりやすく例えると、1万円入りの財布が8500円で売られているようなものだ。それならば誰しもが欲しいと考えるかもしれないが、会社の場合はそうはいかない。

例えば、「会社が保有する資産を有意義に使えず食い潰してしまう」という懸念があったり、「換金する際に値段を大きく下げないと売れないような資産」を多く持っていたりするような会社は保有資産を割り引かれ、PBRが1倍未満で取引されうる。

消費者からは寵児ともてはやされながら、株式市場からは値付けを剥がされていく。この乖離は、ゲオHDの決算書そのものを読み解くと、驚くほど明快に見えてくる。

粗利6割の超優良事業が、出口では営業利益率3%に

実は、セカストの稼ぎ頭である中古衣料・服飾雑貨は、極めて利益率の高い事業である。

ゲオHDの2026年3月期決算によれば、リユース衣料・服飾雑貨の売上高は1,223億円に対し、売上総利益(粗利)は777億円。粗利率は実に63.6%に達する。非常に低い金額で買い取った服を再販するビジネスは、定価販売のアパレルを大きく上回る高粗利構造を持つ。

参考までに、ユニクロを擁するファーストリテイリングの粗利率は5割前後だ。

ところが、ゲオHD全体の営業利益率はわずか3.0%しかない。最終的な本業の儲けは売上の3%まで痩せ細っている。

この差はどこへ消えたのか。答えは販管費だ。同社の販管費は売上の36.4%を占め、うち人件費が17.7%、地代家賃が6.8%。売上総利益にほどちかい額が販管費に計上されている。

中古品は一点ずつ査定し、写真を撮り、品質を保証して売らねばならない。買い取り業務も店頭で人手をかけて行う。つまりセカストの本質は、「高い粗利を、店舗網と人手の重いコストで食べていく」労働集約・店舗集約型のモデルなのだ。

ここに「店舗数を増やすほど増収になるが、最終的な利益が出にくい」という構造が市場に察知されつつある。

追い風のなかの「増収減益」

その構造は、今期の会社計画にも受け継がれている。

2026年3月期は売上4,812億円(前期比12.5%増)、営業利益142億円(同26.6%増)、純利益は87億円(同92.6%増)と好調だった。新品ゲーム機「Nintendo Switch 2」の特需も追い風になった。

だが今期(2027年3月期)の会社計画は、売上5,100億円(同6.0%増)と伸びる一方、営業利益130億円(同8.7%減)、純利益60億円(同31.3%減)の「増収減益」に転じる見込みだ。

理由はセカスト国内100店・海外38店という積極出店の先行費用、賃上げ、物価高による販管費増だ。

象徴的なのは、ゲオHD自身が示すROE(自己資本利益率)の見通しである。同社はROEが前期の8.91%から今期は5.48%へと、3.43ポイントも低下する(決算16P)と自ら計画に明記している。出店を加速するほど資本効率が落ちる。これが解散価値割れという市場の評価の根拠だ。

では、ゲオHDはこの低評価を放置しているのか。

決算説明資料を読むと、むしろ問題意識は明確だ。

同社は決算資料で「持続的なPBR1.0倍超に改善して企業価値の向上を実現する」と宣言している(23P)。資本効率の向上や投資家との対話強化も施策に並ぶ。

だが、市場とのすれ違いが生々しく残されている。ゲオHDは「安定配当を基本とし、積極的な出店投資を優先」、「(還元は)数年先であり、現状より最大限成長させることを第一優先」と投資家からの対話内容を公開している(52P)。

ここに乖離の正体がある。会社の戦略上のフェーズは種まきであることが明確だ。一方、市場が突きつけるのは「今の利益」という現実だ。市場はゲオ側の成長戦略にベットできていないのだ。

「店舗数日本一」は通過点にすぎない

ゲオHDが描く絵は壮大だ。2009年にM&Aで取得した時点で236店だったセカストの国内店舗は、15年で約4倍の931店に拡大(24P)。当初2029年3月期としていた国内1,000店の目標を2年前倒しし、2036年3月期には国内1,500店、海外1,000店という世界規模を見据える。世界のリユース市場は2026年の約2,450億ドルから2036年には1兆ドルを超える(26P)との見方もあり、その主役を狙う、という構図である。

その本気度は社名にも表れる。同社は2026年10月1日、ゲオHDは社名を「セカンドリテイリング」へ変更する。

これは、ユニクロ運営会社であるファーストリテイリングを否応なく連想させる名だ。(ちなみに、ファーストリテイリングのファーストは、英語社名ではfastであり、firstではない)

似た名前になる両社の市場評価は現状、対照的だ。ファストリのPBRが9.6倍前後なのに対し、ゲオHDは1倍割れ。

同じ高粗利のアパレルを扱いながら、ファストリはそれを世界展開の営業レバレッジで高い利益率に変換している。かたやゲオHDはまだセカストの店舗網の拡大コストに吸われている。

セカストの「店舗数ユニクロ超え」は、日本の消費スタイルのインフラと化しつつある証だといえるだろう。中古・リユースは、もはや恥ずかしいものではなく、消費の主翼を担う存在になっている。

だが株式市場が見ているのは、店の数でも消費者の熱狂でもない。粗利6割という優良事業を、出店の先行投資というトンネルの先で、どれだけ最終利益に残せるかに尽きるのだ。PBRの天と地ほどの差はこの点に対する市場の評価そのものだ。

ゲオHDは増収減益のトンネルを抜け、出店が利益として結実させられるのか。その果実を収穫できるようになった暁には、株価の再評価余地は決して小さくないだろう。

本当の勝負は「店舗数日本一」という見出しの、その先にある。

話題の記事をもっと読む→塾代だけじゃなかった…「授業料無料」の私立高で40代シングルマザーを追い込む"想定外の60万円"

【もっと読む】塾代だけじゃなかった…「授業料無料」の私立高で40代シングルマザーを追い込む”想定外の60万円”