時価総額で一時トヨタを抜いた三菱UFJ…割安だった銀行株をここまで押し上げた”3つの変化”
「銀行株が上がるとは思っていた。でも、ここまで上がるとは思わなかった」――。ここ数年の三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、三菱UFJ)の株価を見て、そう感じている人は少なくないでしょう。
2026年7月には、三菱UFJの時価総額が一時、トヨタ自動車を上回って日本企業の首位に立ちました。ただし、上がったのは三菱UFJだけではありません。三井住友フィナンシャルグループやみずほフィナンシャルグループなど、メガバンク株はそろって大きく上昇しています。
なぜ、長く「割安株」の代表だった銀行株が、これほど見直されたのでしょうか。
本稿では、銀行株が復活した理由と、そのなかで三菱UFJの評価が高まった背景を整理します。
※株価・時価総額および株価指標は、特記のない限り2026年7月28日終値時点。
長く割安だった銀行株に、何が起きたのか
かつて日本の銀行株は、PBR0.5倍前後でも珍しくありませんでした。PBRとは、会社が持つ純資産に対して、株式市場が何倍の値段を付けているかを示す指標です。
PBR0.5倍なら、計算上は1万円分の純資産を5000円で買えることになります。それだけを見るとお買い得に思えますが、当時の銀行は利益が伸びにくく、持っている資本を十分に活用できていませんでした。
つまり、安かったのには理由があったのです。
その状況が変わり始めました。銀行株が上昇した最大の理由は、「日本に金利が戻ったこと」「実際に利益とROEが伸びたこと」「銀行自身が収益構造を変えてきたこと」の3つです。
結論を先に言えば、銀行株は単なる期待で上がったのではありません。低金利時代に抑え込まれていた収益力が実際に戻り、市場が銀行に付ける評価そのものが変わったのです。
変化1 「金利のない世界」が終わった
銀行の基本的な仕事は、預金などで集めたお金を企業や個人に貸し出したり、債券などで運用したりすることです。貸出や運用で受け取る金利と、預金者に支払う金利の差が、銀行の利益になります。
ところが、長く続いたゼロ金利・マイナス金利の時代には、貸出金利も運用利回りも極端に低く抑えられていました。銀行は大量の預金を抱えていても、そこから十分な利益を生み出せませんでした。
2024年に日本銀行がマイナス金利を解除し、その後も段階的に政策金利を引き上げたことで、この状況は大きく変わりました。
貸出金や有価証券から得られる利息が増える一方、普通預金を中心とした預金金利の上昇は、これまでのところ比較的緩やかです。そのため、銀行が受け取る金利と支払う金利の差が広がり、利益が増えています。
日本銀行も、過去の金利上昇局面では貸出金利の上昇幅が預金金利の上昇幅を上回る傾向があり、やや長い目で見れば金利上昇は金融機関の収益を押し上げると分析しています。
三菱UFJは、国内政策金利が0.25%上がった場合、3年目の年間収益が約1800億円増えると試算しています。金利上昇の効果はすぐに全額が出るわけではありませんが、時間をかけて利益を押し上げます。
低金利時代には収益を生みにくかった巨大な預金基盤が、「金利のある世界」では大きな強みに変わりました。これが銀行株復活の最も重要な理由です。
変化2 期待ではなく、利益が実際に増えた
株価は期待だけでは上がり続けません。銀行株の上昇を支えたのは、実際の業績改善です。
三菱UFJの2025年度の親会社株主純利益は2兆4272億円となり、前年度から約30%増加しました。ROEも9.3%から11.3%へ上昇しています。会社は2026年度に純利益2兆7000億円、ROE12%程度を目標としています。
ROEは、株主から預かった資本を使って、どれだけ利益を生み出したかを示す指標です。銀行株を見るうえでは、この数字がとても重要です。
以前の銀行株は、巨大な純資産を持ちながら、それに見合う利益を生み出せていませんでした。ところが、金利収益が戻り、コスト管理や資本政策も進んだことで、同じ純資産から以前より多くの利益を生み出せるようになりました。
株価上昇の本質は、利益が増えたことだけではありません。「この銀行は以前より高いROEを出せる」という市場の見方が広がったことにあります。
変化3 もはや「国内でお金を貸すだけの銀行」ではない
三菱UFJを単純な国内銀行として見ると、現在の評価を理解しにくくなります。
同社は、銀行、信託、証券、カード、資産運用、海外金融を抱える総合金融グループです。国内の貸出金利が上がったことは重要ですが、それだけで成長しているわけではありません。
企業のM&Aや社債発行を支援する投資銀行業務、富裕層向けの資産運用、決済、海外事業など、金利差だけに頼らない収益も増えています。
2025年度の営業純益は前年度比で7997億円増加しました。このうち、円金利上昇による効果は約1500億円でしたが、国内外の法人向け投資銀行やウェルスマネジメントなど、顧客部門の増益も大きく貢献しました。
三菱UFJは、米モルガン・スタンレーとの提携を生かし、海外の投資銀行業務も強化しています。国内企業との長い取引関係を入口に、融資だけでなく、M&A、社債、海外進出まで幅広く提案できることも強みです。
つまり、現在の三菱UFJには二つの追い風があります。
一つは、日本の金利正常化。もう一つは、国内銀行からグローバルな総合金融グループへの変化です。
銀行株全体が上がるなかでも、三菱UFJが時価総額トップ級まで評価された背景には、この二つを同時に持っていることがあります。
「銀行だからPBR1倍以下」という時代は終わったのか
三菱UFJは、政策保有株式の縮減、自己株式の取得、増配、収益性の低い資産の見直しを進めています。2026年度の配当予想は1株96円で、配当性向40%程度を基本方針としています。
市場が見ているのは、単年度の最高益だけではありません。政策保有株式の売却益に頼らず、ROE12%前後を継続できる会社になれるかどうかです。
これまで日本の銀行株には、「国内銀行だからPBR1倍以下で当然」という見方がありました。しかし、高いROEを持続できるなら、純資産を上回る評価が付いても不自然ではありません。
ここまでの結論は明確です。
銀行株が上がったのは、単に金利上昇への期待が膨らんだからではありません。金利のある世界が戻り、実際に利益とROEが伸び、銀行自身も収益構造を変えてきたからです。
ただし、株価が上がった後には別の問いが生まれます。
金利上昇が銀行にプラスであることは確かとして、その恩恵はどこまで続くのでしょうか。そして、その期待は現在の株価にどこまで織り込まれているのでしょうか。
後編記事〈「金利上昇は銀行に追い風」だが…三菱UFJ株をいまから買うのは遅いのか、"3つの注意点"〉では、「金利上昇は銀行に追い風」という見方を検証し、3つの注意点を踏まえて、いまから買うのは遅いのか、その判断材料を整理します。
栫井駿介
1986年鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業、豪BOND大学MBA修了。大手証券会社に勤務した後、2016年、つばめ投資顧問設立。延べ2000名以上の個人投資家を相手に、堅実かつ実践的な長期投資のアドバイスを実施。YouTuberとしても活動し、登録者は20万人超。ひとりでも多くの人に長期投資のよさを広め、実践してもらうことを夢見て発信を続けている。著書に『年率10%を達成する! プロの「株」勉強法』『1社15分で本質をつかむ プロの企業分析』(ともに、クロスメディア・パブリッシング)『買った株が急落してます!売った方がいいですか? 株で利益を出す人の考え方』(ダイヤモンド社)、共著として『株式VS不動産 投資するならどっち?』(筑摩書房)がある。
公式サイト:つばめ投資顧問ウェブサイト

