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都心では「車離れ」が進み、駐車場に空きが目立っているケースが少なくありません。マンションの管理費等は、駐車場利用料が入ることを前提に組まれていることが多く、利用率が下がると財政を圧迫し、赤字会計となってしまいます。マンショントレンド評論家として数々のメディアで発信を行う日下部理絵氏が、マンション管理組合が特に頭を悩ませている「機械式駐車場」の問題について、事例をもとに解説します。

「機械式駐車場」はマンション管理の“金食い虫”

【事例:空き駐車場問題に理事長として奮闘】

・物件概要…3LDK 81.08m2/10階建て4階/築32年54戸/最寄り駅 徒歩6分
・資金概要…住宅ローン完済済み
・家族構成…夫66歳、妻62歳の2人暮らし、子供は独立


マンション管理の「金食い虫」と言えるのが、維持費のかかる機械式駐車場だ。近年は車離れも進み、空き駐車場による収入減は管理費と修繕積立金を直撃する。自然災害への備えも必要で、マンション全体で埋め戻しなどを検討したほうがいいかもしれない。

定年退職後、自宅マンションの理事長に就任した陣内さん

都内のマンションに住む、陣内隆さん(仮名)は、昨年定年退職し妻の京子さんと悠々自適な生活を送っている。そんなところに自宅マンションの役員就任の連絡がきた。役員の連絡がくるのは2度目で、前回は監事であった。

通常総会で承認され、新役員で話し合いの結果、理事長になることになった。現役時代より時間があるし、2回目の役員でなんとなくわかっていたため、これといった不安はなかった。

むしろ定年後に肩書ができたことに内心喜びを感じて、序列化された階級組織で長年働いてきた典型的な日本人だなと自分でも呆れたりする隆さんであった。

陣内さんに降りかかった「駐車場問題」

新役員ではじめての理事会で、駐車場問題が長期化しているとの説明があった。

陣内さんのマンションは平面駐車場と機械式駐車場がある。駅からさほど遠くはないが、1住戸1台以上が確保され、「駐車場100%」というのが、新築当時の売り文句であった。

陣内家では抽選で当たった平面駐車場をずっと借りている。平面駐車場は人気があるため、気が付かなかったのだが、近年、機械式駐車場では空きが目立つという。

平面駐車場はさほど維持費はかからないが、機械式駐車場の場合、メンテナンス費用のほか、耐用年数25〜30年として1パレット(1台駐車するスペース)当たり150万〜300万円程度の修繕費用が必要になるという。

機械式駐車場のメーカーによるメンテナンス費用については、管理会社に毎月支払っている管理委託料に含まれているそうだ。問題は機械式駐車場の修繕費用である。

新築当時の長期修繕計画には、機械式駐車場の項目がなかったため、長期修繕計画を見直す際に、メーカーから機械式駐車場の長期修繕計画を取り寄せ、マンションの長期修繕計画に組み込んだという。

現時点では定期点検の結果をもとに、チェーンやリミットスイッチ(パレットの停止位置を決める制御部品)など、行き当たりばったりに部品交換をしている程度で、大がかりな修繕はしていない。しかし、耐用年数的にそろそろ修繕や交換の検討が必要だという。

陣内さんの住むマンション管理組合は「破綻寸前」

より頭を悩ませるのが、空き駐車場とマンション管理組合の財政との関係だ。駐車場使用料は、新築時から管理組合の管理費会計の収入になっており、駐車場の利用率が低下すると、収支にも影響を与える。

管理費会計は一見黒字に見えるが、単年度で見るとすでに余剰金を食い潰しておりマイナス会計、このままいくと数年先には赤字に転落するという。

駐車場問題が管理費や修繕積立金の値上げにも影響するかもしれず頭が痛い。しかも、長期滞納者問題に加え、マンション全体の3回目の大規模修繕も数年先には検討しなければならない。

さらに近年、マンション全体で契約しているインターネット回線についても苦情が多いという。一見平穏に感じた自宅マンションは問題が山積みなのを知る。

まさか、自分のマンションの管理組合会計が破綻しそうになっているなんて、予想もしていなかった隆さんはショックを受けた。

次回の理事会からより具体的な話し合いがはじまるという。気安く理事長なんて引き受けるべきじゃなかったとがっくりしてしまった。

人気のない駐車スペースで「年間270万円」の収入減

1ヵ月後、2回目の理事会が開催された。マンションにある駐車場は、平面式16台(来客用2台含む)、地上1段、地下2段の「ピット式3段」の機械式駐車場が14機(42台分)で、合計58台分のスペースがある。

総戸数は54戸なので、たしかに1住戸1台以上確保されている。平面式が1番人気で、次にピット式3段の上段と中段で、下段は人気がない。

新築時に設定された毎月の管理費等は、収入に駐車場利用料が入ることを前提に管理費会計や修繕積立金会計が試算されていることが多いという。

特に一家に一台、車を所有していた時代のマンションではその傾向が強く、車離れによって空き駐車場が増えれば増えるほど、収入源がなくなってしまう。

まずは陣内さんのマンションの理想的とされる満車時と、現在の収入を見てみたい。

【月額使用料/満車の場合】

〇平面式(屋根なし):月額1台1万5000円×14台=21万円
 来客用2台は無料

〇ピット式3段(14機42台)
上段(地上):月額1台1万4000円×14台=19万6000円
中段(地下):月額1台1万3000円×14台=18万2000円
下段(地下):月額1台1万2000円×14台=16万8000円

〇合計……月額75万6000円(56台分)
年間907万2000円

【月額使用料/現在(38台契約)使用率68%】

〇平面式(屋根なし):月額1台1万5000円×14台=21万円
 来客用2台は無料

〇ピット式3段(14機42台)
上段(地上):月額1台1万4000円×12台=16万8000円(2台空き)
中段(地下):月額1台1万3000円×8台=10万4000円(6台空き)
下段(地下)月額1台1万2000円×4台=4万8000円(10台空き)

〇合計……月額53万円(38台分)
年間636万円

現在18台の空きが出ているので、年間で約270万円も収入が少なくなっている。たしかにこれでは、単年度赤字で余剰金を食いつぶしているわけだ。

このマンションでは駐車場使用料の収入は、全額、管理費会計の収入にされているため、差額271万2000円を戸当たりで割ると、年間約5万円を追加で負担しなければ補填できない。

実際の管理費等は、原則「専有部分の床面積割合」で負担する。たとえば、マンション内で一番広い部屋の所有者が車を所有していないとする。車を所有していないので当然、駐車場も借りていないが、駐車場の負担は誰よりもしないといけない。実に不公平である。

そこで理事会で検討の結果、まずは居住者のニーズを把握するため、駐車場についてアンケートをとることになった。また管理会社に管理費会計の赤字黒字のボーダーラインを知るべくシミュレーションも依頼した。

日下部 理絵

マンショントレンド評論家

オフィス・日下部 代表