スズキ｢Vストローム250SX｣軽二輪の魅力再発見
スズキの新型車種「Vストローム250SX」（筆者撮影）
四輪車ではここ25年以上、乗用車由来の本格的なSUVブームが続くが、二輪車では40年以上前からオンロードとオフロードの走破性能を同時に満たすクロスオーバーモデルが人気を博していた。
今回紹介するスズキの軽二輪「Vストローム250SX」は、スズキのクロスオーバーモデルの末っ子にして2023年8月24日から販売（製造国はインド/56万9800円）を開始した最新車種だ。スズキによるとSXとはスポーツ（S）、クロスオーバー（X）を意味するという。
近年人気の軽二輪について
後ろから見たVストローム250SX（筆者撮影）
そもそも軽二輪（正式名称/二輪の軽自動車）とは道路運送車両法に定められた区分名称で、排気量125cc以上249cc以下の車両のことだ。軽二輪は手軽な車両価格に加えて、検査対象外軽自動車として規定されているため車検の必要がない。そのため維持費が安価。また、道路交通法では普通自動二輪車になるので、普通二輪免許で乗車が可能。そうしたことから長年、人気を博しているカテゴリーである。
Vストロームは1000cc（2002年）から導入され、650cc（2004年）、250cc（2017年）の各モデルが追加された。途中、1000ccモデルは1050cc（2020年）へと排気量を拡大。その後も世界市場で販売台数を伸ばし、今では800cc（2023年）まで揃える大所帯（4つの排気量/7車種展開）になった。
Vストローム250SXには兄貴分として「Vストローム250」（製造国は中国/64万6800円）が2017年7月6日から日本市場で販売されている。詳細は後述するが、Vストローム250SXが油冷単気筒エンジンであるのに対して、Vストローム250は水冷2気筒エンジンを搭載している。
Vストローム250SXのエンジン（筆者撮影）
試乗したVストローム250SXは油冷単気筒エンジンを搭載する。SOCS（Suzuki Oil Cooling System）を名乗る油冷システムは、2020年4月以降、スズキのスポーツモデル「ジクサー250」シリーズから搭載が始まった。
スズキは油冷（オイルで冷却する）エンジンを1985年から実用化してきた。今回のSOCSを採用した250ccでは冷却方法を変更して燃焼効率を向上させ、軽量化や摺動抵抗に大きく貢献している。
油冷システム「SOCS」の解説（筆者撮影）
具体的には、従来の燃焼室の上からオイルを噴射して冷却していた方式から、燃焼室の周囲に通路をつくり、そこにオイルを高速で流すことで一層の冷却効果を図った。油冷エンジンは、空冷エンジンのような冷却フィンが必要なく、水冷エンジンよりも部品点数が少なくなることから、結果的に軽量で、かつ望まれる冷却効果が得られる。
一般道路からクローズドコースまで徹底試乗
筆者とVストローム250SX（筆者撮影）
試乗の舞台は群馬県の嬬恋村付近の占有の舗装路/未舗装路コースと、周囲の一般道路だ。路面の状態を問わず快適に、そして安全に楽しく走れるクロスオーバーモデルだが、その見た目からVストローム250SXは未舗装路、つまりオフロード重視かと思われた。
パッと見は軽二輪とは思えないほど立派な車体サイズだし、前タイヤは19インチ、後タイヤは17インチと大きく、シート高も835mm、最低地上高205mmと高めだ。わかりやすく「乗り込めるかな……」と不安になってしまう。
Vストローム250SXのシート（筆者撮影）
しかし実際には車体がスリムなのでスッと跨がれた。ちょうど脚があたる（ニーグリップする）場所がギュッと絞られているので、腰を下ろした際の足つき性能は数値以上に良好だ。筆者は身長170cm、体重67kgだが、7段階に初期荷重が調整できる後輪のスイングアーム式リヤサスペンションを標準位置のままで片足ならべったり、両足でも足裏の半分程度はつけられた。
跨がった印象も軽い。車両重量はガソリン、エンジンオイル、バッテリーなどを含んだ走行可能状態で164kgだ。カムシャフトが2本必要なDOHCではなく、あえてエンジン上部が軽量になるSOHC方式を採用したことも功を奏し重心位置が低めだ。これも軽く感じる理由だ。
横から見たVストローム250SXのスタイリング（筆者撮影）
ちなみにVストローム250は水冷2気筒エンジンを搭載しているため191kgと27kg重いが、シート高は800mmと低く、実際に試乗会場で比較してみたが、筆者の場合は両足がべったりと地面についた。
個人的にしっくりきたのがアップライトなライディングポジションだ。「何度も試行錯誤とテスト走行を繰り返し、路面状況を問わず車体と一体になれるライディングポジションを探りました」と、Vストローム250SXの開発を担当されたチーフエンジニアである鈴木一立さん。
