なぜ、岡田代表はあの時「不出馬」表明したのか

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■玉木、前原両氏それぞれの事情

「新代表は、もう蓮舫でいいんじゃないか? そうなれば毎日、ワイドショーでとりあげられるよ。民進党も話題になって、支持率が上がるんじゃないか?」

冗談とも自虐とも思われる声が、民進党の中であがっている。8月5日に蓮舫代表代行が出馬表明したことで、次期民進党代表選(9月15日投開票)の火ぶたが切られた。ところが目ぼしい対抗馬がまだ出ていないのだ。

出馬会見した後、蓮舫氏は党所属各議員の事務所に挨拶にまわった。

「玉木、出ないのかな。出た方がいいと思うんだけど」。

ある若手議員に蓮舫氏はこう話しかけている。

「玉木」とは出馬が噂される玉木雄一郎衆院議員のことで、蓮舫氏が最も意識しているライバルだ。蓮舫氏は玉木事務所に挨拶に行った時、本人に直接出馬をけしかけた。

「あなた、出なさいよ」。

しかし代表選に出馬するには、20名以上の現職国会議員の推薦が必要だ。衆参併せて148名にすぎない民進党では、それがけっこうなハードルになっている。蓮舫氏には野田佳彦元首相が率いる花斉会をはじめ、岡田執行部も付いている。だが玉木氏は自身のグループすら持っていない。

■出馬に意欲を見せる前原氏

そのような党内で鍵を握ると思われるのは、8月3日に発足した旧維新の党グループだ。

同グループのメンバーは党内最大の23名。単独で候補を擁立も可能だ。実際に江田憲司氏は、自身の出馬可能性も示唆している。

しかし単独で候補を擁立しても、勝利の見込みは薄い。そこで考えられるのは、他の候補をサポートすることだ。江田氏は昨年、前原誠司元外相と細野豪志元環境相とともに新党結成に動いたこともある。もっとも細野氏は早々に代表選不出馬と蓮舫支持を表明したため、出馬の可能性はない。一方で前原氏は出馬の意欲を見せ、9日にはサンクチュアリ(旧社会党系)を率いる赤松広隆元衆院副議長、10日には素交会(旧社民党系)会長である大畠章宏元経産相と会談し、支持を求めている。

また2日に開かれた凌雲会(前原グループ)の会合では、8日発売の「世界」に掲載された井手英策慶應大学教授との対談のコピーを配布。井手教授は社会統合を研究する財政の社会学の学者で、山口二郎北海道大名誉教授が8月4日にツイッターで「前原誠司が井手英策氏をブレーンに迎えていたという話は前から聞いていた。分断社会を終わらせるというメッセージこそ、今の民進党に最も必要。前原から社会民主主義路線が出てくることは歓迎したい」と絶賛している。

共産党との野党共闘については、蓮舫氏も前原氏も否定しているわけではない。むしろそれを争点とするより、前原氏は、前回の参院選で野党が埋もれた原因は政策議論が盛り上がらなかったことと見て、代表選では政策議論をやりたい方向だ。

そんな前原氏の出馬に対し、凌雲会内部にも賛否ある。会合に参加した向山好一兵庫県議はこう述べる。

「2日の会合では出馬すべきだという意見と、すべきではないという意見に分かれた。私は出馬すべきだと思う。ただし前原氏には保守の路線を明確にした上で、蓮舫氏と闘ってほしい」。

別の元議員は「私は現職議員ではないから推薦人にはなれないけれど、選挙区に400人の党員・サポーターがいる。彼らに『前原誠司』と書いてもらうのは可能だ」と前原氏に期待を寄せた。

ただ前原氏にとって残念なのは、支持者の多くがすでに現職議員ではないという点だ。

■なぜ、岡田代表はあの時「不出馬」表明したのか

その一方で執行部と花斉会は絆を強めてきた。そもそも野田氏が首相になった時、それを支えたのが岡田克也代表という関係。2015年1月の代表選では、今度は野田元首相が岡田氏を支えた。岡田氏も「野田氏とは太い信頼関係で結ばれている」と述べている。

野田氏に近い近藤洋介衆院議員は役員室長を務めた時、筆者にこう話したことがある。

「私は岡田さんを支える。野田さんにそう頼まれたから」

これは単なる友情ではないかもしれない。昨年秋、ある民進党関係者は民進党の議員からこんなことを聞かされた。

「岡田代表の次の代表は花斉会から出すことになっている。代表ポストは岡田側と野田側とのキャッチボールになる」

実際にポスト岡田として、早々と花斉会所属の蓮舫氏が出馬表明。党内の空気を制する“早出しじゃんけん”を可能にしたのは、7月30日の岡田氏の代表選不出馬宣言だ。

なぜ岡田氏は31日の都知事選投票日の前に不出馬表明をしたのか。岡田氏が会見で述べたところによると、表明の1週間ほど前から代表選不出馬について考えており、野田氏を含む関係者に事前に話をしていたという。それが漏れて報道されたため、正式な会見となったということだ。

ではこの話を事前にマスコミに漏らしたのは誰か。その人物は岡田氏が早期に不出馬表明を余儀なくされることで、代表選を蓮舫氏に有利なように仕組もうとしたのではなかったのか。

すでに“早出しじゃんけん”で小池百合子氏が有利に都知事選を展開しており、勝利はほぼ確実になっていた。そしてマスコミに情報を漏らした者の思惑通り、民進党代表選は蓮舫氏の優勢で進みそうだ。民進党では冒頭で述べた意見の他、「蓮舫は好きではないけど、今回は票を入れる」という意見も多い。

自民党側も、むしろ蓮舫新代表の誕生を歓迎している。

「玉木氏などが代表になれば、来年の通常国会でアベノミクスの失敗について細かくやりこめてくる。蓮舫代表ならその心配はない。我々としても歓迎したい」

実際に蓮舫代表となれば、早期解散もないと見る向きもある。それも民進党内で“蓮舫新代表歓迎説”の根拠のようだ。

民主党政権時に仕分け作業で「2番じゃいけないんですか」と述べた蓮舫氏。その蓮舫氏はすんなりと党内の1番の座におさまりそうだ。

(ジャーナリスト 安積明子=文)