「捕獲だけではダメ」居住地でのクマ人身事故16年連続ゼロ! 軽井沢町が実践する驚きの対策とは
捕獲は限界…犬がクマを撃退!
クマが冬眠から目覚め、各地から目撃情報が寄せられている。今年は政府により『クマ被害対策ロードマップ』が策定され、クマの駆除要件が具体的に緩和された。「保護」から「管理」に舵をきり、個体数を減らしていこうというわけだ。しかし、
「捕獲だけでクマの被害を減らすのは難しいと思います」
こう言うのは、軽井沢町鳥獣対策専門員の小山克(こやま・まさる)さん。軽井沢町でも昨年170件の目撃情報があったというが、“人の居住地”での人身事故は16年連続ゼロ。
いったいどのようなことをしているのだろう。
「軽井沢町では1998年ごろからクマの被害が出始めていました。そこで、’00年からエコツーリズムの専門家集団NPO法人『ピッキオ』に委託して、本格的にクマ対策に乗り出したんです。
ところが、捕獲したり、爆竹や花火で脅かしたりしてもクマ被害に十分な効果は得られなかった。ちょうどその頃、『ピッキオ』の代表が北米で効果を上げているというベアドッグのことを聞きつけたんです」(小山さん・以下同)
ベアドッグとは、クマの臭いを嗅ぎつけると大きな声で吠え立て、クマを森の奥に追い払う、クマ対策のために訓練された職業犬だ。『ピッキオ』では’04年から導入している。
軽井沢町では、人里にクマが現れると、麻酔で眠らせ、発信器をつけて山に返す。発信器をつけたクマの動向を6月から10月は毎日監視し、人里に近づくとベアドッグと、ベアドッグ・ハンドラーという専門家が出動し、山へと追い返す。
特製ゴミ箱でクマ被害ゼロへ!
ベアドッグを導入すれば万事解決……では、ないらしい。
「もっとも大事なことは、なぜクマが出没したのか、原因を探ることです。クマの目撃情報があれば、『ピッキオ』と連携して現場検証を行い、クマが何に“執着”しているのか調べました。軽井沢町ではゴミが狙われることがいちばん多かった。
そこで、『ピッキオ』がクマに荒らされないゴミ箱を開発。登別のクマ牧場で検証し、効果があることが認められたため当町と協議して、クマが来る場所に、そのゴミ箱を設置していきました」
クマに荒らされたゴミ箱は’08年にはクマ被害対策ゴミ箱に交換し、’09年以降は公共のゴミ集積所での被害は0件になった。
ゴミ箱を替えただけではない。
「食べ物の臭いでクマはやってきますので、屋外に食材を置かない。ドッグフードも外に置きっぱなしにしていては危険です。物置に味噌を置いていたら、扉を壊して味噌を食べられたということもありました」
食べ物やドッグフードを外に置かないようにすることはできるけれど、物置の扉を壊されるのはどうする?
「クマが簡単に取れなさそうな鍵が閉まる頑丈な場所で保管するようお願いしました」
切り倒したままの木を庭に放っておくと、朽ちてアリが巣を作る。アリの巣もクマの好物。
「木を片づけてもらうようにお願いします」
標高1000m近い軽井沢には柿の木はないが、クワやサクラなど実をつける木がある。
「そのような木がある周辺の人たちには、クマが来るかもしれないから注意を促します」
微に入り細を穿つような対策がとられているのだ。それでもクマは来てしまう。そんな人里に現れたクマを山奥へ追い払うのにベアドッグは効果を上げている。
小学校でクマ授業…驚きの対策
「いくら捕獲しても、クマの食べ物となるものがあれば、次々に出没します。食べるものがないようにしておけば、町に出没したとしても、通りすぎるだけ。ベアドッグはクマの総合対策の一つに過ぎません」
ベアドッグによる追い払い、クマを引き付ける誘引物管理のほかに町が力を入れているのが、普及啓発活動だ。
「学校でもクマについての授業を行っていますし、クマが現れやすい場所を書き込んだゾーニングマップを作って町民に配っています。また、’00年からはドングリの結実調査をして、実りが少なそうだから、今年はクマが出没しやすいなどと、年に1〜2回は報告会をしています」
今でも居住地以外では、山菜取りのために山に入った人がクマに襲われることはあるものの、’11年以降は居住地では人身事故はない。’00年からクマ対策を始めて、今年で26年。住民の安心安全が確保できるようになるまでは、それなりに時間がかかったようだ。
軽井沢町は本気だ。素晴らしいと思う反面、ここまでやらないとクマ被害はなくならないのかと、暗澹たる気持ちにもなる。でも、軽井沢町でできたのだから、きっとほかの自治体もできるはず!
取材・文:中川いづみ
