科学者がドナーと患者の「混合免疫システム」を作り出して1型糖尿病のマウスを治療することに成功

1型糖尿病は免疫系の異常によってすい臓のインスリン産生細胞が攻撃され、インスリンの分泌が阻害されて血糖値が上昇してしまう病気です。新たにスタンフォード大学の研究チームが、1型糖尿病を発症したマウスとドナーマウスの「混合免疫システム」を作り出すことで、1型糖尿病の治療に成功したとの研究結果を発表しました。
JCI - Curing autoimmune diabetes in mice with islet and hematopoietic cell transplantation after CD117 antibody-based conditioning
Scientists cured type 1 diabetes in mice by creating a blended immune system | Live Science
https://www.livescience.com/health/scientists-cured-type-1-diabetes-in-mice-by-creating-a-blended-immune-system
1型糖尿病の患者は血糖値をコントロールするため、生涯にわたってインスリンを投与する必要があります。しかし、たとえ最良の治療を受けている場合でも、心臓病や腎臓病、眼疾患などの合併症リスクが高いとのこと。
そこで近年は、インスリン産生細胞を含む細胞群である膵島(すいとう)を移植する膵島移植という治療法も試みられています。膵島移植では心停止または脳死状態になったドナーのすい臓から膵島のみを分離し、1型糖尿病患者に点滴の要領で移植を行います。
しかし、そのままでは移植された膵島細胞が患者の免疫系に攻撃されてしまうため、患者は拒絶反応を防ぐために生涯にわたって強力な免疫抑制剤を服用しなければなりません。そのため、膵島移植は他の臓器の移植が必要となるような、重度の1型糖尿病患者のみを対象に実施されてきました。
膵島移植による免疫系の問題を回避する方法としては、「白血球を作り出す造血幹細胞を同時に移植することで、患者の体内で膵島を攻撃しない白血球を産生させる」というものが考えられます。膵島と同じドナーに由来する造血幹細胞を移植することで、移植された膵島を異物だと認識せず、膵島を攻撃する細胞を持たない「混合免疫システム」を作り出せる可能性があるというわけです。
このプロセスを実行するには、患者自身の骨髄から幹細胞を除去する必要があります。その際には、化学療法や放射線療法で患者の免疫系を完全に破壊しなくてはならず、患者は数週間にわたり感染症リスクが高い状態に置かれます。論文の共著者であるスタンフォード大学医学部教授のジュディス・シズル氏は、「これはまるで椅子取りゲームのようなものです。移植先の幹細胞をその座から取り除かなければ、ドナー細胞を移植することはできません」と述べています。

シズル氏らの研究チームは、患者の免疫系を消去するのではなく、「再教育」できるような毒性の低い方法があるのではないかと考えました。シズル氏は、「ドナーと患者が混在している場合、ドナーの免疫系が患者の免疫細胞の挙動に影響を与える可能性があります」と説明しています。
今回、研究チームは複数の抗体や低線量の放射線、関節リウマチの治療薬であるバリシチニブなどを用いた多段階プロセスを考案し、10匹以上のマウスでこのプロセスをテストしました。
実験の結果、これらの免疫系の調整プロセスによって、患者の骨髄にドナー由来の幹細胞のためのスペースが確保されました。そして、患者自身の幹細胞をすべて死滅させることなく、ドナー由来の幹細胞が定着するのに十分な時間だけ免疫系の各部が抑制されることも確認されました。
こうしてドナーから移植された幹細胞は次第に成熟し、その過程で患者の免疫系全体にドナー由来の膵島を許容するように教育しました。また、成熟したドナー由来幹細胞は膵島を特異的に攻撃するよう訓練された患者の細胞を除去し、1型糖尿病を引き起こす自己免疫疾患の原因も排除したと報告されています。
治療開始から終了までは約12日間かかりましたが、その間も患者の免疫系が完全に破壊されることはなく、使用される放射線量も一般的な骨髄移植で使用される量よりも少なかったとのことです。シズル氏は、「私たちはこの治療法をはるかに穏やかなものにしました」と語っています。
ドナーの幹細胞および膵島を移植されたマウスは、治療から20週間後もインスリンを産生し続けました。また、血液検査や死後の分析でも免疫系が正常に機能しており、移植した膵島を拒絶していなかったことが確認されています。

今回の治療法がヒトにも適用されるまでには、まだ多くの課題が残っています。たとえば、マウスの治療に用いられた抗体の中にはヒトで承認された類似薬がなかったり、そもそも膵島移植のドナーが不足していたりするといった問題が挙げられます。さらに、ドナーと患者の混合免疫システムを作り出すには繊細なバランス感覚が必要で、この点もヒトに適用する上でのハードルになるとのこと。
この研究結果についてワシントン大学の細胞療法部門長を務めるジョン・ディペルシオ教授は、寿命が1〜2年のマウスと比べてヒトの寿命は圧倒的に長いため、ヒトの体内で混合免疫システムを長期間維持するのは困難だと指摘。その上で、「これは1型糖尿病を治す可能性がある方法です。理論的には、これは確かに大きな前進です」と述べました。
