この記事をまとめると

■フォードが新セキュリティシステムの検証に800kg級コディアックベアを起用した

■巨大グマはF-150のドアハンドルを巧みに操作してクルマに侵入することに成功した

■スペックでは伝わらない性能をアメリカらしい大胆な実験で証明してみせた

フォードがクマを使ったテストを実施

 近年、日本ではクマの出没が深刻な社会問題となっている。これまでは山間部の話と思われていたクマとの遭遇も、近年では住宅街や市街地にまで広がり、北海道だけでなく、本州各地で人的被害も相次いでいる。クマがスーパーや商業施設に入り込んだり、住宅街を歩きまわったりする映像をニュースで目にした人も多いだろう。

 そんななか、クマを巡ってじつにアメリカらしい実験が行われた。その主役は、映画やテレビドラマにも出演する800kg級のコディアックベア(ヒグマの一亜種)。そして、その相手となったのはフォードのフルサイズピックアップのF-150だ。

 フォードは、新たに提供を開始した盗難防止サービス「Ford Security Package(フォード・セキュリティ・パッケージ)」の性能を検証するため、なんと本物の巨大グマにF-150を襲わせるという前代未聞のテストを実施した。その実験に参加したのが「タグ(Tag)」という名前のコディアックベア。映画やテレビCMなどにも出演経験をもつスターグマで、立ち上がると全長約2.3m、体重は約800kgにも達するという。

 実験はタグが暮らす牧場近くの森林で実施。そこに赤いF-150を停め、訓練士の合図とともにタグが自由にクルマへ接触するという内容である。

 タグは車体を前脚で揺さぶり、ボディを引っかき、窓ガラスを叩き、さらにはドアハンドルを器用に操作してドアまで開けてしまった。泥棒なら工具を使うところを、タグは圧倒的な腕力だけで攻める。さすが自然界の頂点に立つ大型肉食獣だけあり、その迫力は想像をはるかに超えるものだった。

 もちろん、この実験は、クマに襲われたときの「クマ対策」のためのものではない。フォードが検証したかったのは、新サービス「フォード・セキュリティ・パッケージ」が現実のさまざまな侵入シーンで正しく機能するかを試すことだ。近年、自動車盗難は電子化が進み、リレーアタックやCANインベーダーなど、従来とは異なる手口が世界中で問題となっている。さらに車上荒らしや荷台からの盗難など、ユーザーが直面するリスクは多様化している。

 そこでフォードは、車両を24時間見守る新たなセキュリティサービスを開発した。それが「フォード・セキュリティ・パッケージ」であり、車両への侵入や不審な動きを検知すると、オーナーのスマホへリアルタイムで通知が届くというもの。さらに、車両位置の追跡や遠隔でエンジン始動を無効化する「スタート・インヒビット」や盗難時の24時間サポートなども備えており、ハードだけでなくソフト面からも愛車を守る仕組みとなっている。

クマの侵入は防げないけどセキュリティは作動する

 今回のテストでは、タグが車内へ侵入しようとした瞬間、スマートフォンへ異常を知らせる通知が送信された。また、荷台用カメラにはタグの姿が鮮明に映し出され、その映像はクラウドへ保存されたという。実際の盗難でも、オーナーは映像を確認できるほか、証拠として保険会社へ提出することも可能になる。

 興味深いのは、開発チームも予想していなかった発見があったことだ。

 タグは人間さながらにドアハンドルを操作し、難なくドアを開けてしまった。これは、手袋を着けた状態でも扱いやすいよう設計されたドアハンドルが、その操作性のよさによってクマにも通用してしまうということを実証してしまったことだ。これにフォードの開発担当者は、「実験室では決して得られない知見だった」とコメントしている。

 それにしても、セキュリティの実証実験にコディアックベアを起用するとは、いかにもスケールの大きいアメリカらしい発想だ。日本でセキュリティシステムの性能を紹介するといえば、耐久試験や衝突試験の映像を公開する程度が一般的だろう。しかしフォードは、本物の巨大グマをキャスティングし、「もし地上最強クラスの侵入者が現れたら」というシナリオをエンターテインメントとして成立させてしまった。

 もちろん、自動車盗難犯がクマ並みの腕力をもっているわけではない。それでも、「これほど過酷な状況でもシステムは正常に作動する」というメッセージは、スペック表や技術説明を並べるよりもずっと説得力がある。

 冒頭で触れたように、日本ではクマの市街地出没が深刻なニュースとして連日のように報じられている。それだけに、「クマにも負けないクルマ」が誕生したのかと少し期待してしまったが、さすがに800kg級のコディアックベアを相手にすれば、タフで堅牢なF-150でもひとたまりもなかった。やはり対クマ性能については、イーロン・マスクあたりが「バイオハザードモード」に続く新機能として、「ベアモード(対クマモード)」でも開発してくれるのを待つしかないのかもしれない。