舗装路での走りをチェック！
Vストローム250SXのハンドルまわり（筆者撮影）
まずは舗装路で車体特性を探る。スズキ各車が採用する「スズキイージースタートシステム」でエンジン始動。エンジンスターターボタンを一押しするだけでエンジンが始動するまで一定時間スターターモーターを自動で作動させる機構だが、外気温や標高などによらずワンプッシュでエンジン始動できるので便利だ。
アイドリング音については、絶対的な音量こそ抑えられているが、パパパパッと単気筒らしい小気味よいリズムを刻む。エンジンのメカノイズは少なめだ。発進時のマナーもよく、やや低めの1速ギヤはつながりが良好でスルスルと速度を伸ばす。
フル液晶ディスプレイ方式を採用したメーター（筆者撮影）
フル液晶ディスプレイ方式のメーター上部に配置されたタコメーターで4000回転程度を目安に、2速、3速、4速とシフトアップを繰り返す。スコッ、スコッと気持ちのよいシフトフィールだ。
最高出力26PS、最大トルク2.2kgf・mだからレブリミットの1万回転近くまで低速ギヤで引っ張ってもビックリするような力強さはない。ただ、扱い切れる楽しさはリターンライダーのリハビリにもちょうどよい。
カーブでの安定性も抜群に高い。未舗装路でのグリップ力を意識したブロックパターン（ゴツゴツ系）のタイヤを履いているが、「我々の二輪テストコースで全開走行しながら開発しています！」（Vストローム250SXの開発テストライダーである大庭 繁さん）というように、フルバンクに近い領域でもビタッとした安定感を披露する。これはベテランライダーをも唸らすほどだ。
Vストローム250SXに採用されているブロックパターンのタイヤ（筆者撮影）
もっとも、絶対的な性能はスポーツ性能に特化したバイクにはかなわないが、クロスオーバーモデルにしてはトップクラスの走りが安心して堪能できる。
未舗装路で走りをチェック！
未舗装路では大きめのディスクを採用したブレーキシステムが効果を発揮した。試乗した砂利道や岩場はアスファルト路より格段に滑りやすい。なのでコントロール性、具体的にはじんわりとしたブレーキ操作に従順に反応してくれるブレーキが使いやすい。その点、Vストローム250SXの前後ブレーキは“はじめじんわり”のブレーキ操作に寄り添ってくれるので安定したまま速度調整が行えた。
前後ブレーキには独立したチャンネル制御のABSを備える。オフロードではリヤブレーキのABSだけをカットする機能があるモデルもあるが、Vストローム250SXにカット機能はない。試乗中、「ブレーキ性能にもこだわりをもって開発しています。未舗装路でぜひ、試してください！」（大庭さん）の言葉を思い出し、リヤブレーキを意図的に強くかけてみた。
Vストローム250SXのリヤサスペンション（筆者撮影）
すると、とても短い間、後輪がロック傾向となり、それをきっかけにアクセル操作を同調させた後輪スライド走行が容易に行えた。筆者も普段からオフロードバイクでクローズドの未舗装路を走っているが、後輪ロックからの後輪スライド走行はクローズドコースではごく一般的は走行スタイルだ。
「たしかに後輪のABS解除スイッチなどは便利ですし、効果的です。しかしVストローム250SXではリーズナブルな価格帯でお届けしたいという願いから基本性能を突き詰めて造り込みました」（大庭さん）。
フルLED化されたヘッドライト（筆者撮影）
ヘッドライトとストップランプなどはすべてLED化され被視認性が高められているし、ハンドルを握る手の防風性能を高めるナックルガードや最大積載量6kgと実用的なリヤキャリアが標準装備だ。ウインドスクリーンもコンパクトながら肩越しまではしっかり風を防いでくれた。
販売店オプションも充実、ツーリングに林道も楽しめる
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販売店装着のアクセサリーとして、ヘルメットなどが収納できる「トップケース」（1万9800円。別途「トップケースアダプタープレート/5170円」が必要）や、グリップを電熱線で温める「グリップヒーター」（3万3000円）、シート高が25mm低くなり810mmとなる「ローシート」（2万3200円）など、ロングツーリングを支えるアイテムも多数用意されている。
最後に一般道路での燃費数値だが、ひとしきりエンジン性能を確認しながらの走行で車載の燃費計では38.6km/Lだった。トコトコ走るロングツーリングなら40.0km/Lオーバーは確実だろう。安心して楽しく、リーズナブルな価格でお財布にもやさしい。スズキの二輪車/四輪車すべて共通するお客様本位のものづくりを改めて理解できた。
（西村 直人 ： 交通コメンテーター）
