(※写真はイメージです/PIXTA)

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厚生労働省『2024年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の多くは公的年金を主な収入源として暮らしています。一方で、離れて暮らす子どもが生活を心配し、定期的に仕送りを続ける家庭も少なくありません。しかし、そのお金が親にとって本当に必要なものなのか――ある親子の事例を通して、その実態をみていきます。

「お金は足りない」と思っていた

東京都内で営業職として働く田中健一さん(49歳・仮名)は、15年間、実家に毎月5万円を送り続けてきました。振込日は給料日の翌日というのが習慣。

「今月も送ったよ」

母から返ってくるのは、決まって「ありがとう。助かるよ」という短い電話だけでした。父は地方の中小企業を定年退職し、65歳で完全に仕事を辞めました。母もパートを辞め、夫婦の収入は年金だけです。

父の年金は月約15万円、母は月約7万円で、合計約22万円。健一さんは「地方で暮らすにはぎりぎりだろう」と思っていました。自身も余裕がある生活ではありません。妻と高校生、中学生の子ども2人の4人暮らしです。住宅ローンは残り約1,350万円で、毎月の返済は9万2,000円。さらに教育費は月8万円近くかかります。

それに対し、手取りは約41万円。そこから毎月5万円を実家へ送るのは決して楽ではありませんでした。妻からも何度も言われました。

「うちも余裕ないよ」

そのたびに健一さんは答えていました。

「親なんだから仕方ないだろ」

母は昔から弱音を吐かない人でした。だからこそ、口にしないだけで苦しいはずだと思っていたのです。

厚生労働省『2024年 国民生活基礎調査』によると、1世帯当たり平均所得金額は、全世帯平均で536万円。一方で高齢者世帯の平均は314.8万円と全体を大きく下回ります。年金が生活の中心となっており、物価上昇が続くなか、高齢者世帯の家計は苦しさを増しています。そのようななか、健一さんは「お金を送って当然だ」と考えていたのです。

母の急逝で知った15年目の真実

悲劇は突然起こります。72歳だった母は、自宅で倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。病気らしい病気もなく、本当に突然のことだったといいます。

葬儀を終えたあと、父はほとんど話しません。実家には一人で残ることになりました。健一さんは月に一度は顔を出しようと思いましたが、仕事もあり、実際に訪ねたのはそれから約1年後でした。仏壇に線香をあげたあと、父が押し入れを開けます。

「これ、持っていけ」

段ボール箱が三つ。中には何冊もの銀行の通帳と、封筒が入っていました。通帳を見た健一さんは思わず声を失います。15年間、自分が送り続けた毎月5万円。その金額とほぼ同じ額が、毎月そのまま積み立てられていたのです。

一度も引き出された形跡はありませんでした。残高は約910万円。封筒には母の字でこう書かれていました。

「健一へ」

中には現金50万円と、一枚の便箋が入っていました。便箋には長い文章はありませんでした。

「毎月ありがとう。これはあなたのお金です。子どもたちのために使ってください」

健一さんは父を見ました。

「どういうこと?」

父は静かに答えます。

「母さんの気持ちだ」

父の言葉を受けて、健一さんは深い後悔の念に駆られました。

「私はお金を送ることで親孝行した気でいました。むしろお金を送っているのだから、それ以上のことはしなくてもいいと考えていた。お金が使われていないなら、意味ないですよね。今さらながら、仕送りを免罪符代わりにしてきた自分に、このとき気づきました」

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、日本のシニアが生きがいを感じる時のトップは「子どもや孫など家族との団らんの時」で、半数以上の53.6%に上ります。親にとって一番の喜びは、毎月の5万円ではなく、息子からの「今月も送ったよ」という一本の電話だったのかもしれません。