※この記事は2022年03月16日にBLOGOSで公開されたものです

こんな記事がありました。

2020年 日本の広告費|新聞/雑誌/ラジオ/テレビ/マスコミ四媒体広告費
https://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_cost/2020/media2.html

2020年のラジオ広告費は約1066億円(前年比84.6%)だそうです。

他のメディアも同様なのでラジオだけがマイナスという事ではないですが、既存メディアへの広告費が下がっているのは事実。ラジオはこの先、どうやったら生き残っていけるのでしょうか。

「これからのラジオはどうすれば良いですか?」

僕がラジオの昼の帯番組を任された時の取材で、記者さんに質問を受けた事がありました。

「今ある良さをちゃんと続けていく事ですかね…」

なんとも緩い答えを返した記憶があります。(そりゃ番組終わるわな…)

“今後のラジオ”

ラジオを愛する現場の人たちはみんな、その答えを探し続けています。

ちなみに20年前からラジオ業界にずっとお世話になっている僕もその中の一人。

ラジオのトップランナーとして結果を残しているわけでもない僕が、熟考した所で何も変わらないかも知れないけれど、僕はラジオにお世話になっている人生。

この連載もラジオがなかったら声がかからなかったお仕事だと思います。(BLOGOSの編集長が僕のラジオ番組の元ADさん)

BLOGOSが閉鎖してしまうと言う事で、最終回はラジオについて書けたらなと思っております。

しかもテーマは「ラジオとお金」について。

ぶっちゃけリスナーの方には関係のない話だし、一番タブーな部分な気もしますが、ラジオを聴いた事がない若者にも興味をもってもらいたい。

「ユーチューバーって稼げるんでしょ?」

そこから興味を持つ若者が沢山いる様に、「ラジオスターになってお金持ちになる!」と思ってくれる若者が一人でも出てこられる様なお金も稼げる業種であり続ける事がラジオ界の未来だとも思っています。

“も、ある”のコンセプトで書いてきたこの連載。全てのアイディアは経験則からしか生まれないし、それは模倣かも知れないけど、模倣と模倣が融合した時に新しいアイディア“モアル”になる。

もちろん僕も、ラジオの未来についてちゃんとした答えを見つけられていない一人ですが、小さなアイディアの模倣も何かのきっかけになるかも知れない。

ちょっと長くなるかも知れませんが、読者の皆さんと話し合えたらなと思います。

「昔のラジオは面白かった」という幻想

ラジオの現状や将来について、みんなであーだこーだ言っている中でよく出てくるワードとして、「昔は面白かった」というワードがあります。

自分自身がラジオに没頭していた時代の多幸感あふれる思い出、それに比べて今のラジオは…、みたいな流れ。

僕はこれに関してはあまり賛同していません。それはその人の幻想でしかないと思っています。

テレビも同じで「昔のテレビはもっと面白かった」という大人がいます。でも、我が家の小学生の息子はゴールデンタイムのバラエティを見てゲラゲラ笑っている。僕らが昔ゲラゲラ笑っていた光景と基本は同じです。

僕が若い頃ゲラゲラ笑っていたバラエティを息子に見せても「今より面白いね!」とはならないでしょう。

昔の方が面白かったと感じるのは、ただ単に自分が大人になっただけのこと。自分が成長していった中で、面白いものの価値観が変わっていったのだと思います。

僕が思うに、今もラジオは十分に面白いと思います。今のスタッフは…。今のしゃべり手は…。と言うのは、幻想です。

今の人も十分に面白い。

むしろ昔よりコンプライアンスが複雑に入り乱れている中、本当にすごいスキルを持ち合わせているなぁと思います。

昔と違う所で言うと、「昔はもっと自由に出来た」とは思います。

現場のしゃべり手、スタッフがやりたい事をやらせてもらえていた。イコール、パーソナリティーの本音が聞ける、思った事をぶちかませる。しかも自分に投げかけてくれている気がする。

