「お金は貯まったけど正直退屈」十勝へ移住し馬と猫と息子と暮らす文筆家の家計と東京への思い【シリーズ:家賃おいくら?】

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ネット上で見つけた"気になる人"に、家賃を起点にインタビューして人生の選択を深堀りする本連載。今回は北海道・十勝で馬と猫2匹、2歳の息子を一人で育てながら暮らす文筆家・佐々木ののかさん(36)に話を聞いた。

取材・文=蜂谷智子 写真提供:佐々木ののかさん

■佐々木ののか(北海道・十勝在住)

仕事:文筆家・狩猟者
家族構成:2歳の息子、猫2匹、馬1頭
住宅ローン:約3万3000円/月
間取り:42平米・ワンルーム平屋(敷地はテニスコート約8.5面分)
支出優先順位:(1)貯蓄・投資 (2)馬・猫のお世話代 (2)住宅ローン(2位とほぼ同じ)

東京時代は飲食代が月15万

佐々木さんは、数年前まで東京で暮らしていた。毎晩のように飲みに行き、飲食費は月15万円にもなっていた。ネイルに年12万円、真っ赤に染めたロングヘアの維持に年24万円、整体に年15万円。メンタルケアのため、1回1万円のカウンセリング。それでいて、貯金はほぼゼロだった。

「自炊はほぼしなくて、飲んだついでにご飯か、外食かコンビニ。その他に、自分を保つメンテナンスにお金をかけていましたし、服も1回買うと3万円くらいになっていて。今となっては『どうやって暮らしてたんだろう?』って思います」

住まいは下北沢と三軒茶屋の間の1K(6畳+キッチン)。家賃は6万6000円で、猫と暮らせるペット可物件だった。贅沢な部屋ではないが、当時は「思い切って借りた」部屋だったという。そして家賃以外の収入は、ほぼ丸ごと「自分のメンテナンス」や「交際費」に消えていた。

「お金を使ったメンテナンスを通じて、“素敵な自分”にしてもらうと、テンションが上がるんです。でも結局、それって人の手を借りないと立て直せないということですよね。本人が自立している人なら、それでもいいのですが、私は誰かに自分を整えてもらうことに、依存していたのかもしれません」

その佐々木さんは今、北海道の十勝に42平米の平屋を持ち、動物たちと2歳の我が子と賑やかに暮らしている。住宅ローンは月3万3000円。住居費は東京時代のちょうど半分になった。

愛猫の死から2週後に馬を迎えた

もともと「ずっと賃貸派」。転機は、体調を崩して北海道で静養した時期に、東京から連れてきた愛猫「みいちゃん」を失ったことだった。

「私の体調が良くなってきたタイミングで、猫の具合が悪くなって。みいちゃんがいなくなったら生きていけない、と本気で思いました」

愛猫の介護の日々のなかで、自分を支えてくれる存在を探した。新たに猫を2匹迎えるのと同時に、銀座のエルメスギャラリーで見たシャルロット・デュマによる馬の映像を思い出す。映像では、与那国島で暮らす少女と与那国馬の親密な関係性が描かれていた。「馬と暮らしたら楽しいんじゃないか」。みいちゃんの死からわずか2週間後、愛馬「ペリート」を迎えた。

「まだ家の話も出てない時に、馬を買っちゃって。そこから、馬を迎える家が必要になったという順番でした。はじめは、地元北海道に戻ったのは一時的なもので、いずれ体調が回復したら東京に戻ろうと思っていたのに、思いがけずこの土地に家を建てることになりました」

家より先に、馬。祖母が残した土地を父から譲り受け、馬と暮らすための家を建てた。譲り受けた土地はテニスコート約8.5面分ほどと広大だが、敷地内にはその2〜3倍以上の大きさの農地もあるという。

住宅のローンの返済期間を少し長めにして月々の支払いを抑えた。馬の譲渡費用の一般的な相場は60〜70万円程度だが、オーナーさんのご厚意で、かなり良心的な価格で譲ってもらったという。

