「筋痛性脳脊髄炎(ME)」「慢性疲労症候群(CFS)」を知っているだろうか。脳と中枢神経に影響を及ぼす深刻な神経難病で、実は日本国内に約10万人(推定)の患者が存在。日常生活におけるごく軽い活動によってさえ急激に身体が衰弱し、症状が悪化して回復に時間がかかるという。成人が発症前の身体機能を取り戻すのは0〜6%、重症になると多くは寝たきりとなり、家族やヘルパーの支えが必要となる。

 しかし、見た目には症状の辛さが分からないため、“怠けているだけ”と見られてしまうことから、患者は二重の苦しみに直面しているのだ。18日のAbemaTV『AbemaPrime』では、当事者の女性たちを取材した。
 

■発症すると3割が寝たきりに近い状況に…原因も効果的な治療法も現状はなし…
 

 “40℃の熱でフルマラソンを走った後のような衰弱”、“365日・24時間インフルエンザになったようなもの”などと表現する当事者もいる神経の難病。「体の衰弱」「筋力の低下」「睡眠障害」「音や光への過敏」「思考力や記憶力の低下」「免疫の不調」「体温調節の不全」「全身の痛み」などを伴う。発症のメカニズムもわかっておらず、効果的な治療法も現時点では確立していない。

 国立精神・神経医療センターの山村隆医師は「脳内で免疫が異常な活動をし、炎症を起こす。これが引き金となって色々な症状が起きているのではないか、というのが主な仮説になっている。確かに患者さんの血液を調べると、免疫系の異常が出ている。そこまではわかっているが、どうやって発症につながるのか、その仕組みがまだ解明されていない。免疫の病気はウイルス感染のあとに発症したり、悪くなったりすることがあるが、原因ウイルスを探した研究は多くがうまくいかず、未だわかっていない」と話す。

 症状には3段階あり、軽症(約3割)は少しの軽作業ができるものの、自宅休息が適宜必要。うち9割近くは家事などの後に症状の悪化を自覚し、半数近くが回復に24時間以上要し、寝たきり状態を余儀なくされる。また、中等症(約4割)は、通常の日常生活や軽作業ができず、週の半分以上は自宅休息。重症(約3割)は、身の回りのことに介助者を要し、寝たきりに近くなる。半数近くの患者が症状を悪化させずに歩ける距離は10m未満だという。
 

■「痛みを堪えてでも、もうちょっとだけ生きたい」

 新潟県に住む水野直美さん(53)は約10年前に筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群を発症し、今はほぼ寝たきりの状態だ。玄関で出迎えることができないとして、事前に「鍵を開けているので、入ってきて欲しい」との連絡があった。

 「身体中がだるい。もう本当に、普通のだるさじゃない。全ての骨に力が入らない。とにかく腕がもげそうに痛い。あとは肋骨が痛くて短くしか息ができない。ハァ、ハァという感じ。あと、足はずっと痺れている」。自宅で転倒、足の指を骨折したことがあるが、病気による痛みがあまりにも激しいため、骨折したことに全く気がつかなかったという。

 耐え難い全身の痛みやだるさの中、杖を使い、何とか1人でトイレに行くことはできる。しかし数mの移動でも体力を消耗し動けなくなってしまうため、水分は極力摂らないようにしている。食事の用意など、家事全般はヘルパーにお願いしているが、シャワーは浴びることができず、ここ数年は半年に1度しかお風呂に入れていない。もし無理してシャワーを浴びようものなら数週間は寝たきりとなり、身動きが一切取れなくなってしまう。そのため現在では週2回ほど温めたタオルで身体を拭いてもらうだけだ。

 患者を襲うのは、このような身体的苦痛だけではない。イギリスやカナダでは「筋痛性脳脊髄炎」、アメリカでは「慢性疲労症候群」と呼ばれていたことから、現在ではこの2つを合わせた病名になっているが、“疲労が取れにくい病気”と誤解されてしまうことも多いのだ。

 「しんどいのはみんな一緒だよ」「休みたいのでしょ?」「怠けているだけだね」といった心ない声が、周囲の人や患者を支える存在であるはずの医師から発せられることも例外ではないのだという。「医師、医療関係者でも知っている方が少ない。筋痛性脳脊髄炎という名前を出した時、“そんな病気はない”と怒鳴られこともある」(水野さん)。日本の医師が診断の参考にする医学書には記述がなく、理解のある専門医と出会うことすらも難しい状況なのだ。

 症状の悪化に伴い、スーパーでの職も失った。そんな中にあっても、シングルマザーとして2人の子どもを育て上げた水野さん。「ずっと寝たきりなんだと思う。ただね、やっぱりこの痛みを堪えてでも、もうちょっとだけ生きたい。孫の成長を見たい、それが今は生きがいだ。ちょっとでもいいから、手を繋いで歩きたい。魔法か何かで叶うのであればね」。
 