そりゃ面白いよ。ラジオの魅力ってそこだと思っています。

でも、それをやるにはお金が必要です。仕事ですから。

年々下がっている売り上げをなんとか維持、最悪下げ幅を緩やかにするために、営業の方が汗をかいて頑張ってくれています。

「そこまでしてくれるなら、お金出します」

みたいな事でようやくスポンサーを見つけてくる。

そりゃあ、スポンサーのイメージを大事にするトーク構成になります。別にこれが悪いとは思っていません。

要はフリーのパートとのバランスなのですが、ラジオに携わっていると、年々、そのバランスがスポンサーパート多めになっていると感じます。

もちろん、腕のあるパーソナリティーはスポンサー枠とは思わせないトークができます。本当にすごい。でもそんな方たちを持っても、露骨な枠が増えてきている気がします。

でも売り上げが下がってきているから当然ですよね。

営業の人も本当に頑張ってくださっています。スポンサーさんは本当に大事なんです。お金がないと番組は作れませんから。

「でもそれだと番組として本末転倒だよねー。リスナー置いてきぼりー」

僕もそう思います。お金の匂いがするコーナーに嫌悪感すら持っちゃったりします。

だったら我々リスナーがスポンサーになれば良いのではないか?と思うのです。

少年隊ファンが買い切るラジオ番組にヒント

こんなまとめがありました。

「ラジオで流れる限り過去にならない」番組枠を買い上げて『少年隊』の楽曲をラジオ放送しているファンの活動がすごい
https://togetter.com/li/1827356

すごいですよね、少年隊ファンの皆さん。こういう形があるんだと感動で涙が出そうです。最高です。 自分たちがお金を出しているから、好きな放送を流す事ができる。

言い方が失礼になってしまったらごめんなさい。

素晴らしい太客ですよね。

自分たちがお金を出せば、自分たちが面白いと思える放送を聞く事ができる。

僕はラジオの未来の可能性として、リスナーの太客化も一つありだと思っています。

太客がお金を落とす事で成り立っている業界は山ほどあります。

そもそもラジオはテレビに比べて圧倒的に太客ユーザーが多い。そろそろラジオも太客産業になって良いのではと感じています。

ただ「有料会員にならないと聞けないコンテンツがあるの?冷めるわー。結局金かよー」みたいな事を思っちゃうタイプでもある僕。

それって創成期のゲームアプリの課金と同じですよね。ここから先は課金しないと遊べません。ムキー!金の亡者め!!! そう思っていました。

ラジオもここからは課金者のみが聞ける放送です!なんてやったら、即死亡な予感しかしません。

ですが、この連載でも何度も書いている通り、最近の課金ゲームアプリの仕組みは本当に素晴らしい。課金制度に対して嫌悪感が全くないアプリが本当に多い!

ゲームアプリ「ウマ娘」は2021年の年間売り上げが1000億円越え。しかも国内のみで。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2112/21/news099.html

他のゲームアプリだって単体で何百億円規模の売り上げです。僕が遊んでいるプロ野球スピリッツAも同じ。なんでこんなに売り上げがあるのか?

最近アコギじゃないんですよねぇ。そりゃお金出しちゃうよねぇ。

基本は課金ユーザーも無課金ユーザーも全て最後までちゃんと遊べる。課金をする理由は快適性。鉄道の普通席とグリーン車みたいな事で、YouTube Premiumとかも同じ仕組みでしょうか。

課金をしない人にも同じだけのサービスは提供する。でも課金するとより快適ですよー。課金判断はユーザーにあります。強制的に課金しないといけないコンテンツがない。だから課金をしていて不満がない。自分で選んでいるから。

この仕組みを参考にしたら、ラジオもいけると思うんです。

radikoを値上げしてラジオ業界を支えられないのか

前記の通り、ラジオ広告費は年間約1066億円。

これを全て太客リスナーで賄えば、夢のラジオコンテンツばかりになります。

いったいいくら払えば良いのか? 正確な収益の仕組みは僕にはわかりませんが、とりあえず乱暴に計算してみましょう。記事によると、radikoプレミアムの会員数は90万人。
https://digital-shift.jp/dx_strategy/210708

ですので、大甘で見積もって、現在radikoの有料会員の方が100万人いるとしましょう。この100万人の太客が年間いくら払うと1066億円に到達するのか…。

1人年間10万6600円。月額8883円…。

あべし。

ぐぬぬ、なんと現実味のない数字だ。やはり現時点では、太客リスナーだけでラジオを成立させる事は厳しそうで、残念ながら、CMは打たないといけなさそうだ。

でも過度にスポンサーに頼らない放送にするために、我々太客からお金を徴収しても良いと思う。

ちなみに今のradikoの仕組みは、過去1週間以内に放送された番組を後から聞くことができる→無料。 全国全てのエリアのラジオ番組が聞ける→385円有料。

こんなに笑わせてもらって年間4620円。払える太客リスナーから、もう少しいただいても良い気がするなぁ。

ぶっちゃけ、radikoが始まった理由の一つとして、電波が届きづらい場所、難聴取地域でも聞いてもらえるようにするためという事があります。

だからいまさらお金を徴収すると言う事を大義にはしづらいのですが、スタートから無料のサービスが過剰だった事は一旦忘れて、もう一度収益化するための料金プランを考えてみたらどうだろうか?

