規律を重んじるモウリーニョ監督のもとで常時試合に出続けるには、高い戦術理解力も要求される。チェルシーへの移籍が実現しても、その後の行く末は楽観視できない。(C) Getty Images , SOCCER DIGEST

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 チェルシーへの移籍報道があったからだろう。4月6日の小平グランド(FC東京の練習場)は、報道陣で賑わっていた。
 
 しかし、お目当ての武藤は2日前の甲府戦(J1・4節/結果は1-0でFC東京の勝利)で首と肩を負傷していた影響もあり、身体のケアを優先して練習後の囲み取材には応じなかった。
 
 FC東京のクラブ関係者は「なにも聞いていない」という武藤のチェルシー移籍が、果たして今夏に成立するかは現時点で分からない。たとえ本人に訊いたとしても、それに関してはなにもコメントしないだろう。
 
 ガセか、真実か。それは時間が経てばいずれ分かること。こうした移籍話が出て、なにより気になるのは「このタイミングで武藤はビッグクラブに移籍すべきか」という点だ。
 
 確かに昨季はプロ1年目ながらJ1で新人最多タイの13ゴール。ベストイレブンに選ばれ、今年1月にはハビエル・アギーレ監督の“秘蔵っ子”としてアジアカップにも参戦した。
 
 アタッカーとしてのポテンシャルは一級品で、プロになってわずか1年足らずでそれなりの実績も作ったが、武藤は現時点でチェルシーに相応しいタレントとはどうしても思えない。
 
 ビッグクラブに移籍すれば、バラ色の人生が待っているわけではない。それは、宮市亮のここまでのキャリアが証明している。
 
 2011年に19歳の若さでアーセナルに正式加入するも、蓋を開けてみたらレンタル生活の繰り返し。ボルトン時代に19歳と1か月28日でプレミアデビューを果たしたとはいえ、大きな怪我もあり期待を裏切っている感が否めない。
 
 ドイツからの出戻りとはいえ同世代の宇佐美貴史、あるいは柴崎岳がJリーグで確実な成長を遂げ、日本代表でも存在感を増していく一方、宮市は“影の薄い欧州組”になりつつある。日本代表で確固たる地位を築けていない武藤が、この夏にチェルシーに移籍したとしても、あの分厚い選手層を突き破りピッチに立ち続けなければ、やはり“影の薄い欧州組”となる可能性は高い。
 個よりも規律を重んじるジョゼ・モウリーニョ監督(今夏に解任されなければだが)の下で常時試合に出るためには、チェルシーの戦術を把握し、実践できるようになる必要がある。
 
 異国のイングランド、しかも各国の代表クラスがズラリと揃うチェルシーで、その戦い方をマスターするのは簡単な作業ではない。そもそもチェルシーの一員としてプレミアリーグの開幕戦を迎えられるかのさえ、怪しい気がする。
 
 結局は宮市と同じくレンタルでスモールクラブに……。そうしたケースも十分に考えられるだろう。
 
 不安定な未来を選ぶより、今はFC東京で結果を出すのが先決だ。幸い、今季のJ1でFC東京は4節を終えて2勝2分けの2位。このまま上昇気流に乗れば、クラブ史上初のリーグ制覇も見えてくる。せっかくクラブが良い流れに乗りかけているのだから、中途半端な形でヨーロッパに旅立つのは得策ではない。
 
 いずれにしても、ひとまず東京に腰を落ち着けて、今季はJ1で年間優勝を成し遂げ、そして自身が目標に掲げる得点王も獲る。海外チャレンジは、そのふたつのミッションをクリアしてからでも決して遅くはない。
 
 Jリーグでやり切ったという充実感を胸に、魅力的なオファーが舞い込んでくれば──。次の冬か、来年の夏に満を持して、新たなステージへと飛び立つ。それが武藤にとっても、FC東京にとっても、幸せな選択ではないだろうか。

文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)