デジタル市場の再考を促す、DIGIDAY[日本版]のインタビューシリーズ「REFRAME―デジタルの再考―」。今回は、株式会社オプトで広告戦略・コミュニケーション本部執行役員を務める堤洋祐氏に、今日におけるデジタル広告の課題を聞いた。堤氏は「ブランディングを主体とした広告主とパフォーマンスを主体とした広告主では、定めたKPIによって大きく価値観が違う」としたうえで、「ニーズや課題感も違うため、一方的に片方の考えを押し付けても状況は変わらない」と分析する。では、解決策はどこにあるのか? 「表面的なKPIに囚われていては、最終的に顧客の利益に繋がらない可能性もある」と説く同氏に、昨今のデジタル広告の現状とエージェンシー視点での課題の捉え方を聞いた。

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堤 洋祐/株式会社オプト ソリューション営業本部兼広告戦略・コミュニケーション本部執行役員。2007年?オプトに入社。金融業界を中心とした営業を経て、2012年に営業部長。その後、不動産・エンタメ・旅行業界の営業部長、ブランド領域の営業、クリエイティブ、コミュニケーションデザインの部長を経て2021年1月に営業統括領域の執行役員就任。2024年4月より現職。

――現在の日本市場におけるデジタル広告の課題を何だと考え、どう捉えているか?

前提として、プライバシーとデータ保護の観点がより注視されることになるだろう。7月22日にGoogleは「ChromeからサードパーティCookieを廃止することを断念した」と発表したが、プライバシー保護強化の流れは既定路線だ。一方で、AIの技術革新にも注目しなければいけない。我々が想像している以上のスピードで、クリエイティブの作成や広告配信、あるいは日々の業務にAIを活用するシーンが増えている。「プライバシーとデータ保護」、そして「AI」。この2つのキーワードと表裏一体となっているのが、デジタル広告におけるアドフラウドやブランドセーフティの問題だ。広告の信頼性や透明性といった視点が今後より注目されていく。ことしはオリンピックや米国の大統領選挙など、大きなイベントが控えている。コンテンツが増えるタイミングで、広告詐欺やフェイクニュースなどが増えるのは間違いない。

――一部のプラットフォームでは、「AIを使った広告審査」で詐欺広告が簡単に掲載されているという事実がある。

AIだけでは明確な審査をしきれていないのではないか。プラットフォーマーは積極的にAI投資を行っており、クリエイティブ生成や広告運用のアルゴリズムをAI化するなど、自動化を進めているが、エージェンシーとしてプラットフォーマーとコミュニケーションするなかで、多くのプラットフォーマーが人の手を加えて最適な広告審査をするということを重要な作業として認識しているようにも思う。デジタル広告のなかでも、SNS広告は非常に伸びている分野だ。そのため、詐欺広告の話題など、SNS関連がクローズアップされてしまうということが多い。もちろん、広告出稿量の規模が大きくなるにつれて、リスクも大きくなっている感覚は我々にもある。

――詐欺広告ではないにしても、不適切なクリエイティブやフォーマットが跋扈(ばっこ)している現状がある。広告主とプラットフォーマーを仲介する立場として、そうした現状をどう感じているか?

ブランディングを主体としている広告主とパフォーマンスを主体としている広告主では、定めたKPIによって大きく価値観が違うのではないだろうか。ブランディングを主体としている広告主はアドフラウドなどの詐欺広告や市場全体の環境についての問題意識が強く、入稿基準も管理されている。一方で、パフォーマンスを主体としている広告主ではどうしても広告効果を第一に考えるため、そういった意味では広告主のなかでも、求める効果は違うのだろう。

――パフォーマンスばかりを求める風潮に待ったをかけなければ、市場環境は良くならないという声もある。

一定のリテラシーが広告主側に必要なのは間違いない。ただ、ニーズや課題感も違うため、一方的に片方の考えを押し付けても状況は変わらないだろう。たとえば、アドフラウド対策を確実に行うことで広告成果が良くなることがあるように、両者の課題感とゴールをすり合わせることは可能だ。ここを高めることで、デジタル広告に対する見方も変わってくるだろう。だからこそ当社では、広告主のマーケティングを最適化するため、アドフラウド対策の啓蒙を進めているところだ。もちろん、担当者レベルではどうしても効果を出したいというのが本音だろう。現場に求められるKPIと市場健全化の取り組みには矛盾がある。こうした問題は、経営層レベルが判断しなければ往々にして進まないのではないか。

