さかなクンは水族館も寿司屋も続かなかった。”撤退”しまくってきた二人が伝えたい「白旗を上げる勇気」

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もし、大勢の人から何かの原因を「お前のせいだ」と責め立てられたら、どう思うだろう。違うと思っていても「そうかもしれない」と自分自身を疑ってしまうかもしれない。そうなれば、自分の存在意義すら見失いかねない。

毎年7月の第3月曜日に定められた「海の日」を前に、紹介したい一冊の絵本がある。国連「1.5℃の約束」メディアコンパクトの一環として刊行された『あちちち地球とだいじなやくそく! ニコとサクの大冒険』だ。

主人公は、温暖化の「悪者」として語られることの多い二酸化炭素のニコ。しかし、ニコは本当に悪者なのだろうか。自分の存在意義を見失ったニコはその答えを探す旅に出る。世界を巡るなかで、果たしてニコは自分らしい「居場所」を見つけることができるのだろうか。

地球温暖化という環境問題をテーマにしながらも、「自分の価値とは何か」「情報をどう見極めるか」を問いかける。気候変動や多様性について、子どもと一緒に学べる一冊だ。

絵本の刊行を機に、国連広報センターの根本かおるさんと、魚類学者でありタレント、画家としても活躍するさかなクンの対談を実施。この絵本に触れながら、地球で起きている「異変」や日常生活にも影響が出ていることなどをテーマに二人が語ったことを紹介する。

国連の現場で長年にわたりグローバルな課題と向き合ってきた根本さん。一方で、好きなことをとことん掘り下げ、その魅力を社会へ発信し続けてきたさかなクン。

外から見れば順調にキャリアを築いてきたように映る二人だが、その裏側には、立ち止まり、迷い、遠回りを重ねた時間があったという。

そうした試行錯誤の過程を経て、二人はどのようにして自分らしい「居場所」を見つけてきたのだろうか。絵本の主人公・ニコに想いを馳せながら、「好き」を仕事にすること、そして進むべき道に迷ったときにどう向き合うかなど、キャリアや生き方について話を聞いた。

自分には合わないかもと思ったら…撤退する勇気

──主人公のニコのように、学校社会などでも「ひとりぼっち」という孤独を感じたり、居場所を見つけられずにいる子がいます。そんな思いをしている子どもたちに向けて、メッセージやアドバイスがあれば教えてください。

根本かおるさん(以下、根本さん):そうですね。「そのやり方しかない」とは、絶対に思わないことだと思います。

私が大切にしているのは、「白旗を上げる勇気」です。

自分に合わない、違和感があると感じたら、撤退していい。別のやり方もあるんじゃないかと、自分らしくがんばれる道を探すことが大切だと思います。

根本さん:私は40代後半のころ、心身ともに不調をきたし、2年ほど休職したことがあります。

もっと楽に、自分が取り組めるやり方があるんじゃないかと考えて、その職場を辞めました。結果的に、それが今の仕事につながっていて、あのとき一度撤退した経験は、自分にとって大きな財産になっています。撤退しても「自分はなんとかなる」と思える自信がついたんです。

困ったときは、こう相談すればいい。なにがなんでも火の玉みたいにがんばらなくてもいい、ということも学びました。

「撤退する勇気」と「転んでもただでは起きない」。これが私のモットーですね。

さかなクンが撤退した「お魚の道」

──素晴らしいですね。さかなクンは「撤退する勇気」について、いかがでしょうか?

さかなクン:はい、さかなクンは撤退しまくりました……(苦笑)。

どんなことがあっても、絶対にお魚の道に進みたいと強く思っていました。お魚に関わるお仕事をしたくて、水族館さんの飼育員さんになろうとしたんです。でも、いざ勤めてみると、お魚だけに集中できないんですよね。

機械の点検や水質管理、餌づくりに掃除……。機械はとっても複雑で覚えることは多いし、おっちょこちょいで餌は床にぶちまけるし。お魚以外のことが全然覚えられなくて、「これはちょっと自分には無理かもしれないな」としばらくして撤退しました。

熱帯魚屋さんでは、「この子(お魚)かわいい、やっと餌付いた! 元気になってきた!」と思ったら、どんどん売られていく。それが、どうしてもつらくて……。

お寿司屋さんで修行してみたときは、握ったお寿司がおにぎりみたいになぜか大きくなりすぎてしまって、「ダメだ、これは」と。

なにが自分に合っているのかがわからず、当時はたくさん悩みました。でも、今ふり返ると、どれも大切な「撤退」だったなと思います。

あるとき、お寿司屋さんの大将さんがとてもやさしい方で、「君は寿司職人には向いてないね。だったら、壁いっぱいに魚の絵を描いていいよ」と貴重なギョ経験をくださったんです。その絵を描く日々をテレビ局の方が取材してくださり、ドキュメンタリー番組になりました。そこから、“さかなクン”のお仕事につながっています。

