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親の遺産を巡っての相続トラブル。お金持ちの話だから自分には関係ないと思っている人は少なくありません。しかし、争族となってしまう家族は身近にあって……。本記事では北田さん夫婦(仮名)の事例とともに、きょうだい間の遺産分割トラブルについて、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。

義父の介護生活の終わり、ドロ沼争族の始まり

北田誠一さん(仮名/68歳)は妻の幸さん(仮名/65歳)とともに年金生活を営んでいました。90歳を過ぎた要介護4の父親の世話をしながら、現役のころに蓄えた資産を取り崩して生活していました。

そしてある日、長い介護生活を終え、父は他界したのでした。

父の葬儀を終え、御斎の席では親族たちと父の思い出話に花を咲かせていました。和やかに終わろうとしていたころ、事件は起こります。その原因というのが、幸さんと妹の優子さん(63歳)とのあいだで起きた、遺産を巡っての争いでした。

ふとしたきっかけから誠一さんと優子さんとのあいだで父の遺産の話になり、それを隣で聞いていた幸さんがたまらず口を出したことでヒートアップ。あろうことか喪に服すべき場で兄夫婦と妹の遺産分割を巡っての争いが始まってしまったのです。

そして、口論では納まらず、感情的になった幸さんと優子さんは、人目もはばからず取っ組み合いの喧嘩に発展。無理やり2人を引き剝がすようにその日は一旦別れました。

兄夫婦と妹の関係をぶち壊した遺産分割

今回、口論となったのは、兄妹間の遺産分割のことでした。

父の遺産は預金が約500万円ほど。そして1,000万円程度の価値が見込まれる自宅建物と土地がありました。

誠一さんと妻の幸さんは父の介護は自分達が行い、父の預金資産は自分達が受け取るのが筋だと考えていました。特に、妻の幸さんは実の親でもない義父を献身的に介護しています。日常の食事から入浴から下のお世話まで……。幸さんは、自分が相続する財産がなく、たまに顔を見せるだけで介護をしてこなかった優子さんが、実の子というだけで預金を相続することなど到底納得できなかったのです。

一方、妹の優子さんの言い分は、誠一さんは自宅建物を相続しているので、預金くらいは自分が欲しいというものです。さらに、妹の優子さん夫婦は、60歳を過ぎていますが子供が大学院に行き、まだ学費や住宅資金などが必要な状況。夫婦で働きながら捻出していますが、教育資金で手一杯になってしまい、老後の貯蓄がほとんどできておらず、是が非でも遺産が欲しいのです。

そんな双方の事情から、遺産を巡っての話し合いがヒートアップしてしまったのでした。

感情と法定ルールのはざまで…

今回の事例では、他界した父が特に遺言書も残していなかったため、基本的には法定相続分でわけることになります。法定相続分は、現在相続人となるのが兄の誠一さんと妹の優子さんの2名だけですので、財産を半々でわけることになります。

自宅建物と土地が1,000万円の評価で、預金が500万円。つまり、遺産分割協議の対象となる財産は1,500万円あり、それを半分ずつわけることになるため、兄妹はそれぞれ750万円ずつ受け取る権利があります。

いかに父の介護を献身的に行っていたとはいえ、法律のルール上、妻の幸さんに相続する権利はありません。誠一さんも父の介護のために自分の財産を取り崩していたという事実があるわけでなければ、その分多くの遺産を受け取るということは難しいものです。

実際、要介護4と診断されていた父の介護費用は全額が賄えるというわけではありませんでしたが、公的介護サービスを利用することによって保険給付を受けていた部分が大きかったのです。しかしそうはいっても、親を自らの手で介護するという負担は、実際に経験した人にしかわからないものでしょう。幸さんが優子さんのことを「厚かましい女」呼ばわりしていたのも心情的には納得できるものがあります。

妹夫婦と分割することに…

結果、預金の500万円を受け取れればいいと考える優子さんの主張のほうが認められることとなったのでした。このため、心のうちでは父の遺産をアテにしていた北田さん夫婦は、これからも月20万円の年金で、日々の生活費を切り詰めて生活しなければならなくなりました。

こういった相続の問題は、生前に遺産分割のことをしっかり話合い、それに合った対策を行っていないことが原因で発生します。

生前に家族間で話し合いを行い、誰が父の世話をするのかなども踏まえ、父の意思で遺産分割について決定しておけば死後にこのようなトラブルが起きるのを防ぐことができます。そして、その決定にもとづいて遺言書を書いたり、生命保険を活用するなどの対策を行うことで、トラブルの事前措置となるでしょう。

相続トラブルは、けして他人事ではない

今回お伝えしたような相続のトラブルは、お金持ちだけの問題と思われがちです。しかし、令和4年司法統計年報の「遺産分割事件のうち認容・調停成立件数」によると、裁判所に持ち込まれた相続トラブルのうち、遺産額5,000万円以下の事例が4分の3、遺産額1,000万円以下のケースだけでおよそ3分の1を占めています。つまり、資産が少なくてもトラブルになることは非常に多いのです。

家族が揉めないでいるためには生前に家族間でしっかりと話合い、被相続人の意思を示し、法的にも対策を行っておく必要があります。家族間だけでは感情的になってしまい話がまとまらないことも多いものですが、生前にそういった生前の家族会議を支援し、トラブルを未然に防ぐサービスも存在します。

「そんなに財産はないし、うちには無縁……」と思わず、親の相続、自分の相続について考え、不安があれば専門家に相談してみてもいいでしょう。

小川 洋平

FP相談ネット

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