白味噌の煎餅とバニラアイスが一体に。伏見稲荷大社の門前町で3代目が挑んだ「子ぎつねアイス」誕生秘話

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「きつね煎餅を器にして、アイスクリームをのせているだけ?」 見た目でそう思ったのですが、一口食べて驚きました。煎餅のミミを振りかけてあり、サクサクした食感も良く、アイスが深みのある味わいに。さらに、きつね煎餅の耳を割ってアイスをすくって食べると、煎餅とアイスの温度や硬さがバラバラで違和感を覚えたものの、咀嚼するほどに白味噌の優しい甘さとアイスのミルク感が一体になって、素直に美味しいと思いました。この「子ぎつねアイス」500円は、きつね煎餅で人気の「おせんの里 松屋」が、2026年6月末から販売を開始した新商品。食べ歩きのお店が軒を連ねる伏見稲荷大社の門前町で、老舗の味を守りながら進める「スイーツへの新たな挑戦」について、お話を伺いました。

「きつね煎餅を広めたい」と挑む、3代目の思い

1枚ずつ丁寧に手焼きしている2代目の松久隆さん

昭和5年創業の松屋は、伏見稲荷大社の門前で、白味噌を入れた稲荷煎餅を焼き始めた元祖のお店。きつねの面を模した「きつね煎餅」を考案し、参拝後のお土産として人気になったそうです。近年では、きつね煎餅を顔の前にかざした写真がSNS映えすると、買い求める観光客が増えていますが、「昔ながらの地味なお菓子で知名度もまだまだ」と3代目主人・松久徹さんは感じているそうです。

(左から)さつきさん、隆さん、徹さん、藍子さん。松久家で稲荷煎餅を守る

きつね煎餅は、大の「きつねちゃん」、小の「子ぎつねちゃん」があり、立体的なので裏返すと器になる。2代目女将の松久さつきさんは、以前から何かできないかと考えていたそうで、その思いを形にしたのが3代目の松久徹さんと3代目女将の松久藍子さんでした。「子ぎつねちゃんに、アイスクリームでものせてみる?」と試してみたら、これが予想を上回る美味しさ。白味噌の煎餅の良さがしっかり味わえることに、2代目の松久隆さんも驚いたとか。しかし、ここから試行錯誤が続き、市販のアイスクリームをいくつも買ってきて、何度も試食を重ね、卸会社の協力を得て、業務用アイスも食べ比べて、最も合うバニラアイスを探し出しました。

煎餅のミミが味の要になり、サクサクの歯応えも楽しい

子ぎつねちゃんにアイスをのせるだけでは、ただアイスを食べているだけ。独自のものが必要と、煎餅を整形するときに切り落とすミミを振りかけたら、これがかなり美味しかった。サクサクの食感も楽しく、これまで廃棄していたミミも無駄にならない。さらに工夫は続き、「食べ歩きでゴミを出したくない」と思っていた徹さんと藍子さんは、煎餅で匙を作ることを決めました。アイスをすくえる強度があり、最後は食べて美味しいものをと試作を重ね、持ちやすいように端をカーブさせた煎餅の匙ができあがり、子ぎつねアイスは完成しました。

時代が追いついた「子ぎつねちゃん」のデザイン

子ぎつねちゃんの煎餅とアイスの相性は抜群

昭和の初め、岐阜県の味噌煎餅店で修業した初代・松久良三さんが、独立して京都で煎餅屋を開業。考案した白味噌の稲荷煎餅やきつね煎餅が人気になりました。良三さんに教えを乞うた兄弟や知り合いが、相次いで稲荷煎餅店を始めたことで、きつね煎餅は広まって伏見稲荷の名物に。しかし「どの店の煎餅も同じでしょ」とお客様に言われたことで、元祖ならではのオリジナルなものをと、2代目の隆さんが、長女・麻子さんが描いたイラストを元に、子ぎつねちゃんを作りました。ところがこのデザインが不評で「これはきつね煎餅じゃないと言われてね、失敗でした」と隆さん。

