そりゃ年収1000万円でも「即、退職」だわ…入社初日の"違和感"と2日目に上司が放った"最悪のフレーズ"
※本稿は、内藤貴皓『採用大全』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

■自分の席がない…転職1日目の失望
「入社初日、誰も私のことを知りませんでした」「PCもなく、席もなく、何をすればいいか分からず、一日が終わりました」「歓迎されている感じが全くしませんでした」
転職者から、こんな悲しい話を何度聞いたことでしょうか。
せっかく優秀な人材を採用しても、入社後の受け入れ体制が整っていなければ、すべては水の泡です。砂漠で苦労して水を手に入れ、大切に運んできたのに、最後に汚れた容器に入れてしまう。
これほどもったいないことがあるでしょうか。
これまで数百人の転職者から、入社後の体験を聞いてきました。その中で、驚くほど多くの人が、入社初日の失望を語ります。期待と希望を胸に出社したのに、待っていたのは準備不足の現実。この瞬間に、多くの優秀な人材の心が、会社から離れ始めるのです。
■新入社員を傷つける残酷なメッセージ
入社初日の準備不足は、単なる事務的なミスではありません。それは、その会社の「人材に対する姿勢」を如実に表しています。
「あなたを大切に思っていない」「あなたの入社を楽しみにしていなかった」「あなたは重要ではない」準備不足が発するメッセージは、こんなにも残酷です。
考えてみてください。大切なお客様が来社するとき、どんな準備をしますか? 会議室を整え、資料を用意し、お茶を準備し、笑顔で迎えますよね。
それなのに、これから一緒に働く仲間に対しては、何の準備もしない。この矛盾に気づいていない企業があまりにも多いのです。
「忙しくて準備が間に合わなかった」という言い訳をよく聞きます。しかし、これは優先順位の問題です。新しい仲間を迎えることより重要な仕事が、本当にあったのでしょうか。
せっかく採用した人材を失うリスクと、目先の業務を少し後回しにすること、どちらが重要か。答えは明白です。
■「私は何のために転職したのか…」
事例1「優秀な人材が絶望した転職初日」
あるマーケティング会社での出来事です。
デジタルマーケティングマネージャーとして、業界でも有名な人材を採用することに成功しました。前職では大手企業のデジタル変革を主導し、売上を2倍にした実績の持ち主。年収1000万円という好条件を提示し、激しい競争の末に採用できた人材でした。
しかし、入社初日、彼を待っていたのは想像を絶する現実でした。朝9時に出社すると、受付で「聞いていません」と30分待たされる。ようやく人事が現れ、「すみません、席の準備ができていなくて」と会議室に通される。

PCも電話もなく、名刺の準備もない。上司は出張中で不在、チームメンバーも彼の入社を知らされていない。人事からは「とりあえず会社の資料でも読んでいてください」と、ほこりをかぶった分厚いファイルを渡される。
昼食も一人で済ませ、午後も何もすることがない。「私は何のために転職したのか」と愕然としたそうです。
2日目、上司がようやく現れましたが、「あ、今日からでしたっけ。ちょっと忙しくて」という言葉。彼の中で、何かが切れた音がしました。
1週間後、「体調不良」を理由に欠勤が始まり、2週間後には「期待していた環境と違った」と退職届を提出。わずか1カ月で、業界トップクラスの人材を失いました。
採用に半年かけ、紹介料300万円を支払い、好条件を用意したすべてが、杜撰なオンボーディングで水泡に帰した最悪の事例です。
■1年後定着率が95%超えの企業では…
事例2「完璧でハッピーな転職初日」
しかし、同じマーケティング業界でも、優れたオンボーディングで成功している企業があります。
あるマーケティングテクノロジー企業では、新入社員の入社初日を「お祝いの日」と位置づけています。入社の1週間前から、チーム全員で準備を進めます。
デスクには歓迎のメッセージカード、会社のロゴ入りグッズ、そして「入社初日ガイドブック」が用意されています。
朝、新入社員が出社すると、チームリーダーが笑顔で出迎えます。すでにPCはセットアップ済み、必要なアカウントもすべて作成済み。午前中は会社の文化や価値観を共有するオリエンテーション、昼食はチーム全員でのウェルカムランチ。
午後はメンターとの1on1で、今後3カ月の目標と成長プランを一緒に作成します。入社初日を終えた新入社員は「この会社を選んで本当に良かった」と感動し、その気持ちが高いモチベーションにつながります。
この企業の中途入社者の1年後定着率は95%を超えています。しっかりとした受け入れ体制が、人材の定着と活躍を支えているのです。
■「とりあえず走ってみて」はあまりにひどい
オンボーディングが軽視される理由は明確です。第一に、「採用がゴール」という間違った認識です。内定承諾を得た時点で安心してしまい、その後のことは「現場に任せた」と丸投げ。

