この記事をまとめると

■日産が新型「プリメーラEV」をフィリピンで世界初公開した

■かつてのFFハンドリングマシンは中国産EV「N7」ベースの大型セダンに変貌していた

■復活を喜ぶ声と「これじゃない……」という落胆の声が交錯する

約20年の沈黙を破って「プリメーラ」が復活

 日産ファン、いや、1990年代の熱いクルマ界隈を知るすべての自動車好きにとって、ひっくり返るようなニュースが飛び込んできた。なんと、あの伝説の名車「プリメーラ」の名前が復活したのである。

 日産は2026年6月4日、第10回フィリピン国際モーターショー(PIMS)において、新型セダンとなる「プリメーラ EV」を世界初公開した。日本では2005年に3代目(P12型)が販売終了して以来、欧州でも2008年モデルで終了して以来の劇的な車名復活劇だ。しかし、手放しで喜んでばかりはいられない。なぜなら、その中身はかつての我々が知るプリメーラとは、あまりにもかけ離れた「新しい乗りもの」へと変貌を遂げていたからだ。

 そもそも「プリメーラ」の初代(P10型)が誕生したのは1990年のこと。当時の日産は「1990年代までに技術世界一を目指す」という高遠な目標を掲げた「901運動」の真っ只中。そしてプリメーラの最大の特徴は、驚異的なハンドリング性能にあった。リヤに新開発のマルチリンク式サスペンションを採用し、当時の国産FFセダンとしては異例なほど硬く引き締まった足まわりを採用。ステアリングを切り込めば、FFとは思えないほど鋭くノーズが入り、狙ったラインを正確にトレースする走りは、「欧州車を超えた国産ハンドリングマシン」と大絶賛された。

 その後プリメーラは、初代のDNAを色濃く継承した2代目のP11型、宇宙船のような先進デザインをまとった3代目のP12型へと進化を続け、多くのファンに愛されながらも、セダン市場の縮小に伴い、その歴史を終えていた。

 そんな熱い血統を持つプリメーラが、長い沈黙を破ってフィリピンの地で復活した。公式発表によると、新型「プリメーラ EV」は完全なバッテリーEVセダンで、中国をイノベーションとグローバルな輸出のハブとして商品競争力を強化する戦略の一環として、東南アジア市場へ向けて輸出されるグローバルモデルという位置づけだ。

 そのエクステリアを御覧いただければ一目瞭然だが、じつはこの新型プリメーラは、日産の中国合弁会社である東風日産が開発して大きな話題を呼んだ新型電動セダン「N7」がベースになっている。

 日産は、「洗練されたデザインと上質な快適性、そして多くの先進技術を搭載したセダン」と紹介しており、質感の高い室内空間や、充実したコネクティビティ機能を備え、より上質で先進的なドライビング体験を提供するという。

日本への導入は未定

 しかし、その中身やキャラクターを知るにつれ、かつてのP10型やP11型をリアルタイムで知る熱狂的ファンからは、「これじゃない……」という複雑なタメ息が漏れてくるだろう。そう感じてしまう最大の理由は、あまりにもドラスティックに変化したそのキャラクターと巨体にある。かつてのプリメーラは、日本の狭い路地でもスイスイ走れるコンパクトなボディに、少し路面の凹凸を拾うほどの硬派な足まわりで「運転の楽しさ」を追求したセダンだったからだ。

 ベースとなったN7のサイズ感は全長4.9m超、全幅約1.9mに達する、堂々たる大型モデルであり、今回アピールされている要素が「抜群のハンドリング」や「硬派な走り」ではなく、「上質な快適性」「デジタルなコネクティビティ」といった、高級ハイテククルーザー的な価値観にシフトしている。もちろん、EVならではの低重心を活かしたスムースで力強い走りは期待できるだろうが、あの「究極のFFハンドリングマシン」と呼ばれたソリッドな乗り味を期待すると、肩透かしを食らう可能性が高い。

 往年のファンから見れば、中国市場向けEVセダンN7に伝統のプリメーラという名前を与えただけのモデルに映るかもしれない。オールドファンが一抹の寂しさと「これじゃない感」を覚えてしまうのもいたしかたないだろう。

 もうこの時点で、日本への導入を熱望しているファンはそれほど多くなさそうではあるが、新型プリメーラEVの、現時点での日本市場への導入については「未定」となっている。

 現状、日本のセダン市場は冷え込みが続いており、日産の国内ラインアップにおいては、いわゆる3ボックスセダンはスカイラインのみという絶滅寸前の状態だ。ただ、日本市場ではEVセダンの選択肢がまだ限られており、BYDシールやテスラ・モデル3などの輸入車勢への対抗馬として日産ブランドの大型EVセダンが投入されれば、一定の注目を集める可能性はある。なにより「プリメーラ復活」というニュースだけでも、多くの関心を引くことは間違いないだろう。

 ここのところ日産からは、すでに欧州で販売されている「マイクラ(マーチ)」や、北京モーターショーで公開された「テラノPHEVコンセプト」など、往年の名車を復活させることが多い。そのなかに今回、「プリメーラ」が加わった。かつてのプリメーラとは似ても似つかない大柄なEVセダンになったとはいえ、歴史ある名車を、日産が完全に見捨てていなかったこと自体は歓迎すべきだろう。

 これじゃないと突っ込みつつも、いつか日本の地で、その「新生プリメーラ」のステアリングを握り、日産がそこにどんな走りのエッセンスを残したのかを確かめてみたいものである。