◆交流試合に出場した強打者12人のスカウト評>>

 毎年、夏になるとメディアによってクローズアップされるのが、高校野球界の「2世選手」の存在だ。この世に生を受けた以上、誰もが誰かの2世である。とりたてて騒ぎ立てる必要はなく、当人にとってみれば困惑の種になっていることだろう。

 だが、「あの選手の子ども」と聞くだけで不思議な愛着が湧くのも人情というものだ。縁戚や知人の高校球児を自然に応援してしまうのと近い感覚で、つい注目してしまう。

 今夏は、2世選手のなかにも有力なドラフト候補が存在した。

 高校球界屈指の強豪である履正社の4番・捕手を務めた関本勇輔は、阪神で活躍した関本賢太郎を父に持つ。現役時代はバットを短く持ち、対応力に優れた打者だった父に対し、勇輔は今のところ体の強さを生かした強打者である。


元阪神の関本賢太郎を父に持つ、履正社の関本勇輔

 2020年甲子園交流試合の星稜戦では、3イニング連続で盗塁を刺すという離れ業でスローイングの正確性を見せつけた。すでにプロ志望届を提出しており、高校トップクラスの捕手がどんな進路を歩むのか楽しみが募る。

 高校球界きってのアベレージヒッターである度会隆輝(横浜高)は、ヤクルトのバイプレーヤーとしてファンから愛された度会博文を父に持つ。

 父は、無名だった中央学院大4年時にドラフト3位指名された「隠し玉」だったが、隆輝は幼少期からエリート街道をひた走っている。小学6年時はNPB12球団ジュニアトーナメントのヤクルトジュニアに選出。中学時代は佐倉シニアでジャイアンツカップ優勝、侍ジャパンU−15代表選出。高校では1年時から甲子園でヒットを放った。左打席から右へ左へと柔らかく弾き返す打撃に力強さも加わりつつあり、プロ志望届を提出する見込みだ。

 夏の大会前に「転校生バッテリー」のひとりとして話題になった吉田行慶(帝京長岡)は、ロッテなどで主にリリーフ投手として活躍した吉田篤史の次男である。昨年4月に東京の帝京から転校し、それから1年間、規定により公式戦に出られない時期を耐え、今夏はエースとして好投を見せた。

 甲府工の強打者・山村貫太は、近鉄、楽天などで投手として活躍した山村宏樹の長男。父も野球部の非常勤コーチとしてサポートし、今夏は山梨独自大会3回戦で優勝校になる東海大甲府に0−2で敗れたものの、名門復活の狼煙(のろし)をあげた。

 2年生では、前田晃宏(慶應義塾)。通算2119安打の広島の天才打者・前田智徳を父に持つが、晃宏は右投右打の投手として勝負する。小学6年時には広島ジュニア、中学時代にはJUNIOR ALL JAPAN(通称NOMOジャパン)に選出された実績があり、高校1年時から公式戦マウンドを経験している。

◆スカウトが甲子園交流試合、好投手をガチ評価>>

 父が大学野球部の有名監督という2世選手のケースもある。


 今秋のドラフト候補に挙がる長身遊撃手の蔵田亮太郎(聖望学園)は、父が福山大監督の蔵田修。高校入学時に広島から埼玉に越境入学して、柔らかい攻守を武器に台頭してきた。ヒザ痛などの故障やコロナ禍の影響で派手なアピールはできていないが、そのポテンシャルの高さはプロのスカウトも注目しており、プロ志望届を提出している。

 1年時から潜在能力の高さを見せていた中村敢晴(筑陽学園)も、将来楽しみな遊撃手だ。父は現役時代に西日本短大付で全国制覇を果たし、指導者としても日本文理大で大学日本一に導いた中村壽博。下級生時は細身だった敢晴だが、徐々に力強さを増してきている。なお、兄・宜聖はソフトバンク育成のプロ野球選手だ。

 今夏は父がチームの監督という、「親子鷹」の2世選手も目立った。代表例は、今秋のドラフト指名確実と目される左腕・高田琢登(静岡商)である。蒲原シニア時代にはシニア日本代表に選ばれ、県内外の強豪校から声をかけられる存在だったが、父・晋松が監督を務める静岡商に入学した。甲子園にはあと一歩届かなかったものの、最速148キロのスピン量の多いストレートを武器に全国区の左腕に成長した。

 2020年甲子園交流試合に出場したチームでは、星稜の林大陸、東海大相模の門馬功(2年)がいる。大陸は父・林和成監督の長男、功は父・門馬敬治監督の次男で、いずれも代打出場を果たしている。

 最後に2世ならぬ3世として注目される高嶋奨哉(智辯和歌山2年)を紹介したい。祖父は甲子園通算68勝の名将だった高嶋仁。今夏の甲子園交流試合では代打として登場し、祖父、父(茂雄)、奨哉と3代にわたって甲子園の土を踏んだ。

 本人にとっては不本意な注目のされ方に違いないが、当初は「渡辺元智監督(元・横浜高監督)の孫」として注目されながら、努力と実力で色眼鏡を吹き飛ばした渡邊佳明(楽天)の例もある。

 2世、3世として注目される弊害はそれぞれにあるだろう。だが、当然ながら偉大な親族から学べるというポジティブな一面もある。たとえプロ入りできなかったとしても、身内から受け継いだ真髄を誇りに、それぞれの野球人生を全うしてもらいたい。お節介な第三者として、痛切に願うばかりだ。