しかし、採用は入社してからが本当のスタートです。この基本的なことを理解していない企業があまりにも多いのが現状です。人材の価値を最大化するためには、採用後の立ち上げが極めて重要です。
F1レースで例えれば、採用は優秀なドライバーを見つけることに過ぎません。そのドライバーが実力を発揮するためには、整備されたマシン、優秀なピットクルー、明確な戦略が必要です。これらを用意せずに、「とりあえず走ってみて」では、勝てるはずがありません。
■早期退職は900万円以上の損失
第二に、オンボーディングの重要性を数値化できていないことです。採用コストは把握していても、早期離職による損失、立ち上がりの遅れによる機会損失、既存メンバーへの負担増加。
これらのコストを計算していないから、オンボーディングへの投資を渋るのです。実際に計算してみると、驚くべき数字が出てきます。
年収600万円の人材が3カ月で退職した場合、採用コスト(紹介料200万円)、3カ月分の給与(150万円)、教育投資(50万円)、再採用コスト(200万円)、機会損失(少なくとも300万円)を合計すると、900万円以上の損失です。
これを防ぐために必要なオンボーディングコストは、せいぜい50万円程度。投資対効果を考えれば、これほど割の良い投資はありません。
第三に、「仕事は見て覚えるもの」という時代遅れな価値観です。「自分たちもそうやって育った」「手取り足取り教える必要はない」といった古い考えが、優秀な人材を潰していきます。
現代の転職者は、即戦力として期待されていることを理解しています。だからこそ、速やかに力を発揮できる環境を求めているのです。
「自分で考えて動け」「分からないことは聞け」。このような指示で、新入社員を放置する企業の、なんと多いことか。
しかし、何を考えればいいのか、何が分からないのかすら分からない状態で、どう動けばいいのでしょうか。これは教育ではなく、ただの放置です。
■転職者が「騙された」と思う瞬間
最も深刻な問題は、採用時に語った話と、入社後の現実のギャップです。

「裁量を持って働ける」と言われたのに、実際は上司の承認なしには何も決められない。「革新的なプロジェクトを任せる」と言われたのに、実際は既存業務の穴埋め。「成長できる環境」と言われたのに、実際は教育体制ゼロ。
このギャップは、単なる失望では済みません。「騙された」という不信感を生み、組織への帰属意識は育たず、早期離職へ一直線です。採用時の約束を守れないなら、最初から正直に伝えるべきです。
期待値を上げて採用し、現実でがっかりさせる。これは誠実さに欠ける行為です。
■マネージャー採用だったのに現場に出される
これまでに見てきた中で最も問題だったのは、マネージャー候補として採用しながら、実際は一プレイヤーとして扱うケースです。

「まずは現場を知ってもらってから」という理由で、延々と現場仕事をさせる。マネジメントの機会は与えられず、部下もつかず、ただの作業者として扱われる。これでは、マネジメント経験を積みたくて転職した人材の期待を、完全に裏切ることになります。
さらに問題なのは、このギャップを「仕方ない」で済ませる企業の姿勢です。「組織の都合で予定が変わった」「まずは信頼関係を築いてから」このような言い訳で、候補者との約束を反故にする。
ビジネスの世界で、契約を一方的に破棄したらどうなりますか。信用を失い、二度と取引してもらえません。採用も同じです。約束を守れない企業は、優秀な人材から見放されます。
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内藤 貴皓(ないとう・たかひろ)
採用コンサルタント
CHEMI株式会社代表。 1988年生まれ、静岡県出身。大学在学中から大手教育企業でキャリアをスタート。2012年、新卒で入社した出版社では広告営業として社内売上のギネス記録を更新後、人事戦略部にて採用・研修制度を設計。2016年、株式会社FiNCに人事として入社し、中途採用や評価制度の改定を主導。その後、WEINグループの創業に参画し、管理部門とコワーキング事業を立ち上げ。2020年10月に独立、2021年1月にCHEMI株式会社を設立し代表取締役に就任。2025年10月、社名をRECRUIT BOOSTER株式会社へ変更予定。
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(採用コンサルタント 内藤 貴皓)
