増田醇一さん

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 人生いろいろ、家族もいろいろ、幸福の形もいろいろ。近年、「結婚がゴールではない」という声も大きくなりつつあるとはいえ、ゴールインした二人には幸せになってほしいと思うのが人情というものだろう。

 そして、そのゴールに到達するまでには、十人十色のドラマがあるのは言うまでもない。目下、幸せに包まれているカップルにエールを送りつつ、出会いから現在までを根掘り葉掘り聞いてみる「令和の結婚事情レポート」。

 今回登場していただくのは、1675年(延宝3)年創業の京都・伏見の老舗酒蔵「月の桂」の「増田徳兵衛商店」15代目社長、増田醇一(じゅんいち)さん(33)と、博報堂社員の岩田夏子さん(31)だ。

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「どうですか?」

 2019年5月、東京で共通の知人女性のホームパーティーに参加した二人。当時、醇一さんは博報堂の社内ベンチャーに出向中で、夏子さんと「同じ会社なんや!」と意気投合。日本酒もワインも嗜む彼女の姿に「よく飲むな」と思いつつ、連絡先を交換した。

増田醇一さん

 その年の冬から家業を継ぐため、彼は夏前に京都に戻ることが決まっていた。気になっていた夏子さんに「ご飯でも行こう」と声をかけ、彼女も二つ返事で応じたが、せっかく入れたランチの予定をそろって忘れて……。慌てて連絡を取り合い、その日の夜が共に空いていたので結局ディナーと相成った。

 その後も幾度か開かれた彼の送別会で顔を合わせた。離れると会いたくなるもので、彼が酒造りを始めてほどなくコロナ禍に襲われたが、酒造りの合間を縫って彼は新幹線の終電で東京へ向かい、翌朝の始発新幹線で帰るという猛アプローチ。

 夏子さんも「結婚を意識する年齢で、遠距離なのに毎日連絡をくれて。でも、コロナ禍でなかなか会えなくて」といつの間にやら恋心を募らせていった。

 20年7月16日、誕生日を少し過ぎた彼女のお祝いに三重・鳥羽の会員制ホテルに宿泊。そこで彼が言った。

「どうですか?」

 このせりふを単体で抜き取るとワケが分からないはずが、「彼のアプローチ開始から時間もたっていたし、私も待たせていたので」と彼女は察し、「はい」と返答。

 目と目で通じ合ったのだ。

 コロナ禍でのリモートワークも利用して互いの元へ通い合った。「常に酒が介在し、ストイックに飲み続けていた」と二人して笑うあたりは、さすが酒蔵を支えるにふさわしい。夏子さんも蔵のイベントや酒米の田植えなどに積極的に参加するようになっていた。

結婚する準備

 24年9月、共通の友人の結婚式に参加するためパリへ。彼は「ついでにイタリアにも旅行しよう」と提案。ソレントに近いアマルフィ海岸のホテルに投宿し、タキシード姿でレストランへ向かう。ひそかに現地でバラ50本とカメラマンを手配してのプロポーズ計画だった。

 彼のいでたちに「気合いが入っているな」と感じたものの、求婚までは予期していなかった夏子さん。醇一さんがなかなか切り出せずにいたところ、計画を見守っていたホテル支配人が「いまいけ!」とハッパ。庭園の中央に二人を立たせた。

 他の客も集まってきた中、「僕と結婚する準備、できてますか?」と彼が言い、「はい」と小声で答えた彼女に「多くの人が見ているから」と促すと、大きな声で夏子さんは「イエス!」。周囲は大いに喝采した。

イタリアをテーマに

 酒造りの時季が落ち着いた昨年春から結婚式の準備を始めた。披露宴に先立ち、昨年11月30日に上賀茂神社で挙式。イタリアをテーマに洋の世界観をまとった披露宴と合わせ、彼女は「和洋の衣装をたくさん着られた」と大満足だった。

 多くの友に囲まれてきた二人は「友人と楽しい時間を過ごすのが好き。それは結婚しても続けたい」と口をそろえる。長き歴史を持つ家に生まれた彼は「その継承について父から正面切って話されたことはないけど、伝統が生活の一部になっていて、いい経験をしてきた。それが楽しくカッコいいものだということを引き継ぎたい」と次代を見据える。

 そして、一番の応援者である妻と共に「15代目として後世に残せるものを」と、改めて意気込むのだ。

「週刊新潮」2026年6月4日号 掲載