(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢期において「離れて暮らす家族との交流」は大きな生きがいです。『令和7年版高齢社会白書』の調査では、60歳以上の65.9%が現在の経済的な暮らし向きについて「心配がない」と回答しており、経済的に自立して十分な予算を用意し、孫の帰省を心待ちにする祖父母世代は多いでしょう。本記事では、ユリさん(仮名/41歳)の事例から、世代間で変化する家族の距離感を紐解いていきます。

義母が張り切る「孫の受け入れ予算」

毎年恒例となっていた夏休みの「子どもだけで行く義実家へのお泊まり」。東京から夫の実家までは新幹線を使う距離で、子どもの往復交通費と手土産代だけで約3万円かかります。ユリさん(仮名/41歳)は義両親への手土産の準備を進めていました。

家族全員で帰省すれば5万円〜8万円があっという間に吹き飛ぶ一大イベントでしたが、息子が小学校中学年になってからは、新幹線にさえ乗せれば義両親が車で迎えに来てくれるので、ここ数年は息子だけで義実家へ行かせていました。さらに、迎える義両親側も「久しぶりに孫に会えるから」と、高級なお肉やフルーツを買い込み、外食やレジャーの費用として数万円規模の「孫予算」を確保して心待ちにしてくれています。

ところが、出発が近づいたある日、息子がポツリと本音を漏らしたのです。

「今年の夏休み、おばあちゃん家には行きたくない……。友達とプールに行ったりゲームをしたりしたい」

成長とともに友達関係が広がり、自分の時間を優先したくなるのは子どもの健やかな成長の証です。しかし、すでに義父母が「孫のために」とお金をかけて準備を始めている時期でもありました。

急いで義母に知らせた妻

「もし本当に行かないことになるなら、ギリギリで断るのが一番ご迷惑になる」

まだ説得の余地があるとは思いつつも、息子の意向を尊重しようと考えたユリさん。直前まで引き延ばせば、新幹線の払戻手数料(チケット1枚につき数百円〜数千円)が発生するうえ、なにより義父母が食材を買い込み、レジャー施設の予約をしてくれたあとに断れば、義父母に大きな金銭的・精神的ダメージを与えてしまいます。

ごちそうの買い出しをする前に、早めに伝えたほうがいいと判断したユリさんは、角が立たないよう義母へ連絡を入れました。「もしかしたら、今回は行けないかもしれない」と伝えたところ、義母からは気遣った返信が届きました。

「無理しなくていいのよ! まだ買い出しもしてなかったから全然大丈夫。本人が行きたくなったときに、また教えてね」

義母の柔軟な対応に、ユリさんは胸をなで下ろしました。

夫の不満と義母の本音

ところが、その日の夜、仕事から帰宅した夫の様子は少し険しいものでした。

夫は義母から「今回は来ないことになった」と連絡を受けたらしく、納得がいかない表情でユリさんに問い詰めます。

「母さんたちが楽しみにしてたのに、なんで俺に一言も相談なしに勝手に断っちゃうの? すごく残念そうだったよ。せっかく予算もスケジュールも立ててたのに……」

妻としては「子どもの気持ちの尊重」と「義両親の無駄な費用の回避」を考えた判断のつもりでした。しかし夫にしてみれば、「両親が楽しみにしていた実家への帰省予定を、相談もなく取りやめにされた」という不満が残ったようです。

「3万円払って不機嫌な孫を送り出す意味はある?」

なぜ、ユリさんは義母に連絡する前に夫に相談しなかったのでしょうか。そこには家庭内の空気感の違いがありました。

子どもが「行きたくない」と打ち明けたのは、母親であるユリさんにだけでした。子ども自身、「お父さんにいったら『一度決めたんだから行きなさい』といわれる」と感じていたからでしょう。

もし事前に夫に相談していれば、息子は説得されて乗り気でないまま義実家へ行くことになっていたかもしれません。

数万円の交通費をかけ、義父母にも準備をしてもらっても、当の孫が終始つまらなさそうにしていれば、結果として義父母にも余計な気を遣わせてしまいます。ユリさんはそうした気まずい状況を避けたくて、先回りして動いたのでした。

形だけの帰省よりも、お互いが納得できる過ごし方を

今回の件で、ユリさんは帰省に対する夫婦の感覚の違いを実感したといいます。帰省には、交通費や準備の手間など、具体的な負担が伴います。だからこそ、行く側も迎える側も気持ちよく過ごせることが大切です。

直前になって義父母に買い出しの無駄をさせないよう配慮し、息子のいまの気持ちを尊重したユリさんの判断は、非常に現実的なものでした。

「約束通り帰省させることが親孝行」と考える夫と、「実質的な負担や子どもの本音」を優先したい妻。帰省という身近なイベントを通して、家族の優先順位やお金・手間の捉え方の違いが浮き彫りになった出来事でした。とはいえ、義両親の年齢を考えると、いましかできないことを息子に丁寧に説明してあげるのも、親の務めなのかもしれません。