根本さん:なにが幸いするかわからないですよね。

さかなクン:はい。全部、無駄ではギョざいません。お寿司屋さんや水族館さんで学ばせていただいたことは、とっても貴重な知識となり、さまざまな場でお魚の魅力とともにお伝えできる宝でギョざいます。

根本さん:私は大学卒業後、最初に就いた仕事がアナウンサーでした。でも、東京の民放キー局は標準語が基本ですよね。関西出身の私は方言が強くて、ニュースが終わるたびに先輩に呼び出され、イントネーションがおかしいと注意されていました。それがつらくなって、「この会社の中で、ほかに私にできること、やりたいことは何だろう」と考え始めたんです。

すると、アナウンサーという仕事は、ひとつの入り口にすぎなくて、自分が本当にやりたいのは「伝えること」だと気づきました。

それなら、報道の仕事も同じ。自分の足で情報を集め、リポートし、原稿を書く。そのほうが向いているんじゃないかと思い、報道局に異動させてもらいました。ふり返ると、報道記者時代の人脈や学び、理解がなければ、今の自分はありません。

さかなクン:すギョい‼︎ 好きなことを探すためには、撤退してもいい。根本さんからのすギョく素敵なお言葉です‼︎

根本さん人生は、直線じゃない、ということですね。

さかなクン:はいっ! 同時に、自分が好きなこと、夢中になれることは、ときには撤退しながらでも、揺るがずに「好きな気持ち」を持ち続ける。それも大切なんだなと思います。

──根本さんは「伝えること」、さかなクンは「魚」に携わりたい。その原点となる、「あ、これが好きなんだ」と気づいた瞬間はありましたか?

根本さん:子どものころから、いろんな民族の方がガヤガヤと集まっている場所が好きでした。スパイスの香りも含めて。父が商社勤務だったので、海外からのお客さんが家に来ることもありましたし、神戸で育ったこともあって、街に出ると多国籍な文化に自然と触れられる環境だったんです。

そうした経験が、世界のことに関心を持つ土台になっていたのかもしれません。

さかなクン:自分は、友達が描いてくれたタコの絵がきっかけでした。ノートから飛び出してくるような、すギョく力強いタコちゃんだったんです!

「こんな生き物がいるのか!」とわくわく調べ始めて、海に行くようになりました。潮風がさわやかだな〜、波の音が心地いいな……と、だんだん海が大好きになって通うようになりました。

根本さん:ニコとサクと同じで、出会いが人生を変えた、ということですね。

さかなクン:はいっ♬ その前は、町を走っているダンプトラックちゃんやゴミ収集車ちゃんを見るとワクワクして、とにかく夢中だったんですよ♪ そのころはトラックちゃんの絵ばかり描いていたので、もしかしたら「とらっくクン」になっていたかもしれません(笑)。

撤退が、新たな出会いと居場所をもたらす──

それは、ニコがペットボトルという“行き場のない場所”にたどり着いたからこそサクと出会い、旅に踏み出した物語とも重なる。

絵本『あちちち地球とだいじなやくそく! ニコとサクの大冒険』が示すのは、「がんばり続けること」だけが正解ではなく、遠回りや立ち止まりの先にも必ず新しい道が拓けるというシンプルだが力強いメッセージだ。読み終えたあと、自分の選択やこれからの一歩を前向きに見直したくなる──そんな示唆に富んだ一冊である。

では、この物語と同じ時代を生きる私たちは、どんな力を身につけていけばいいのか。

AIによって情報も映像も“もっともらしく”生成され、気候変動をめぐる議論でさえ真偽が入り混じる時代において、「何を信じればいいのかわからない」と感じる人は少なくない。最終回では、フェイクニュースが蔓延する現代で何を疑い、何を拠り所にし、どう思考すべきか──そして子どもたちにどんな視点を手渡せるのかを、二人の言葉から探っていく。次回の配信もお楽しみに。

【さかなクン/魚類学者、東京海洋大学名誉博士・客員教授、 画家】

東京都出身、館山市在住。『朝日小学生新聞』で「おしえてさかなクン」を連載するほか、NHKEテレの冠番組『ギョギョッとサカナ★スター』毎週(金)に出演。テレビやラジオ、講演、執筆活動を通じて、 魚の情報や知識、美味しい食べ方や環境問題などを発信する。さらに画家としても活動し、東京海洋大学名誉博士・客員教授も務めている。

【根本かおる/国連広報センター(UNIC)所長】

東京大学法学部卒。テレビ朝日を経て、米国コロンビア大学大学院より国際関係論修士号を取得。1996年から2011年末まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)にて、アジア、アフリカなどで難民支援活動に従事。フリー・ジャーナリストを経て2013年8月より現職。2015年以来続けるSDGs活動が評価され、2021年度日本PR大賞「パーソン・オブ・ザ・イヤー」受賞。

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