どろろ=柴咲コウ、百鬼丸=妻夫木聡な実写版の紹介パネル。公開前に海外20カ国での配給が決定している。

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先日、TVアニメ版『どろろ』とアニメ映画『鉄コン筋クリート』を連続で観てきました。『どろろ』は1969年放送のモノクロ作品、『鉄コン筋クリート』は最高峰の技術を盛り込んだ最新作。先に見た『どろろ』は面白かったのですが、『鉄コン筋クリート』は鑑賞中に5〜6回眠気で意識を失いかけてしまいました。各所で絶賛されている作品を観ながら、何故睡魔と戦う事態に陥ったのか、ここで検証してみようと思います。

■TVアニメ『どろろ』の衝撃
TVアニメ版『どろろ』を観たのは某名画座のオールナイト上映でした。この作品が生まれた1969年は、アポロ11号が人類初の月面有人着陸に成功し、漫画『ドラえもん』の連載が始まった年。今見ると動きは荒いし、設定も突っ込みどころ満載。見始めは古臭い映像が気になって仕方ありませんでした(ちなみに上映されたのは手塚治虫の原作漫画に忠実な1〜13話)。

ところが『どろろ』は圧倒的なドラマ性を持った作品でした。骨太の脚本と演出(※1)、巨匠・冨田勲の音楽、実力派声優の熱のこもった演技など。そのどれもが素晴らしく、画面がモノクロだとか、動画がショボイとか、現実ではあり得ない漫画的な表現が多用されてるとか、細かい部分はどうでもよくなる説得力があったのです。

(※1)演出には、出崎統(TVアニメ『あしたのジョー』監督)、富野由悠季(TVアニメ『機動戦士ガンダム』監督)、高橋良輔(TVアニメ『装甲騎兵ボトムズ』監督)などが名を連ねている。

映画館に置いてあったTVアニメ版『どろろ』の紹介パネル。当日は若いカップルなども見に来ていた。どろろ=柴咲コウ、百鬼丸=妻夫木聡な実写版の紹介パネル。公開前に海外20カ国での配給が決定している。

『どろろ』は、父の野望成就のために犠牲にされた百鬼丸、仲間の裏切りで両親を失ったどろろのふたりが主人公。内容はかなりハードで、毎回のように人が殺され、差別用語で罵るシーンが頻出するなど、これがかつて地上波で流れていたとは思えないほど。ですが、過激な描写やセリフはドラマ上の必然性があり、さらに上映会は大人限定だったので、周りを気にすることなく作品を堪能することができました。人々に差別され、妖怪を退治しても感謝されずに厄介者扱いされる百鬼丸とどろろが哀れで……(。´Д⊂)゚。・

■アニメ映画『鉄コン筋クリート』を鑑賞
『どろろ』の余韻も冷めやらぬまま、翌日に観たのが話題の『鉄コン筋クリート』。観た者として正直に言いますが、映画としてはあまり面白くありませんでした。特に後半の抽象的な心理描写に関しては、ワケワカランといった感じ(画面は美しかったんですが)。ちなみに私は原作者・松本大洋の漫画に関する記憶は『花男』あたりでほぼ止まっています。『鉄コン筋クリート』の原作漫画は最初の数話でノリ切れず、そのままフェードアウトしてしまったクチです。

初期作品の『ZERO』は好きなのですが、それは主人公の五島(ボクサー)が持つ「強すぎる狂気のチャンピオン」という個性に魅力を感じるからです。ところが、アニメ映画『鉄コン筋クリート』のキャラクター達は、私に感情移入をさせてくれませんでした。主人公の男の子「クロ」と「シロ」に個性がないとは言いませんが、行動原理が不明瞭なので気持ちの入れようがなかったのです。

確かに作画はもの凄かったです。動画はもちろん、美術も最高。色彩設計の重要さも再認識できました。カメラワークに追従して動く背景CGの書き込みも必見。表現方法としてのアニメの底力を感じる「超」力作であることは100%認めます。でも、少なくとも私が観たい「映画」ではありませんでした。私が観たかったのは、ドラマを感じさせてくれる作品であり、四の五の言わずに楽しめる娯楽映画だったのです。

鉄コンのチラシ。どうせ観るなら映画館の大きなスクリーンで観た方が良いかと。『ZERO』の単行本。個人的にはこっちを映像化して欲しかった気がする。

私が観た『鉄コン筋クリート』はアート映画でした。それはストーリー云々よりも、映像の美しさが求められる世界の映画。それならそうと、各種宣伝媒体ではっきりさせてほしかったです。せめて心の準備があれば、印象は変わっていたかも知れません。それから気になったのは、子供にあまり聞かせたくないような言葉や、残酷な流血を伴うアクションシーンが出てくるという部分。

TVでバンバン流れていたCMだけを見れば、子供は自分と同年代の少年が活躍する冒険活劇だと思うでしょう。子供の親も、まさか主人公が暴力や盗みを平然と行う犯罪者とは思わなかったはずです。ところが、私が行った日曜日の映画館には、親子連れも結構観に来ていたのです。シリアスで笑いどころも乏しい、難解で抽象的な内容が明らかになっていく中、私は館内の親子連れの面々が気になって仕方ありませんでした。

上映中、どれだけ凄い映像が目の前で展開されても、ほぼ満席の観客の中から歓声やどよめきは起こりません。この映画をどう受け止めたら良いか、戸惑う空気が館内を支配していた気がします。上映終了後「まさかこんな作品だったとは」というフキダシが、無言で立ち去る観客達の頭から出ているように見えました。次回上映の順番待ちの行列でワクワクしながら並ぶ子供の姿を尻目に、私は映画館を複雑な気持ちで後にしたのです……。

絶賛している人達は、どうやら皆さん原作ファンの様子。ハリウッド特撮畑出身のマイケル監督をはじめ、制作スタッフも原作にベタ惚れ。もしかしたら、原作を読み込んだ上で観ると印象はガラリと変わるのかもしれません。ですが、映画単体で成り立たない部外者お断りな姿勢は、商業映画としてはいかがなものかと思うのです。

私は、予備知識ナシで観に行ったいち映画ファンとして「楽しめなかった人間もいる」という事実をここに明記しておこうと思います。褒めるだけなら誰でもできますので、こういう意見も大切かと。どうやら少数派の意見になるみたいですが、思ってしまったものは仕方ありません。あ、念のため言っておきますが、松本大洋は嫌いではないですよ。絵はかなり上手だと思います。話は、今はどうなんですかね……?(今度読んでおきます)

直球で訴えてくる『どろろ』で感激したあとに、前衛的な『鉄コン筋クリート』を観るというのは厳しいものがありました。少しでも共感できる部分があれば、もう少し楽しめたと思うのですが……。余談ですが、オールナイト鑑賞後は漫画喫茶で昼まで爆睡してたので、寝不足が評価に影響したという事実はありません。とにかく映画はシンプルに楽しめるものが一番。観ている間、心から幸せになれる映画に出会えるよう、願うばかりであります(南無南無)。

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レッド中尉(れっど・ちゅうい)
プロフィール:東京都在住。アニメ・漫画・アイドル等のアキバ系ネタが大好物な特殊ライター。企画編集の仕事もしている。秋葉原・神保町・新宿・池袋あたりに出没してグッズを買い漁るのが趣味。

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