転機が訪れたのは2013年、3代目を継いだ徹さんが、祖父の型を復活させて、親子のきつね煎餅として販売を始めたところ、近年になって海外の観光客を中心に「デザインがカワイイ」と子ぎつねちゃんの人気が高まっているとか。「このアイスで、父が作った子ぎつねちゃんをもっと広めたいですね」と徹さんは嬉しそうに語ります。

子ぎつねちゃん170円、きつねちゃん200円(共に税込。2026年7月現在)

稲荷煎餅では、季節物を入れると30種ほどの煎餅を手作りされています。お店の奥の作業場と、通りに面した焼台で手焼きされていて、通りからその様子を見学できます。取材の時に焼かれていたのが、辻占入り鈴せんべい。アメリカで誕生したフォーチュンクッキーは、北陸地方の神社で新年に配った辻占煎餅が発祥と言われています。京都・伏見稲荷で辻占煎餅を初めて焼いて販売したのは、松屋とのこと。

生地を入れた型を返しながら丁寧に手焼きする3代目の松久徹さん

辻占入り鈴せんべいは、丸く焼いた煎餅を立体的に2回折って、中に大豆を入れて、おみくじを挟んでいます。焼き型から外して数秒以内に成形しなければならず、指先に絆創膏を貼っていますが、それも気休め程度とか。「熱いですが慣れれば平気ですよ」と徹さん。大豆が入っていて、振るとカラカラと音が鳴るのは、初代の良三さんと隆さんのアイデアだそうです。辻占煎餅は、恋占いなので、クジには恋愛にまつわるアドバイスが書いてあり、凶は入っていないそうなので、お土産にもおすすめです。

大豆を入れて鈴のようにカラカラと鳴るのは松屋の鈴せんべいだけ

恋占いのおみくじが挟んである鈴せんべい120円(2026年7月現在)

きつね煎餅で世界中を笑顔にしたいスマイルコネクト

子ぎつねちゃんとの笑顔一枚(写真提供:松屋)

きつね煎餅を買ったお客様のほとんどが、顔のそばにきつね煎餅を寄せて写真を撮影する。その皆さんが笑顔であることに気づいた三代目女将の藍子さんが「Smile Connect(スマイルコネクト)」を始めています。きつねちゃん、子ぎつねちゃんから生まれる笑顔が日本、そして世界へ広がって、みんなが幸せになってほしいというもの。お店の前を通った観光客に声をかけて、承諾いただいた方の写真を松屋のInstagramに投稿されています。「ご協力いただいた方にはきつねちゃんか子ぎつねちゃんをプレゼントしていますが、笑顔が世界に広がればいいねと、その思いに共感してくださる方がほとんどで、インスタを見て、スマイルコネクトに参加したいと立ち寄ってくださる方もいらして、私たちが元気と笑顔をいただいています」と藍子さん。

店の前のベンチで休憩もできるので、子ぎつねアイスで休憩を

稲荷煎餅を焼いているところの撮影も見学も自由とのこと。松久家の皆さんはとても気さくなので、遠慮なく声をかけて、おしゃべりを楽しんだり、伏見稲荷の地元ならではの情報を教えてもらったり、いろいろと交流してみては。

[店名]おせんの里 松屋

[住所]京都市伏見区深草一ノ坪町27

[電話番号]075-641-1906

[営業時間]7時〜18時

[休日]不定休

[交通]京阪本線「伏見稲荷」駅から徒歩1分。JR奈良線「稲荷」駅より徒歩3分

文・写真/寺田鳥五郎

テラダ・トリゴロウ。京都精華大学美術学部(現・マンガ学部)卒業。ココロ株式会社代表取締役。1968年、京都生まれ。タウン誌編集者、地方新聞記者、フリー編集ライターを経て、編集デザイン会社を設立。「人に歴史あり」を信条に取材を重ね、その人の魅力を伝えることを心がけている。

【画像】きつね煎餅や子ぎつねアイス、鈴せんべいを手作りする様子(10枚)