UTスリーエムは、日系外国人材を対象とした「初級 日本語コース2026」を開始、このたび対面での授業が初開催された。

今回実施されたのは、愛知県内の大手精密機器メーカー工場内で行われた初の対面授業。会場には実際の職場である工場内の会議室が活用され、日系ブラジル人社員20名が参加した。

本稿では、実際の授業の様子とともに、UTスリーエムが日系外国人材に向けて日本語教育を行う背景や、その狙いについて紹介する。

愛知県の製造メーカー内で行われた「初級 日本語コース2026」対面授業

○日本で働く日系ブラジル人を中心に派遣するUTスリーエム

UTスリーエムは、製造業を中心として、日系ブラジル人を中心とした人材派遣・請負事業を展開している派遣企業だ。現在、約2,000名を超える日系ブラジル人が在籍しており、その約95%は日本語能力が問われない在留資格を保有している。

そこで日系外国人材一人ひとりの日本語能力を向上させるためにUTスリーエムが開始したのが、「初級 日本語コース」だ。

日本語能力試験(JLPT)には「N1」〜「N5」まで5つのレベルがあり「N1」が最難関となるが、このコースでは「N5」レベルの習得を目指す。

全30回に及ぶ本プログラムは、日本語をほとんど話せない社員を対象としており、UTスリーエムでは「人材育成」の一環として実施している。顧客企業の理解を得て、実際に受講者が働く工場内の会議室を活用することで、日々の業務にも活かせる“生きた日本語"を習得してもらう狙いだ。

オンラインで行われた「初級 日本語コース2026」の様子

同社では、日本を定住の地として選んだ日系外国人材に、長く働き続けてもらいたいという想いから、自らキャリアを切り拓く基盤となる日本語を身につけてもらうことで、製造業の労働力不足という課題解決にもつなげていきたいとしている。日本語教育を、「定着支援」と「キャリア形成」の基盤として位置づけているという。

今回、愛知県の精密機器メーカー内で初の対面授業が行われ、実際に授業の様子を取材した。現場では、どのような学びが行われているのだろうか。

○初回授業の学習目標は「教室の言葉がわかる」「五十音表から名前を探せる」

「初級 日本語コース2026」の講師を担当したのは、企業向けに職種別日本語教育や異文化コミュニケーション研修などを行っているスプラウト代表の横井由香さんだ。学習目標として掲げたのは「教室の言葉がわかる」「ひらがなの五十音表から名前を探せる」の2点。

初回の授業では〇✖カードを使用して、安心して意思表示できる環境を作る

横井さんは「きいてください」「みてください」などの指示語をはっきりと繰り返し、ジェスチャーも加えながら 、授業を進める。また、職場コミュニケーションの土台となる「もういちど おねがいします」という表現も重要なフレーズとして扱われた。

対話形式で理解度を確認しながら授業を進める

授業中盤では、学習者同士で指示語の練習を行うワークを実施。「話したい人は話して、書きたい人は書いて」という柔軟な学習スタイルで進められたため、学習者は授業を苦とする様子なく、ときには笑いの声も聞こえる和気あいあいとした雰囲気の中で授業は進んだ。

終盤には、五十音表から自分の名前を探す実践的なワークも実施。学習者同士で教え合う様子も見られた。

ひらがなの五十音表から自分の名前を探して発表する

友人同士でが五十音表から名前を探し合う協働学習も実施

今日の授業では、まず「日本語を学びたい」と感じてもらうことも重視されていたという。

授業の最後には、その日の学習目標の達成度を振り返る場面も設けられ、横井さんは継続的に学ぶことの大切さを伝えながら、初回の授業を締めくくった。

学習者がそれぞれ学習目標の達成度を確認し、授業は終了

○日本語を「間違えてもいい」場所のまま続けたい

講師を務めた横井さんは、日本で働く外国人材の中には、日本語を勉強したくても学び方が分からないまま過ごしている人も少なくないと話す。

日本語を日常的に耳にしていても、内容を十分に理解できず、何を言っているのか分からないまま過ごしてしまうことで、コミュニケーションに苦手意識を持ってしまうケースもあるという。

そのため今回の授業では、単に資格取得を目指すだけではなく、「わかって楽しい」「やってみようかな」と感じてもらうことを重視したと話す。最終的にはJLPTの「N4」取得なども目標になるが、その前段階として、「勉強したい」と自発的に学ぶ一歩を踏み出す環境作りを大切にしている。

スプラウト 代表の横井さん

また横井さんは、「ここなら安心して間違えられる」という心理的安全性が担保された場所であることも重要だと語る。授業は全30回で、段階的に日本語を学びながら、日本人と外国人労働者の相互理解につなげていきたい考えだ。

○製造現場から見た日系ブラジル人受け入れの課題

少子高齢化が進み、労働者人口の不足に悩んでいる製造業。その現場では、外国人材受け入れにおける課題として、やはり「言葉の壁」が大きいという声が聞かれた。

今回話を聞いた、製品製造部部長の後藤さんと製品製造部主任の信田さんによると、新しい人材に仕事を教える際には、通訳を通じて指導する場面も多く、教育に時間がかかってしまうこともあるという。

製品製造部部長の後藤さん(左)と、製品製造部主任の信田さん(右)。それぞれの立場から、外国人労働者の現場をともに支えている

一方で、まずは「あいさつ」や日常会話など、基本的なコミュニケーションが取れるようになることへの期待も大きい。「昨日なにを食べましたか」「休みの日はなにをしていましたか」といった雑談から関係性を築き、その先に、「安全」や「品質」といった製造現場で重要な内容への理解にもつなげていきたい考えだ。

また、日本の習慣や文化、ルールに慣れてもらうことも重要だという。現場では、「おはよう」「ありがとう」といった言葉が自然に交わされることで、より働きやすい環境づくりにもつながっていく。

将来的には、通訳を介さずに直接対話できるレベルになることへの期待もある。日本語が分かることで本人の成長にもつながり、仕事の幅も広がっていくと話していた。

○日系外国人材と現場をつなぐ日本語教育

日本で働くために海外から来る人たちは歓迎すべき存在。だが文化や言語の違いによって摩擦が生まれることもある。

同社では、日本語教育を単なる語学習得ではなく、日系外国人材が日本で長く働き、キャリアを築いていくための基盤として位置づけている。

そんなギャップを埋めるUTスリーエムの日本語学習の取り組みは、さらなる労働力不足が予測される日本において、今後より重要な役割を担っていくのではないだろうか。

学習者と関係者一同による記念写真