“超攻撃的”な藤枝はなぜ初のJ2で躍進できたのか。転機となった熊本戦。須藤監督の決断「『リアリスト』にならないといけない」
前年の主力級だった内山圭(鳥栖)や鈴木惇(スードゥヴァ)、押谷祐樹(福井)らベテランが去り、矢村健や山田将之といった新戦力が加わるなか、指揮官は「J1昇格プレーオフ参戦(6位以内)」という大目標を設定。
「その2戦に勝って、本当に怖いものがなかったなというのはありました。自分たちはJ3を戦っていた時から『J3で勝つためのサッカーをするんじゃないよ。J2でもJ1でも通用するサッカーを1年やってきたんだから、それによりこだわってJ2でやっていこう』という意気込みのなかで2連勝できた。それで選手も僕自身も自信になったのは確かです」
だが、藤枝はそこから勝てない時期に突入する。3月はブラウブリッツ秋田、甲府、東京ヴェルディに3連敗、4月に入ってからも首位を快走していたFC町田ゼルビアに敗れ、5月は大分トリニータ、モンテディオ山形、清水、磐田に4連敗。前半戦は特に上位陣に苦戦を強いられた印象が強かった。
「開幕2連勝の後は良いサッカーはしているものの、一瞬のミスや隙を突かれて『J3とは違うな』と。それで取りこぼすと自信が揺らぎ、迷いが生じてきて、相手も藤枝のサッカーを分析する分、ますます上手く行かなくなるといった悪循環に陥りがちでした」と須藤監督も振り返る。
キャプテン・杉田真彦の負傷、渡邉りょう(C大阪)と久保藤次郎(名古屋)の移籍というのは、まさにそんな時期の出来事だった。特に渡邉と久保についてはダメージが大きかったはずだ。
「我々にとって厳しいのは事実ですけど、2人がJ1に引き抜かれたのは藤枝が認められた証拠。このクラブは結果を出すだけじゃなくて、選手を成長させられることを評価されたと感じました。僕自身も経験してきましたけど、サッカー選手は引退が早いですし、人間として認められるようにならないと、先々を考えても厳しくなる。
そう意識してアプローチしてきました。そうやって大きく飛躍した2人が格上のクラブに行って活躍してくれればいいと思って送り出しましたね」と、指揮官は努めて前向きにコメントしていた。
そのタイミングで中川風希や中川創、西矢健人らを補強したものの、プレシーズンからコンセプトや連係を積み重ねてきたメンバーのように、すぐにフィットできるわけではない。そこは難しい部分で、7〜8月は8戦未勝利と今季最大の壁にぶつかった。
その長いトンネルを潜り抜けたのが、9月10日のロアッソ熊本戦だった。奇しくも須藤監督の甲府時代の恩師である大木武監督が率いるショートパスサッカーの相手を、藤枝は上手くいなして2−0で完勝。浮上のきっかけを掴む。
そこから町田、東京Vに引き分け、迎えた9月30日の清水戦。この時点で自動昇格圏にいた同じ静岡のオリジナル10のチームを相手に、藤枝はエース・横山暁之と矢村の2ゴールで快勝。難局を乗り切ることができたのだ。
【PHOTO】チームの快勝に湧いた藤枝MYFCサポーター!
「8戦未勝利になった9月3日の栃木SC戦を受けて、僕は『リアリスト』にならないといけないと思った。それまでは『リアル』と『ロマン』を両にらみにして、バランスを取りながらやってきましたけど、熊本には絶対にスタイルを変えないと。
だったら自分が舵を切らないといけないと決断した。ハイプレスの位置を少し下げ、ミドルゾーンで守りつつ、行ける時はハイプレスに行くという現実的な戦い方にシフトしたんです。
それが奏功して、相手や時間帯によって上手く戦うということができるようになった。そういう意味で、熊本戦は今季のターニングポイントになりました。シーズン当初から目ざしていたハイプレスと超攻撃的なスタイルに、柔軟性や臨機応変さが加わった。
だからこそ清水にも勝てたし、ザスパクサツ群馬にも5−1で圧倒できた。町田とヴェルディには勝てませんでしたけど、前期に大敗を喫していた彼らに引き分けに持ち込めましたし、終盤になって成長の実感を持てましたね」と、最終的に12位でフィニッシュした須藤監督は安堵感をのぞかせた。
今季を1年間、戦い抜いてみて、藤枝にはJ1昇格プレーオフ圏内に入るだけのポテンシャルがあると指揮官は率直に感じたという。青森山田高で勝ち続けてきた黒田剛監督の就任によって町田が隙のないチームに変貌を遂げ、史上初のJ1昇格を果たしたように、藤枝もミスの少ない手堅さも併せ持った集団になれれば、本当に最高峰リーグも見えてくるのではないだろうか。
「我々の一番の問題点は、失点の多さですね。今季は72失点でリーグワースト。総得点が61だったのは前向きに評価していいと思いますけど、こんなに失点していたら上位には行けない。
あまりにも守備意識を持ちすぎると、僕らの超攻撃的サッカーの迫力がなくなってしまう恐れもあるので、それを活かしつつ、フィニッシュの精度やクオリティを上げて、なおかつ前から行く守備の質を高めていければ、目標は必ず達成できるはず。僕はそう信じています」
須藤監督は野心を強く押し出した。常にギラギラ感を前面に出せるのが彼の最大の魅力だ。「僕は大きな夢を掲げていないと、絶対に実現しないと思っています。だからこそ、自分は日本代表監督を目ざしますと言いたい。ここからが本当の勝負ですよ」と不敵な笑みを浮かべていた。
こういう鼻息の荒い指揮官が日本にもっと数多くいてもいい。選手としてトップクラスの実績を持たないリバプールのユルゲン・クロップ監督、バイエルンのトーマス・トゥヘル監督のように、須藤監督にも持ち前のパッションで藤枝をさらに強く、魅力的なチームに変貌させ、自身も成り上がってほしいものである。
※このシリーズ了(全3回)
取材・文●元川悦子(フリーライター)
