中国軍艦が沖ノ鳥島EEZ内で実弾射撃…元統幕長が警告する「次に狙われる島」 “サラミスライス”の脅威
いよいよ日本最南端の島にも本格的に触手を伸ばし始めた。言うまでもなく、アジア地域で各国と領土、領海問題を抱える覇権主義国家・中国のことである。
【写真を見る】射撃訓練を実施する中国艦。「武器が銃であろうが砲であろうが、日本に圧力をかける意図があった」と河野元統幕長は見る
沖ノ鳥島近海に現れた4隻の中国とロシアの軍艦
7月21日、防衛省統合幕僚監部は、中国とロシアの海軍艦艇計4隻が沖ノ鳥島の南西約330キロの海域を航行し、その後、中国海軍のミサイル駆逐艦が日本の排他的経済水域(EEZ)内で、機関銃の射撃訓練を実施していたと発表した。
沖ノ鳥島は日本の最南端に位置する東京都に属する小島だ。都心からはおよそ1700キロメートルの位置にある。東小島と北小島という2島からなるが、満潮時でも水没しない陸地の面積は、二つを合わせても9.4平米と、畳6畳分ほどしかない。それでも周囲には、およそ37万7975平方キロメートルという日本の国土の総面積をしのぐ、42万キロメートルの広大なEEZが広がる。

この海域を航行していたのは、中国山東省に本拠を置く北海艦隊に属するとされるミサイル駆逐艦2隻と補給艦1隻、それにロシア海軍のフリゲート艦1隻だった。
国際法で禁止されていない行為ではあるが
「今回の件は、中国海軍による日本のEEZ内における訓練です。センセーショナルな印象を受けるかもしれませんが、軍艦による機関銃の射撃訓練も含めて、他国のEEZ内におけるこうした軍事活動は、国連海洋法条約(UNCLOS)で禁止されていない行為ではあるんです。もちろん、領海内ではダメですが」
そう語るのは、元自衛隊統合幕僚長の河野克俊氏(71)だ。1994年に発効した国連海洋法条約はEEZについて、加盟国の沿岸から最大200海里(およそ370キロメートル)までを対象とすると定めている。そこでは優先的に天然資源の管理や人工島の設置、海洋環境の保護に関する権利なども認められている。
EEZ内における軍事行動に関しては、一般的に〈沿岸国の資源に関する権利や環境を不当に害しないこと〉、周辺国や地域に対して事前に活動を実施する海域や時間帯を通告することなど〈妥当とされる考慮〉が条件という。ただし、それでもあくまで〈一定の範囲で認められる〉と、容認する度合いは限定的だ。
防衛省統合幕僚監部の発表によると、実弾射撃を行ったのは中国海軍で最も多く配備されているという「旅洋(ルーヤン)III」型/052D型のミサイル駆逐艦だ。兵装の満載時排水量は7500トンとされ、全長約160メートルの船体には対空、対艦、対潜ミサイルのほか、130ミリ単装砲、30ミリ近接防空システム(CIWS)、さらには魚雷などが搭載可能という。
意味をなさない中国の事前通告
「私も幾つか関連する報道を確認しましたが、記事には“機関銃”による射撃とありました。使用された武器が銃であろうが砲であろうが、日本へ圧力をかける意図があったことに変わりはありません。また、中国側は訓練を始める直前に無線で海自艦や周辺の船舶に射撃訓練を実施する旨、期間や場所などを通知したと言っていますが、これは国際的な慣習に照らしても意味をなしません。少なくとも数日前に相手国に通知していなければ、事前に通告したことにはならないのです」
昨年12月に起きていた同様の事案
中国は昨年12月にも同様の事態を引き起こしている。沖縄本島南東沖の公海上空において、中国海軍の空母・遼寧から発艦したJ15戦闘機が、対領空侵犯措置に当たっていた空自のF15戦闘機に対しておよそ30分間、断続的にレーダーを照射した一件だ。
「あの時も、中国は“事前に通知した”と主張しました。しかし、訓練時間や場所の緯度や経度を示す航空情報(ノータム)、さらに航行警報などは一切発出されていません。いつ、どこで、どんな訓練を行うのか、とくに空中なら高度の情報も重要です。それらを通知しないまま、ただ“いまから訓練をやります”と現場の無線で伝えることにはほとんど意味がなく、国際的にも正式な通知とは認められません。それは今回も同様です」
懸念を示していた米国のシンクタンク
7月6日には、中国海軍の原子力潜水艦が中国・海南島の東側と見られる海域から、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を太平洋へ向けて発射した。この時も中国は「関係国に事前通知した」としたものの、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は「中国はアメリカと日本に対してわずか数時間の事前通知しか行わなかった」「国際的な弾道ミサイル発射通報の枠組みに沿ったものとは言えない」と暗に批判している。
中国の「沖ノ鳥島は岩礁であって島ではない」という主張
「先のSLBM発射実験はアメリカを念頭に置いたものでしょうが、今回の射撃訓練は明らかに日本を狙い撃ちしています。中国はかねて“沖ノ鳥島は島ではない”と主張しているからです。今回も中国の報道官は“沖ノ鳥島は岩礁であって島ではない”とした上で“日本がEEZだと主張するのは国際法違反だ”などと言い放ちました。彼らのホンネは“日本の島ではない以上、この海域に日本のEEZは存在しない。つまり、自分たちが何をしようと勝手だ”というものでしょう。そのクセ“事前に通知した”と言う。笑ってしまいますが、自分たちは国際的なルールを順守しているとアピールするつもりなのでしょうか」
