【現役デザイナーの眼:フォルクスワーゲンID.バズ】初代ゴルフに通ずるデザイン!EVだからこそ実現したプロポーション
フォルクスワーゲンらしいデザインとは?
『フォルクスワーゲンID.バズ』がついに日本でも発売されました。他にはないEVのミニバンであること以上に、ファニーなデザインは注目度も高いようで、自分のまわりでも話題になることが多いです。値段は高額ですが、唯一無二の個性があるクルマは魅力的ですよね。
【画像】初代ゴルフに通ずるデザイン!フォルクスワーゲンID.バズ 全106枚
さて、フォルクスワーゲンのデザインは、一般的に機能的でシンプルかつ上質な、ドイツ車らしい質実剛健的イメージを持つ方が多いのではないでしょうか。

日本上陸したID.バズ。上が標準仕様、下がロングホイールベース仕様。 フォルクスワーゲン・ジャパン
そのようなイメージの元祖は、1974年に発売された初代ゴルフでしょう。カーデザイン界で最も成功したジョルジェット・ジウジアーロ氏がデザインしたこのクルマは、あらゆる面でFFコンパクトカーのベンチマークとなりました。以降のフォルクスワーゲンは、これを踏襲するような機能優先で無駄のないデザインに統一するようになります。
しかし、近年のフォルクスワーゲンを見ると、やや装飾的なデザインが見受けられます。エッジが強いキャラクターラインを多用するようになり、迫力ある顔まわりや高級に見せようとする処理など、初代ゴルフの質実剛健さが薄まったと言えるでしょう。
ただ、これらは市場が要望したもので、質実剛健だけでは難しいことはカーデザインに携わった身からするとよく分かります。モデルチェンジごとに市場要望を織り込んでいく手法は、プロダクトを進化させるのに欠かせないものだからです。しかし、その結果フォルクスワーゲンの個性が薄まったとも言え、難しいものですね。
そんな中でひときわ個性的なID.バズは、ビビットな2トーンカラーに目が行きがちですが、実は現行ラインナップの中で最も質実剛健的な『フォルクスワーゲンらしい』デザインなのではないか? と実車を見て感じました。
現行モデルの中で最も『らしい』デザイン
EVのミニバンであるID.バズは、ご存知のとおり初代タイプ2(通称:ワーゲンバス)をオマージュしてデザインされています。
ワンボックスであったタイプ2のシルエットに近づけるには、エンジン車ではキャブオーバー以外難しく、一般的なFFレイアウトではどうしてもフロントが長くなり2ボックスになってしまいます。ですのでID.バズのデザインは、EVのパッケージだからこそ実現出来たものと言えるでしょう。

ワンボックスのタイプ2に近づけたのは、EVのパッケージだからこそ。 フォルクスワーゲン・ジャパン
意外にもこのような『EVのパッケージならでは』のデザインは少ないんです。ほとんどのEVのシルエットはエンジン車とあまり変わらないですよね。そういった意味でもID.バズはカーデザインの進化として意義のあるものと感じます。
実車を見ると、その大きさと2トーンのビビットな色でかなりの存在感があるクルマですが、造形自体は極めてシンプルな構成です。また、立体の繋ぎや面のアプローチ加減などしっかり作り込んでいることが分かり、それらが現行車で最も『フォルクスワーゲンらしい』デザインなのではと思うポイントです。
前後ともショートオーバーハングかつ大径タイヤというパッケージなので、ミニバンにも関わらす四隅がしっかりと踏ん張ったスタンスをしています。ルーフラインがリアタイヤ中心から下がっているのも効いていますね。スタンスの追求にとても基本に忠実なデザインという点で、初代ゴルフに通ずるものを感じました。
ワンボックスのパッケージ上、フロントガラスが乗員からかなり前方なので視界の点では気になりますが、それを差し引いても説得力のあるデザインをしています。
EVは名車をオマージュしたデザインが流行
インテリアは、よく出来た乗用ミニバンを見慣れた日本人から見ると質感にこだわって欲しかったのが本音でしょうが、広大なガラスルーフで明るい室内にいると家族はそれだけで満足すると思います。
それ以外に気になるとすれば、ヘッドライトをタイプ2のように丸目にしていないところでしょうか。ここはレトロになりすぎないようにという判断だと思いますが、トヨタ・ランドクルーザー250みたいに、ライトが2パターンあっても良いかもしれません。

ロングホイールベース仕様の室内。広くて明るい雰囲気だ。 フォルクスワーゲン・ジャパン
EVデザインの動向を見ると、特にヨーロッパでは過去の名車をオマージュするムーブが起こっていると言えます。日本に来ていないクルマが多いですが、例えばルノーなら往年の名車である『サンク』や『キャトル』、フィアットではジウジアーロの傑作のひとつ、初代『パンダ』も蘇りました(編集部注:グランデパンダは2026年導入予定)。
日本車でも、すでに販売終了した『ホンダe』や最近発表された『N-ONE e:』も同様です。このように各社で広がりを見せている要因としては、過去のデザインが魅力的だから、ということに尽きます。それを高額になるEVの付加価値として活用しているのでしょう。
今よりもっとシンプルにクリエーションが出来ていた時代のデザインは、メッセージが明快なので、現代でも十分伝わりやすいデザインと言えそうです。
現代のクルマのデザインは魅力ないと感じる方も多いと思いますが、それは現代のクルマは設計的制約が昔に比べて格段に多いことの他に、前述のとおり、市場要望を織り込んでいくモデルチェンジの手法も要因のひとつでしょう。
その結果、モデルチェンジを繰り返すうちに初代の志が薄くなることが多いようです。フォルクスワーゲンもまさにこのようなサイクルで、質実剛健から離れていったのだと感じますが、ID.バズのようにシンプルだけどイイもの感がある『フォルクスワーゲンらしい』デザインが増えることを期待したいです。
