「TRON」生みの親が語る、令和時代のイノベーションに必要な力
AIの助けがなければ生きていけない
−平成30年間、コンピューター技術が社会の変化を促してきました。一番のターニングポイントは何でしたか。
「軍事向けに利用されてきたインターネット技術が民間に転用され、インターネットプロバイダーサービスが始まったのは1989年(平成元年)。これが最も大きかった。パーソナルコンピューター(PC)の普及と連動し、一人一人がコンピューターを持つようになった。だが、PCの時代はもう終わるだろう。極端に言えば、手元に2次記憶装置はいらなくなり、令和にはウェブコンピューティングの時代になる」
「数年のうちに、今までにない変化が出てくる。日本勢は海外に比べ一歩遅れているが、追いつけ追い越せが得意なため、変化できれば心配はいらない。デジタル化によって効率化しなければ、日本は少子高齢化によって社会を維持するサービスを提供できなくなる。日本にDXは必須。人工知能(AI)に助けてもらわなければ、生きていられなくなる。そのくらい危機感がある」
日本の規制はポジティブリスト
「東京を離れると、それを強く実感する。地方の人口減少は著しく、大学も同じだ。ただ、勉強中の若者が新しい情報や機会に恵まれる都市部に集中するのは仕方がない。若者は勉強中の身だ。勉強が終わった後、農業や漁業などに最先端の技術を取り入れ、変えることもできる。選択肢を示せればよく、実際にその道を選ぶ若者を出てきている。」
−坂村学部長が開発したOS「トロン」は、今のIoTに欠かせません。なぜ日本は海外に比べIoT普及に遅れたのでしょうか。
「規制の影響が大きい。個々の規制を指摘する以前に、日本の規制は“やってよい”ことが書いてある『ポジティブリスト』で、米国の規制は“やってはいけない”ことを書いた『ネガティブリスト』という根本的な違いがある。規制より後に生まれた新しいテクノロジーは規制のリストにない。だから米国ではすぐに使えて、日本では使えない。そんな規制がたくさんある」
凡人のアイデア
−IoTをはじめ、テクノロジーによって変革を加速させるためには、どんな人材が求められますか。
「イノベーションは、技術と社会構造を組み合わせて考えなければいけない。日本には優れた技術があれば問題を解決できると思う人が多いが、そうではない。技術と社会構造の両方を理解し、連携できる人材が必要だ。今は互いに技術や情報を『ちょっとちょうだい』と持ち合って、連携して、新しいものを創る」
−トロン開発時は個人の力が大きかったのではありませんか。
「時代が違う。今でも数学の問題のように天才1人でできることもあるが、技術の成熟期にイノベーションを起こすにはチームの方がいい。1人の天才の1個のアイデアよりも、凡人が何人も集まって多くのアイデアを出す方が成功の確率が高い。昔から『三人寄れば文殊の知恵』と言うが、多様な人が集まるといい」
可能性は階乗で増える
−連携を重視すると、企業は差別化できなくなりませんか。
「連携パーツが増えれば、組み合わせは階乗で増えるため、差は出る。可能性が爆発する。一方、誰もが簡単にテクノロジーを使えるようになるほど、本当のプロの価値も見いだされる。例えば、今では誰もが簡単に写真を撮れるが、プロが“その一瞬”を捉えた写真は全く違う」
