『銀河の一票』の結末に“居心地の悪さ”? “悪人がいない”物語はどこまで有効か
6月29日、『銀河の一票』(カンテレ・フジテレビ系)が最終回を迎えた。
参考:『銀河の一票』あかりが落選しても感動を呼んだ理由 “綺麗ごと”を超えた大団円の必然性
本作は、東京都知事選挙を題材にした全11話の政治ドラマ。
物語は、スナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)を都知事選の候補者として打ち出した選挙参謀の星野茉莉(黒木華)が、与党・民政党から推薦を受けた政治家・日山流星(松下洸平)や、他の候補者たちと都知事選でしのぎを削る選挙バトルと、茉莉の父親で与党幹事長の星野鷹臣(坂東彌十郎)がある人物の死に関わっていることを告発する手紙の真相をめぐって、政治の闇に切り込んでいくサスペンスの両輪で進んでいくのではないかと、当初は思われた。
だが、都知事選が本格的にスタートするのは終盤で、手紙の謎も第10話まで、大きく展開されることがなかった。
逆に大切に描かれていたのが、茉莉とあかりが様々な人と対話を重ねる中で、都民が抱えている悩みや法制度の不備を知っていく場面。
様々な対話を繰り返す中で、2人は、誰もとりこぼさない社会を目指そうと考えるようになる。
本作の脚本を担当した蛭田直美は、『しずかちゃんとパパ』(NHK総合)や『舟を編む ~私、辞書つくります~』(NHK総合)といったドラマで高い評価を獲得している人気脚本家だが、『銀河の一票』でチームあかりが誰も取りこぼさない社会を目指す姿を観て、蛭田が脚本を手掛けた2025年のテレビアニメ『Turkey!』を思い出した。
本作は、長野県にある高校のボウリング部に所属する女子高生5人が、戦国時代にタイムスリップしてしまう物語。
5人は殺し合いや家のために自分を犠牲にすることが日常だった世界の人々と触れ合う中で、現代人として戦国時代と対峙することになるのだが、5人が自分たちとは異なる価値観の人々と対話を重ねていく中でみんなの幸福を模索する姿は『銀河の一票』に通じるものがある。
ボウリング部の部長・音無麻衣の台詞「みんなで、一緒に帰ろうね」は本作のキャッチフレーズとなっているが、劇中で5人は何度も生き残るために誰かを犠牲にしなければならない状況に追い込まれる。
だが、麻衣たちは、誰一人欠けることなく全員で現代に帰ること、そして戦国の世で出会い親切にしてくれた戸倉家の人々を救うことで、誰も犠牲にしないように奮闘するのだが、その姿は「誰もとりこぼさない社会」を目指す茉莉とあかりの姿と重なる。
ただ『Turkey!』で描かれる対話は、一つ選択を間違うと平気で相手を殺そうとする武士たちとの命をかけたやりとりとなっており、根本のところで、命に対する考え方が大きく異なる相容れない他者として描かれている。
よくある部活ものの深夜アニメかと思いきや、殺人や略奪が当たり前の戦国時代に少女たちが置かれ、ボウリングの技術によってトラブルを乗り越えていくという突飛な舞台設定が本作の魅力だが、そのシチュエーションが一発ネタで終わらないのは、テーマとモチーフに対して蛭田直美が真摯に向き合っているからであり、だからこそ本作は荒唐無稽な物語でありながらも、生々しい手触りが終始存在した。
一方、『銀河の一票』は政治の世界の内幕や、生活に困っている人々の声が、とてもリアルで現代的な問題を扱っているが、悪人を描かないという性善説がとられていた。
そのため、すごくリアルでありながら「こうあってほしい」という理想としての政治を描いているように感じた。
本作のプロデューサー・佐野亜裕美は、2022年に『エルピス ―希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)というドラマを手掛けている。本作はある冤罪事件の追跡調査をおこなう中で、事件の背後にある国家権力の闇と向き合うことなるテレビ関係者の話だった。つまりテレビ関係者の視点から描いた政治ドラマだったと言えるが、今振り返ると『銀河の一票』とは真逆のアプローチで作られていた。
佐野は『エルピス』のシナリオブック(河出書房新社、著者・渡辺あや)の巻末に収録された「特別対談 渡辺あや×佐野亜裕美 『エルピス』ができるまで、あるいは二人の奮闘記」の中で、冤罪はひとりの悪人とか権力者によって生み出されるものではなくて、「むしろ、だれも「悪」ではない、という点が重要なんです」と語っている。
そして、本作では冤罪を生み出す構造とは別に、『エルピス』では権力が犯す罪を描いているが「大門副総理という象徴的な人物がいるがゆえに、陰謀論の話としてだけで捉えられてしまう可能性があると思うんです」と自ら問題点を指摘する。そう見えないように工夫はしたと佐野は語るが、「企画を立ち上げた者としましては、まだできることがあったんじゃないかという反省があります」と語っている。
この反省は、『銀河の一票』に活かされている。
日山流星、星野鷹臣、政策秘書の雫石誠(山口馬木也)といった、チームあかりと敵対することになる与党の政治家や秘書たちは絶対的な悪として描かれておらず、陰謀論的な語りからは逃れている。
だが、悪人はいないという描き方を選んだ結果、当初存在した物語上の対立軸が見えなくなり、最終的に自己と他者の境界が曖昧な日本の村社会的な慣れ合いとしての側面が強くなってしまったように感じた。
最終的に都知事選は日山流星が勝利し、チームあかりの茉莉、あかり、五十嵐隼人(岩谷健司)、雲井蛍(シシド・カフカ)が副知事として迎えられることになる。
筆者はこの結末に居心地の悪さを感じた。
客観的に考えれば、与党の推薦を受けており、政治家としての知名度が高い日山流星が勝つのは当然なので、リアルな落とし所ではあるのだが、「これでは敵陣営に取り込まれただけではないか?」「月岡あかりに投票した人たちは本当に納得できるのだろうか?」と考えこんでしまうと同時に、「チームあかりがやりたかった都政が本当にできるのだろうか?」と心配になる。 絵空事になっても構わないので、敵陣営との対話をしっかりと描くことで主張の違いを明確にし、その上でチームあかりが勝利する場をちゃんと観たかったというのが、正直な気持ちである。(文=成馬零一)