DAZN月額3000円ですぜ。年間36000円。radikoももっと取って良いのでは? 払える人が払ってラジオを支えていきたい!(もはや母性!)

以前FC東京のサポーターと経営陣の意見交換会に行った時の事です。

「僕はFC東京を愛しています。人生の大事な軸なんです。金銭面でも応援したいのですが、チケットを買ったり、ユニフォームを買ったりするぐらいしかできません。支援、投資ができる方法はないのでしょうか?」

という意見がサポーターから出ていました。

愛が太いとこういう気持ちになるんです。応援したい気持ちはプライスレスなんです。払える人が払えば良いのです。(ちなみにJリーグのクラブの株式上場が先日解禁される事が発表になりました)

radikoには月間利用者が900万人います。無料で聞けることは絶対大事です。全部有料にしたら、みんないなくなっちゃう。なので、radikoを使ってリアルタイムにラジオを聞くのは誰でも無料は変わらない。

だけど、タイムフリーを利用する場合は、無料ならCM入れません? 聞く前にCMが入り、5分ごとにradiko用のCMが入る。(YouTubeと同じイメージ)過去番組が聞ける期間はなんなら3日間で良いと思う。だって無料ですよ。(当日だけでも良い気もする)

そしてここからが快適性。

CMが外れるC会員 360円
+エリアフリーでも聞けるB会員 580円
+タイムフリーが1週間聞けるA会員 1000円

高いと思う人もいるかも知れないけど、自分が愛したラジオのためなら払えるって人結構いる気がします。なんなら1ヶ月タイムフリー月額2000円ってのがあっても良い。

スポンサーさんの商品を買う事で応援という形もありますが、そのお金が直接応援するパーソナリティーや番組の生きていく糧になっていると思うのも楽しい気がします。

加えて各局のサブスク化もやってもらいたい。例えば radikoとの差別化でタイムフリー1年間。

スタッフが作るプレイリストも便利で聞きたいかも。今週のたまむすびOPトークパック、今日のゲストトークパックなど、毎日更新される、まとめ聞きプレイリスト。

懐かしのANN(オールナイトニッポン)トーク傑作選みたいなのも楽しい。

音楽サブスクでは、僕はいつもプレイリストで楽しんでいます。そこにスタッフの情熱が垣間見えて楽しいのです。

radikoとは別に月額500円ぐらいだったら対価として払う人沢山いる気がするな。

値段設定などは専門家に任せるとしても、とりあえず太客リスナーさんからお金をいただく、それでラジオの良さが続くなら是非やってもらいたいです。

お金儲けが先にこないで、リスナーにどうやったらより楽しんでもらえるか? その入り口が課金なのであれば、リスナーもついてきてくれるでしょう。

ラジオリスナーは嘘に敏感です。音だけのメディアって他のメディアより嘘がバレるんですよね。

本音こそラジオ。リスナーと丁寧に向き合ってこそラジオ。

音声メディアにスーパースターが誕生する

「これからのラジオはどうすれば良いですか?」

最初に戻りますが、僕らが感じているラジオの魅力は、今も昔も変わらないと思います。だからこそ、その良さを残すために、時代にあったアウトプットを見つけ続ける事だと思う。

とはいえ、これも「あの頃は良かった」なんて言っちゃうラジオ歴20年のおじさんの戯言かも知れない。

僕らが思いつかないような若い世代の新しいアイディアをどんどん取りいれてラジオを作ってみたい。 ラジオに今まで興味がなかった人と手を組んでアイディアを練ってみたい。

最後は耳だ。

音声メディアを次のビジネスチャンスと捉えている大企業も多いそうです。すぐに新世代の音声メディアのスーパースターが出てきてくれるでしょう。

その時、その人たちに尊敬される、アイディアを融合させたいと思ってもらえるパーソナリティーでいられる様、日々精進し続けようと思います。

ラジオが大好きです。

BLOGOS「モアル君と鹿内君」最後まで目を通してくださり本当にありがとうございました。

著者プロフィール


土屋礼央(つちや れお)
1976年生まれ、東京都国分寺市出身。RAG FAIRとして2001年にメジャーデビュー。 2011年よりソロプロジェクト「TTRE」をスタート。FM NACK5「カメレオンパーティー」TBSラジオ「たまむすび(木曜パートナー)」NHKラジオ第一「鉄旅・音旅 出発進行!~音で楽しむ鉄道旅~」などに出演中。主な著書に「ボクは食器洗いをやっていただけで、家事をやっていなかった。」「FC東京のために200兆円で味スタを満員にしてみた」「なんだ礼央化―ダ・ヴィンチ版」など。

・Twitter - 土屋礼央 @reo_tsuchiya