(※写真はイメージです/PIXTA)

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資産形成を目的に、会社員の傍らワンルームマンションに投資する「サラリーマン大家」が増えています。忙しいマンションオーナーほど、管理組合から届く分厚い総会資料を細かくチェックせず、つい「委任状」を出して済ませてしまいがちです。ですが、その一瞬の無関心こそが、将来的に自らを苦しめることになることも……。本記事では、HABANERO代表のマンション管理コンサルタント・幅祐斗氏が、51歳のサラリーマン大家の事例をとおして、マンション管理に潜む見えづらいリスクについて解説します。※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。

「電気が消える」不穏な通知…457万円の請求に戦慄

都内のメーカーに勤めるAさん(51歳)は、老後の「私的年金」代わりに中古ワンルームマンションを1部屋所有する堅実な会社員です。ある日、Aさんのもとに届いた総会議案書のなかに、目を疑うような大掛かりな提案がありました。

『第4号議案 引込開閉器盤改修工事の件 金額:4,570,000円(税込)』

これはマンション全体の電気の“元締め”となる、巨大なブレーカー設備のことです。説明文には「万が一不具合が発生すると電気が消え、給水ポンプやネット等のインフラ設備も使えなくなる。不測の事態を招く前に改修を」と、不安を煽る文言が並んでいました。

457万円という大金は管理組合の財布(修繕積立金)から出るとはいえ、これがもし無駄遣いだった場合、将来的に貯金が底をつき、Aさんが支払う「毎月の修繕積立金」の値上げに直結します。Aさんから資料を見せられた筆者は違和感を覚え、Aさんにこう指摘しました。

「そもそもこれ、まだ壊れてもいないのに工事するっておかしくないですか?」

筆者の指摘にAさんは確かに、と納得の様子。本当にいま必要なのかを確かめることに。多くのオーナーが中身を見ずに「委任状」を提出して管理会社に丸投げしてしまうなか、Aさんは自ら総会会場へと足を運ぶことにしたのです。

「実は、本社から無理やり…」参加者2人、総会で知った衝撃事実

総会当日。管理会社の会議室には、ほかのオーナーの姿がなく、30代の現場担当者(フロント)がポツンと座っているだけだったそうです。Aさんが席につくと総会が始まり、担当者が議案を読み上げていきます。そして、例の「第4号議案」の説明に入った際、Aさんは挙手をしてストレートな疑問を投げかけました。

「この457万円の工事ですが、過去にトラブルが起きた記録がありません。まだ壊れてもいないのに、なぜいま交換しなければならないのですか?」

対面で鋭い質問をぶつけられた担当者は言葉に詰まり、周囲を気にするように声を潜めて、信じられない本音を漏らしたとのこと。

「……実はこれ、本社の工事部門から半ば無理やり入れさせられた議案なんです。私としても、予算がないなかで、いまやる必要はまったくないと判断しているのですが……」

担当者が白状した真実は、あまりにも理不尽なものでした。この電気設備は、通常は屋外の雨風にさらされる場所に設置されるため、15〜20年で交換になります。しかし、このマンションは構造が特殊で、設備が「屋内」に設置されていました。そのためサビ一つなくピカピカで、機能も正常。現場を一番よく知る担当者自身が、「不要」と判断する工事だったのです。

「組織的ノルマ」の動かぬ証拠

なぜ現場担当者が「不要」とする工事が、457万円の議案になってしまうのか。これはオフィスのコピー機交換に似ています。まだ正常に動くのに、売上ノルマのために営業マンが「リース満了だから交換を」と過剰な提案をせざるを得ない構造です。

多くの管理会社でもこれと同じ構造が起きています。オーナーの窓口となる「現場の担当者」と、修繕工事の売上目標を追いかける「本社の工事部門」が社内でわかれており、現場の状況を知らない本社が、数字だけを見て現場に無理な提案を強いているのです。

さらに背筋が凍る事実があります。筆者がこの管理会社の動向を調査したところ、なんと、この会社が管理するほかのマンション計4棟でも、まったく同じ「引込開閉器盤改修工事」の議案が同時に提出されていたのです。

各物件の劣化状況などお構いなし。本社の工事部門がデータだけを見て一斉に仕掛けた「組織的な売上づくり」の動かぬ証拠でした。6,000棟以上の総会資料を精査してきた筆者だからこそ断言できる、紹介料(キックバック)を目的とした業界の深い闇です。

管理会社の「いいなりATM」にならないための防衛策、3つ

Aさんが総会で指摘をしたことで、この457万円の不必要な工事は見送られました。管理組合の貯金が、管理会社のノルマのために食いつぶされるのを水際で防いだのです。管理会社の「いいなりATM」にされないために、今日から実践できる3つの防衛策をお伝えします。

1.「耐用年数=寿命」ではないと知る

「〇年経ったから交換」はメーカーの推奨期間に過ぎません。特に屋内設備は長持ちします。「劣化状態がわかる写真」などの根拠を必ず提出させてください。

2.書類の「煽り文句」に慌てない

「インフラが止まる」といった過激な文言は、ノルマに追われた本社の人間が他物件でも使い回している「テンプレート」である可能性が高いです。

3.現場の担当者を「味方」につける

フロント担当者も本社の理不尽なノルマに挟まれて悩むサラリーマンです。「あなた自身の目から見て、本当にいま必要ですか?」と誠実に問いかけることで、本音を引き出せるケースは多々あります。

「建物管理」というブラックボックスに関心を持ち、オーナーが主導権を握ることが、不動産投資で自らの資産を守り、将来に向けた資産形成をしていくための必要な防衛策となります。

幅 祐斗

HABANERO代表

マンション管理コンサルタント

宅地建物取引士