――貴社のアドフラウド対策を教えてほしい。

たとえば、外部ベンダーと提携し、ブランド毀損の可能性があるものやアドフラウドのリスクが高いドメイン情報は専門部署ですべて管理している。また、当社でも独自のメディアを選定し、基準に満たないメディアは除外する。さらに、各種アドベリフィケーションツールのベンダーと提携し、必要に応じて使い分けながら、広告主の広告掲載基準や意向に沿ったサービスを提案できる体制を整えている。加えて、JIQDAQ認証を取得し、更新もクリア済みだ。業界団体が定めた共通基準やガイドラインをしっかり守りながらサービスを提供するべきだと考える。言わずもがなだが、アドフラウドのような詐欺はゼロにはできない。技術革新が進んでいくなかで、犯罪者とのイタチごっこのような状況下にあるからだ。だからこそ、最新の事例をキャッチアップしながら、常に先手を打って対策していくことが重要になる。ブランドやパブリッシャーと情報交換などもしながら、業界内で連携し合うことも必要だろう。

――こうしたデジタル広告の環境について、消費者がリテラシーを高める必要もあるのだろうか?

確かに、消費者にも広告自体を見極めるリテラシーが必要だろう。ただし、消費者が年々巧妙になっている詐欺広告を見極めたり、不快な広告の表示を抑制したりすることは難しいため、パブリッシャーやプラットフォームサイドがしっかりと対策を講じなければいけない。消費者に責任を押し付けることはできないだろう。業界関係者などと不適切な広告について話題にする際、「グレーな広告の出稿と達成すべき数字とのバランスが難しい」という話を聞く。ビジネスである以上、売上も大事ではあるのだが、不適切である可能性がある広告は出さないよう、警告していく必要があると感じる。この線引きも、業界の課題のひとつだ。広告自体は、ユーザーにより良い体験をしてもらうものであるべきだと常々感じている。だからこそ、広告によって嫌な体験をすることは、結果的にデジタル広告の成長の阻害要因でしかない。広告業界にいる以上、少しでもそうした広告を減らしたいという気持ちは強く持っている。

――なぜ被害は減らないのか。また、どう減らせばよいか?

ここ数年でデジタル広告業界の裾野が大きく広がっており、広告運用に副業や個人事業主として携わる方々が増えてきた。プレイヤーが玉石混交となっているなかで、彼らがどれだけ精緻に業務を行っているのか正直なところわからない。「果たして、広告のプロとは何か?」という部分を、広告主には見極めてほしい。広告効果がどういった対策やスタンスで上がるのかということを、ファクトデータをきちんと出しながら説明あるいは啓蒙していくのが本来のプロだ。また、どういった掲載面に広告が掲載されるのかということを広告主に認識してもらうことが大事だろう。我々のクライアントはダイレクトマーケティングが主体であることが多いため、広告効果のその先の影響を見ていくことが重要だと提案している。表面的なKPIに囚われていては、最終的に顧客の利益に繋がらない可能性もある。顧客体験の質までしっかりと追い、マーケティングを支援していくことも大切だ。

――市場健全化のための啓蒙という点ではどうか?

広告主とメディアとのあいだにいる我々エージェンシーが一番状況をよく理解できていると感じているため、理想としては我々のような企業がしっかりと広告主の声をメディア側に伝える、あるいはメディアの声を広告主に伝える役割を担うべきだと思う。しかしながら、ウォールドガーデンの力が強まっているのは事実であり、広告市場において彼らがコントロールする領域が増えていることに間違いはない。本来、プラットフォーマーというのは素晴らしいテクノロジーで人々に利益を与えている。だからこそ、プラットフォーマー側にも業界が発展していくような仕組みや機能を実装していってほしい。

――デジタル広告の環境が今後解決しなければ、どういった社会になると考えるか?

前述したとおり、広告は最終的には消費者のためにあるものだ。より良い広告体験を提供するのがエージェンシー、あるいは掲載メディアすべての責務だと感じる。そうした広告の意義や信頼性がなくなり、広告自体が否定されることになれば、デジタル広告の存在意義は曖昧になり、衰退していくだろう。デジタル広告がマスメディアの出稿費を超え、規模が肥大化してきているからこそ、そこに対する責任も膨れ上がっている。業界全体でより透明性を高め、安心安全なデジタル環境を作ること自体が業界発展の鍵になるはずだ。当社はLTVマーケティングというテーマを掲げて、業務を推進してきた。透明性を意識し、顧客の近くで広告効果だけではなく、事業成長にまでコミットしていくというやり方だ。顧客の深いところまでエージェンシーが入り込み、事業支援をしていくことも解決策のひとつになるのではないか。Written by 島田涼平Photo by 三浦晃一