■「幼稚園ぐらいで発症した場合、自分がおかしいということもわからない」

 「30年間、ほとんどまともに寝ていない。また、体温調節ができないことも非常に苦痛だ」。

 篠原三恵子さん(61)は29年前、アメリカ留学のさなかに発症した。一時帰国してアメリカに戻る機内で異変を感じたという。「まず頭が働かない。友人の言っている言葉が理解できない。ひどい睡眠障害。インフルエンザのような熱と、喉だけでなく全身の痛み。お腹を壊す。体が鉛のように重くなり、ベッドから起き上がることもできなくなった。朝が特に辛くて、お昼過ぎにやっと少し起き上がれるかなという状況だった」。

 1996年に帰国後、複数の病院を受診するも医師に「考え方さえ変えれば治る」と、心因性のものであるかのように言われたという。そして2005年になると座った姿勢を保てなくなり、寝たきりに近い状態となった。2010年、52歳にして、ようやく筋痛性脳脊髄炎だと診断された。

 「実はアメリカでは診断が下っていたので、2010年になって初めて診断されたというわけではない。アメリカでは1988年から免疫を調整する薬が治験に入っていて、免疫が関与する病気だということもわかっていた。それなのに、日本に帰ってきたら疲労の病気になっていて愕然とした」。

 この点について、山村医師は「この病気について、アメリカでは一般のドクターでもよく知っていらっしゃる。私の患者さんが転勤でアメリカに移住したが、よく診断・治療をしてくれることに驚いてメールをくれたくらいだ。なぜ日本がそうではないかと言えば、やはり日本の教科書には出てこないため、医学生も知らないまま医師になっていく。だから診断しよう、治療しようという環境もない。大学病院に行けばいいというものではなく、自分で探す他ないのが現状だ。一方で、医師たちも手一杯な中で診療をしているので、言い方は悪いかもしれないが、この病気が入り込む余地がなかなかない」。

 そこで篠原さんは2012年、病気についての認知拡大のために活動するNPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」を設立。理事長として海外情報の翻訳やドキュメンタリー映画の上映会などの活動に尽力している。これまで患者会で制作したドキュメンタリー映画の上映会や病気に関する海外の最新の情報の翻訳などを行ってきた。

 篠原さんによると、未成年の患者の実態も申告だ。「32歳で発症した私ですら、アメリカで診断されるのに1年半かかったので、その間、真剣に“自分の努力が足りないからできないのかな”と思ったこともあった。幼稚園ぐらいで発症した場合、自分がおかしいということもわからない。単なる不登校だと思われてしまうこともある」。


■「新幹線で治療に通う患者も」現状では難病指定もされず…

 篠原さんによると、現実的には「休むこと」が一番の対処法だというこの病気。山村医師によると、身体を温める方法や、rTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)といって、磁力を使って大脳の特定の部位を刺激する方法も試みられているという。国際医療福祉大学市川病院によるrTMSの臨床試験では、40人中30人に症状・生活状況の改善が確認され、「屋外を歩き、自力で入浴できるようになった」ケースも見られたという。しかし山村医師は「大変な予算とスタッフが必要になるため、今は中断してしまっている。特に悪い時に集中して使うなど、治療の戦略の中のオプションとして位置づけられるのではないかと期待している」とし、決定的な治療法ではないことを強調した。

 また、患者たちがこれほど厳しい状況に置かれている一方、日本では客観的診断基準がないとの理由で、難病指定がされていない。指定難病患者(一部)には、医療費の負担軽減や患者データを収集し治療研究を推進するため医療費助成制度が用意されているが、そうした公的保障が受けられないのだ。

 山村医師は「血液1滴を調べれば診断がつく、というようなものが診断基準に取り込まれる必要があるのだろう。国は診断基準や仕組みが一旦決まるとそれを守っていくし、医学者にはそれを変えるだけの大きなパワーがあるわけではない。有名な方のご家族が罹ったことがきっかけで解決に向かったこともあるので、まずは多くの方に知ってもらうことが大事だ。メディアで取り上げていただくことで、世間の関心が高まる。この病気を研究しないといけないのではないかという声が高まれば、国は必ず予算をつけてくださる。研究費が必要だし、研究してくださるお医者様のためのお給料の予算も必要だ。こうやって(番組に)呼んでいただけたことは私たちにとって励ましになる」と訴える。

 篠原さんも「私は寝たきりなので障害者手帳を取得できた。ここまで重症になれば取れるが、そうでなければ車椅子の支給や在宅介護が受けられない。しかし、2014年に行われた厚労省による実態調査の結果、3割近い患者さんが寝たきりに近いということがわかった。ほとんどの患者さんが職を失うことがわかっているわけで、障害年金支給が必要だ。色々なところで取り上げてもらいたいし、人に伝えていただく、私たちの作った映画を紹介していただくことで少しずつ知られるようになれば、患者さんたちが傷つくことが減ると思う」と話す。

 その上で、「お医者さんがいないので、新幹線を使い、二泊三日で通わなければならない患者もいる。全国どこでも診療していただけるように、お医者さんに勉強していただいて、状況を作っていただきたい。そして、福祉制度が使えず、無理をして重症化していく例をたくさん見てきた、若くして発症される方が非常に多く、そういう方が寝たきりになるのを見ると、本当に心が痛む。1日も早く指定難病にしていただきたい、研究を促進するために予算を付けていただきたいということで国会請願を集めている」と話した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)