人間が宇宙人と接触していないのは「宇宙人がAIを導入したから」ではないかという説

フェルミのパラドックスとは、物理学者のエンリコ・フェルミが指摘した「宇宙には人類以外の知的生命体が存在する可能性が高いにもかかわらず、これまで人類と接触した宇宙人や地球外文明が存在しないという矛盾」のことです。この理由については「太陽系に訪れる価値がないから」「他の文明に滅ぼされるのを避けるため身を潜めているから(暗黒森林仮説)」などの説がありますが、新たに「宇宙人が宇宙開発にAIを導入したから」という説が提唱されました。
https://arxiv.org/abs/2606.13914
Superintelligent AI in space could explain the Fermi Paradox | Live Science
https://www.livescience.com/space/cosmology/superintelligent-ai-in-space-could-explain-the-fermi-paradox
フェルミのパラドックスに対する回答にはさまざまなものがあり、今日でもたびたび新説が発表されています。数理経済学の博士号を持つオーストリアの独立研究者セルゲイ・イブリエフ氏は、プレプリントサーバーのarXivに投稿した論文で、「Quiet Expansion filter(静かな拡張フィルター)」という概念を提唱しています。
イブリエフ氏の中心的な主張は、宇宙空間で宇宙人が建造した巨大構造物やシグナルが見つからないのは、文明が宇宙開発に自律型AIを導入して「Autonomous AI-Cosmoindustry(AICI、自律型AI宇宙産業)」の域に達すると、威信やロマンに駆り立てられた「騒々しい資源至上主義的な帝国」は非合理的になるというものです。
AICIの達成には、AIを介した自律性によって宇宙機器の設計・製造・打ち上げ・修理が可能な、自己持続型の地球外産業およびコンピューティングシステムの構築が必要です。人類は宇宙データセンターの建造などによってこの領域に踏み出そうとしていますが、依然として人類による継続的な介入が必要であり、AICIの達成にはほど遠いのが実情です。

真のAICIは文明が継続的な介入を行わなくても、AIが自律的に母星を超えたインフラ拡張を行います。この段階に入ると、合理的なAIシステムは人類のような生物を突き動かすロマン・征服・名声といった動機に基づく宇宙開発や宇宙旅行を拒否し、宇宙開発を単なるリスク管理として捉えるとのこと。
高度に発達した文明のAIは、単一の惑星や恒星系のみで生命を維持することをリスクと捉え、他の恒星系に進出しようと試みます。論文では「AICIを達成した文明は、10kgの恒星間探査機を光速の1%で別の恒星系に送るために約4.5×1013ジュールのエネルギーを費やす。これは文明が生み出す総エネルギーのごくわずかに過ぎない」と論じられています。
重要な点は、この探査機には人類のような大きな生命体は含まれておらず、あくまでバックアップとしての「生命の種」のようなものしか保管していないということです。別の恒星系にある生命維持に適した惑星に到達した探査機は、母星で大災害が発生した時の「文明のバックアップ」として機能し、十分に高度なAIであれば文明をゼロから再建できます。
つまり、発展途上にある地球人は「巨大な恒星間宇宙船で何百万もの生物を移動させる」というロマンある想像をしがちですが、AICIに達成した文明は生物の多様化・知識の保存・科学的観測といった合理的な目標に突き動かされて「低質量で探知が困難なバックアップ」のみを別の恒星系へと送り込むというわけです。その結果、高度な文明を持った地球外文明は、人類と接触したり観測されるような痕跡を残したりせず、ひっそりと宇宙開発を進めることになります。イブリエフ氏はAICIに達するしきい値のことを「静かな拡張フィルター」と呼んでいます。

科学系メディアのLive Scienceは、静かな拡張フィルターという概念は人類がこれまで地球外文明に遭遇しなかった理由を説明するものだと指摘。「このシナリオではカルダシェフ・スケールのタイプIII文明の熱シグネチャーが見つからなかったという結果は、銀河が空っぽであることを意味するわけではありません。単に成功した文明が、バックアッププランが必要になった場合に備えて『静かな』状態で存在していることを意味するだけなのです」と述べました。