きっかけは高市早苗首相の国会答弁か
昨年11月7日、高市早苗首相は衆議院予算委員会で台湾有事に関連する質問を受けた際に、次のように答弁して注目を集めた。
〈あらゆる事態を想定しておく、最悪の事態を想定しておくということは非常に重要だと思います。先ほど有事という言葉がございました。それは色々な形がありましょう。例えば、台湾を完全に中国、北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。それは単なるシーレーンの封鎖であるかもしれないし、武力行使であるかもしれないし、それから偽情報、サイバープロパガンダであるかもしれないし、色々なケースが考えられると思いますよ。だけれども、それが戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます〉
エスカレートが予想される中国の威圧
これ以降、中国政府が日本の防衛力の強化や安全保障関連3文書の改定、防衛装備の海外への移転といった法整備などの取り組みを「新型軍国主義」と批判し始めたことは周知の通りだ。
「7月23日には、フィリピンの首都マニラで行われた東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連外相会議に出席していた茂木敏光外相が、中国の王毅外相と短い時間ながら言葉を交わしたことが報道されました。ああいった国際会議の場でも、中国は日本を批判する言動を繰り返している。つまり、彼らは国際社会に“日本が軍拡を進めている”と訴えるキャンペーンを張っているわけです。その流れに鑑みれば、中国による東シナ海、南シナ海における無法な活動はどんどんエスカレートしていくと見るべきでしょう」
懸念される「レアアース」が発見された南鳥島
翌7月24日には内閣府が、日本最東端に位置する南鳥島沖の海底から、半導体製造装置に不可欠とされるイットリウムやネオジムなど、複数のレアアースが発見されたことを明らかにした。
「今後、中国は南鳥島に対しても手を出してくると思います。尖閣諸島の海域では、中国海警局の船がEEZはおろか、領海への侵入まで繰り返していますが、中国が尖閣諸島の領有権を公式に主張し始めたのは、1971年のこと。ちょうど国連機関が島周辺の海底に大量の資源が埋蔵されている可能性を指摘した後でしたからね」
中国が得意とするのは、国際法を無視した行為を少しずつ積み重ね、いつしかそれが既成事実と見なされることを期した“サラミスライス戦略”と呼ばれる手法だ。
「今回、日本のEEZを航行した中国とロシアの艦船は、7月16日に沖縄本島と宮古島の間を抜けて来ています。このルートを取ったことは南西諸島に対する威嚇であると同時に、沖ノ鳥島周辺のEEZは認めないという意思表示でもあったと思います」
今後は尖閣諸島と同じように、沖ノ鳥島や南鳥島の近海でも中国船による無法が繰り返されることになるのだろうか。
小泉進次郎防衛相と木原稔官房長官の会見
今回の射撃訓練を公表した小泉進次郎防衛相は会見で、「国際社会に対して、今後もあらゆる機会をとらえて、事実や我が国の考えを説明、発信していく考えです」と語った。一方、木原稔官房長官も、「今般の中国海軍艦艇による我が国近海における射撃訓練というものは、周辺の船舶の航行に危険を及ぼし得るものであることから、中国に対して、外交ルートを通じて申し入れをすでに実施したものであります。政府としては中ロ艦艇の我が国周辺海域における動向について、引き続き懸念を持って注視するとともに、我が国海空域における警戒監視に万全を期して参ります」としている。いずれも、これまでの政府答弁の常套句だった“遺憾”は見当たらなかった。
政府が「遺憾」の使用を避けるべき意義
「今回はお二人に“遺憾”との言葉がなかった点は評価したいと思います。遺憾は英語で“regret(リグレット)”と訳されるそうです。これでは日本が中国の行為を“残念に思う”という程度にしか受け止めていないと、世界中に誤解されてしまいます。例えば“認められない”とすれば“It cannot be accepted”と、日本の国としての決意や姿勢を内外に示すことができるのではないでしょうか」
増大するばかりの自衛隊の任務
中国による日本への新たな挑発行為は、当面、日本にどのような影響をもたらすのか。
「中国が示威行為を行う範囲を広げてきたのであれば、自衛隊はそこでも対応を取る必要があるので、さらに警戒・監視を行う領域が増えたことになります。昨年7月、防衛省は陸自の観閲式、海自の観艦式、空自の航空観閲式という三つの大規模式典について、今後は実施しない方針を明らかにしました。中国や北朝鮮、ロシアなど周辺国における軍事活動の活発化や、それに伴う警戒監視任務の増大などが理由だと聞いています。いずれにせよ、日本の安全保障環境が依然として厳しさを増していることは間違いありません」
古代ローマの軍事学者ウェゲティウスは「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」と書き遺した。日々、覇権主義に直面している日本の安全保障の確立には、同盟国との連携強化や価値観を共有する同志国との協力、国際ルールの活用、適切な防衛力の整備が必須なのは当然だが、何より国民の理解が不可欠なことは言うまでもない。
デイリー新潮編集部
