主演女優賞を受賞したエマ・ストーン。授賞式には、ジバンシィのドレスで登場。(AFLO=写真)

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先日、私は今話題の映画、『ラ・ラ・ランド』を観た。黄色いドレスを着た女性と、白いシャツにネクタイをつけた男性。2人が夜景の見える場所で踊る場面は、『ラ・ラ・ランド』の象徴的なシーンであり、誰もがあこがれる「ハリウッド」のイメージそのものである。

アカデミー賞にも多数ノミネートされた『ラ・ラ・ランド』。エマ・ストーンさんが主演女優賞に輝いたほか、監督賞、作曲賞、撮影賞など、6部門の賞に輝いた。作品賞では、1度『ラ・ラ・ランド』が受賞したとアナウンスされたものの、実際には手違いでほかの作品が受賞。そんなトラブルも含めて、大きな話題を呼ぶ作品となった。

ところで、私は主演の2人が夜景を背景に踊るシーン以外は、ほとんど事前知識なしに『ラ・ラ・ランド』を観たのだが、驚いたことがあった。

この作品が、『セッション』のデイミアン・チャゼル監督によるものだと途中で気づいたのである。

2014年に公開された『セッション』は、ジャズ・ミュージシャンを目指す青年が、鬼教官に徹底的に鍛えられる様子を描いた映画である。チャゼル監督自身の経験に基づく脚本だという。低予算ながら、教官役を演じたJ・K・シモンズの迫力の演技(アカデミー助演男優賞を受賞)もあって、大いに評判を呼んだ。

一方、16年に公開された『ラ・ラ・ランド』。冒頭、ロサンジェルス郊外の高速道路で、渋滞した車に乗った人たちが踊り出すシーンから始まる。このあたりのリズムから、ひょっとしたら、と思った。途中、レストランのシーンで、J・K・シモンズが脇役で出演しているのを見て、確信に変わった。

『ラ・ラ・ランド』は、『セッション』と同様、音楽映画である。『セッション』は音楽マニアのいかにも好みそうなこだわりに満ちた映画だった。それに対して、『ラ・ラ・ランド』は、興行的にも成功し、アカデミー賞で史上最多タイの部門にノミネートされた注目作となった。

カルト映画から、メジャー映画へ。たった2年でこのような変身を遂げることができたのは、チャゼル監督自身の才能、努力の成果でもあるし、また、ハリウッドの持つ力でもあると思う。

『ラ・ラ・ランド』は、「夢」がテーマの映画である。そして、「夢」は、それがどのような文脈に置かれるかということで伸びしろが変わる。

やはり、グローバルなスケールで考えたほうが、夢の伸びしろも大きいのだと思う。実際、『ラ・ラ・ランド』は最初から世界各地のマーケットを前提に制作されており、日本でも多くの観客が詰めかけている。

日本国内でトップを目指すのもいいけれども、最初から世界の中での位置づけを考えたほうが、本人も周囲も幸せになる。国も栄える。そんな時代が来ているように思う。そして、夢を大きくふくらませるうえで大切なツールは、やはり「英語」である。

日本にも、ジャンルを問わず、『セッション』のようなコアな価値を持つものはあると思う。ただ、それが『ラ・ラ・ランド』のようなメジャーな舞台に育つ道筋がない。

日本人がもっと普通に英語を使いこなし、日常的にグローバルな感覚で生きていたら。そんな日が来れば、国内にある数々の『セッション』が『ラ・ラ・ランド』に成長することができるだろう。

(脳科学者 茂木 健一郎 茂木健一郎 写真=AFLO)