高速道路って借金を返し終わったら無料になるんじゃなかったっけ? 結局「無料は一生ムリ!」が答えだった

この記事をまとめると
■高速道路はかつて無料化される前提で建設・運営されていた
■現実問題無料化は難しく期間を延ばし続けて2115年までは無料化が難しいといわれている
■無料化すると渋滞悪化などのリスクもあるので無料化が善とは限らない
バイパスは無料になってなぜ高速道路は無料にならない?
首都高速道路株式会社は、2026年度中に実施予定の「首都高速道路の料金改定案」を公表した。人件費や資材価格の高騰、老朽化対策や災害対応などによる維持管理コストの増加を背景に、通行料金を見直す方針だという。現在、この改定案について国民からの意見募集が行なわれている。案では平均的な利用距離を前提にすると普通車ではおおむね1割程度の負担増になる。全車種の平均改定率は8.1%とされている。

首都高の料金値上げのニュースを聞くと、「昔は高速道路は将来的には無料になると聞いた気がするのに、むしろ高くなっていないか」と感じる人は多いのではなかろうか。バイパス道路には無料開放された例もあるのに、なぜ首都高や高速道路はいつまでも料金を取り続けるのか? その構造的な背景には「建設費を返せば終わり」というシンプルな話ではなく、日本の道路財政が色濃く影響している。
<首都高の値上げと「無料化」の約束はどこへ行ったのか>
首都高は開通からすでに半世紀以上が経過し、橋梁や高架構造物の老朽化が深刻な段階に入っている。更新や耐震補強工事には莫大な費用がかかり、その財源の柱が通行料であることに変わりはない。かつて「建設費を償還したら無料」という“建前”はあったものの、現実には建設時の借金を返し終える前に、老朽部分の掛け替えや大規模修繕に次々と資金が必要になり、「償還が終わったら終了」どころか、つねに新たな投資が発生する循環に入ってしまったのである。

さらに、首都高はオリンピック関連を含む再整備や新規路線の建設・延伸も進めてきた経緯がある。新しい道路を造れば当然ながらその分の建設費も発生し、償還期間は先送りされる。料金収入を担保にして資金を調達する仕組みである以上、「更新と延命のために値上げ」という方向に傾きやすい構造になっている。現在は、2023年の法改正により最長で2115年までが“料金徴収期間”とされている。
<高速道路の「いつか無料」はどこへ?>
ではそのほかの高速道路はどうなのだろうか? 日本で高速道路網を整備し始めたころ、基本的な考え方は「有料で建設費や利息を返し、償還が終わったら無料にする」というものだった。実際、初期の段階では約30〜40年程度の償還期間を想定し、料金を徴収して借金を返し終えれば、一般道と同じように無料開放されると説明されていた。この“期限付きの有料”という建前があったからこそ、国民の理解も得られやすかった。

しかし現実には、高度経済成長期以降、高速道路のネットワークは想定以上のペースとスケールで広がっていった。新しい路線を造るたびに巨額の建設費が必要になり、既設路線で集めた料金収入も、その返済にどんどん充てられていった。つまり、「古い道路の借金を返し終えたら無料にする」どころか、「その収入を新しい道路の建設費の穴埋めにまわす」方向に舵が切られていったのである。さらに、バブル崩壊後の景気対策としても高速道路整備が使われ、借金の山は膨らんだ。その結果、「高速道路全体としての借金をいつ返し終えられるのか?」は、もはや簡単に答えられない状況になってしまった。
なんだかんだいってもう無料化は無理
<バイパスはなぜ無料にできたのか>
一方で、地方のバイパス道路には、有料でスタートしたものの、のちに無料開放された例がいくつか存在する。1985年に開通した八王子バイパスは2015年には無料化されている。そのほか、神奈川県の城ヶ島大橋や愛知県の尾張パークウェイ、兵庫県の姫路バイパスなど全国に事例はいくつもある。このような成功例を見ると、なぜ本線高速道路が無料にならないのか、という疑問が生まれるのは当然だ。しかし、バイパスは一般道の延長線上にある位置づけで、建設規模も本線より小さい。いってみれば「一般道の延長線としてのバイパスに、期間限定で料金所を設置していた」に近い。無料化の判断基準が債務残高と年間収益のバランスにあるが、バイパスの規模と高速道路本線は桁違いだ。

もうひとつ重要なのは、無料化してもネットワーク全体の収支に与えるインパクトが比較的小さい点である。高速道路会社にとって、短いバイパスの料金収入は、ネットワーク全体のなかでは限られた割合にすぎず、そのぶんをほかの路線の収入や国の支援などで吸収できる見込みがある。すると、地域交通の利便性向上や渋滞緩和、事故の減少といった社会的なメリットを優先して、「ここはもう無料にしましょう」と判断しやすい。これに対して、首都高や東名・名神のような幹線の料金収入は、ネットワーク全体の経営を支える収益構造の中心であり、ここを一気に無料化してしまうと、道路会社の収支はたちまち成り立たなくなる。バイパスが無料にできても、高速道路全体を同じロジックでタダにできないのは、この規模と役割の違いが大きいのである。

<首都高がむしろ値上げされる理由>
ではなぜ、首都高は「無料化どころか値上げ」なのか。まず考慮すべきは、道路は一度できてしまえば終わり、ではないということだ。毎日大量のクルマが走る路線では、舗装の補修、トンネルや橋脚の点検・補強、老朽化した設備の更新など、維持管理に莫大な費用がかかる。とくに首都高は高度成長期に急ピッチで整備された区間も多く、今まさに大規模更新の時期を迎えている。高架橋を架け替えたり、耐震補強をしたりする工事は、新しく道路を造るのに匹敵するコストがかかる場合もあり、「もう借金は返し終わったからタダでいい」という発想が成り立ちにくい。

加えて、首都高には渋滞対策という難題がある。あまりに料金が安いとマイカーが集中して慢性的な渋滞が発生し、物流やバスの定時性が損なわれる。そこで料金を時間帯や距離によって調整し、混雑を分散させる「交通需要マネジメント」の道具としても使っている。料金を下げればユーザーには喜ばれるが、渋滞が悪化すれば社会全体の損失が大きくなるため、「値下げ=善」「無料=正義」と単純には割り切れない。むしろ、一定以上の料金を維持することで、混雑を抑え、物流をスムースにし、走行時間の読みやすさという価値を提供している側面もあるのである。

さらに、制度の面でも“永久有料”に近い仕組みになってきた。かつては高速道路ごとに償還期限が決められていたが、のちに料金徴収期間を延長し、ネットワーク全体を一体として管理・運営する方向へと見直された。これにより、「あの路線だけ借金を返し終わったから無料」といった区別がつけにくくなり、代わりに「全体としての債務をみんなで返していく」考え方にシフトしている。結果として、ユーザーから見ると、かつて聞かされた“いつか無料になる”というイメージと、現実の制度とのギャップが目立つようになってしまった。

高速道路を無料にするというのは、一見すると利用者にとってうれしい話に思えるが、その裏側には莫大な維持管理費と、渋滞や安全性の問題、そして財政全体のバランスがぶら下がっている。バイパスのように一部の路線で無料化できたからといって、首都高や全国の高速道路も同じようにタダにできるわけではない。むしろ今後も、老朽化対策やサービス維持のために、料金は「使い方を調整するためのツール」として、そして「道路そのものを健全な状態に保つための原資」として、引き続き必要とされ続けるのである。