「当時は本当に必死で、人生における大切な決断を勢いで決めてしまいました。今となっては、もっといろんな人に相談すればよかったと思っています(笑)」

美容代を「馬と猫」に全振りした

北海道では、お気に入りの美容室にもネイルサロンにも出会えず、自然と足が遠のいた。

美容関係の出費をやめて、それを猫と馬のご飯代にまわしたら、ちょうどネイルと髪にかけていたぶんくらいの出費で収まりました。あとは自炊するようになって、お金が貯まるようにもなりました。1回貯め始めたら、お金を貯めるってこんなに安心するんだって感じて。保険を見直そうとか、NISAを始めようとか、自分で調べ始めたんです」

コロナ禍の移住で取材はリモート中心になり、移動時間が消えた。パソコンを閉じれば、東京とは全く違う景色が広がり、気持ちの切り替えも早くなった。ライティングスキルを買われた企業からの依頼が増えて、仕事の質が変わった。

「結果的に現在の収入は、東京時代の1.5倍ほどになりました」

「正直、退屈ですよ」

では、めでたしめでたし…かというと、佐々木さんの答えは、意外なほど率直だった。

「ここでの暮らしは、退屈に感じられることもたくさんありますよ。越してきた当初、静養するにはちょうどよかったのですが、元気になった現在は、東京のような刺激がなくて寂しい気持ちもあります」

気軽に飲みに行ける環境も、お気に入りの古着屋もない。だから、ここでしかできないことを探す。馬、狩猟。庭での夕食、畑仕事。来年はピザ窯も作る予定。「退屈」な日々を充実させるための、工夫をしている。

そんな佐々木さんの語る十勝の生活と東京暮らしとの違いとは「用意された選択肢の多さ」だという。

「東京は無限に選択肢があります。友人の話を聞くと、子どもをインターナショナルスクールに入れたとか、海外留学させたとか。すごいなと感心しつつ、私がそのなかに居たら苦しくなりそうだとも思います。物理的に離れている今は、心が乱されることはないですけど」

何でも選べる東京。常に魅力的な選択肢が提示され、憧れを焚きつけられる東京。ただし選択をし続けるためには、豊富なリソースが必要になる。

「体力的にも、これからずっとアッパーではいられない。貯金もできない。あのままずっと東京にいたら…生活が続かなかったと思います」

刺激的だが、消耗する東京。刺激が少なく「退屈」に感じられることもあるが、マイペースで暮らしを続けられる十勝。佐々木さんが選んだのは後者だった。

42平米を使い倒す 暮らしの工夫ベスト3

広大な農地の中にぽつんと建てた平屋。そんな家を住みこなす佐々木ののかさんの工夫は?

(1)スペースの有効活用
ベッド下をレンガで底上げして収納に。3畳のウォークインクローゼットは本棚とソファを入れて「自分だけの部屋」に改造。

(2)子どもが退屈しない遊び
壁に透明テープを貼ってボールを投げる手作りゲーム。「拾いに行かなくていいので楽です」

(3)お金をかけずに楽しむ
庭での夕食、草刈り、小さな畑。「お庭で完結できることを増やしたい」

日は6時半の起床から、保育園の送り、馬の世話、執筆へ。寝かしつけ後の0時までが晩酌と読書、猫との時間だ。

刺激と引き換えに手に入れた「続けられる暮らし」

東京で美容にかけていたコストは、馬と猫の世話代に。貯金ゼロの生活は、NISAを積み立てる余裕に変わった。今の佐々木さんは心安らぐ生き物たちを相棒にした、北海道十勝の暮らしを、一歩一歩育んでいる。

「人間と関わるのが難しくなった時、動物が世界と自分の接点になってくれたんです。動物は、私の性格や人格をジャッジしない。そこが安心するんですよね」

刺激も便利さも、東京の方が圧倒的に多い。それでも…佐々木さんの暮らしは問いかけてくる。その刺激的な毎日は、あなたにとって持続可能ですか?

蜂谷 智子(はちや・ともこ)
ライター・編集者 編集プロダクションAsuamu主宰