来店した客に「条件なしの無料プレゼント」を渡すだけで支出が30%増加するとの研究結果

食料品店や雑貨屋などを訪れた際、店員からコーヒーのサンプルや試供品、ちょっとしたお菓子などを受け取ったことがあるかもしれません。こうした親切は心が温まるものですが、新たな研究により「条件なしで無料プレゼントをもらうと、店での支出が増加する」ということが明らかになりました。
The effects of unconditional gifts on customer-firm relationships | Journal of the Academy of Marketing Science | Springer Nature Link
Free gifts with no strings attached can boost customer spending by over 30%, study finds
https://www.psychologyofselling.pro/free-gifts-with-no-strings-attached-can-boost-customer-spending-by-over-30-study-380/
企業はさまざまな方法で消費者に「プレゼント」をしており、何も条件を付けずにさまざまな商品やサービスを提供する「無条件型」の場合もあれば、使用した金額に応じたポイントやスタンプと引き換えに何かをプレゼントする「獲得型」の場合もあります。しかし、企業と消費者間のプレゼントに関する研究の多くは、消費者が先に何らかの行動をしなくてはいけない「獲得型」についてのものだとのこと。
そこでノースイースタン大学のダモーレ・マッキム・ビジネススクールでマーケティング学の准教授を務めるポール・フォンベル氏らは、プレゼントに何の条件も付かない「無条件型」の場合に、消費者の行動がどのように変わるのかを調べる複数の実験を行いました。
この研究において重要な概念が、誰かから何かを与えられた時に恩返しをする必要性を感じる「互恵性の法則」です。研究チームはこの法則について、何かを受け取ったことに対する寛大で前向きな気持ちである「感謝」と、贈り主に何か負い目を負っているような気持ちである「義務感」の2つの感情的反応が関わっているとしています。
感情的であり人間関係を重視する「感謝」を抱いた場合、無料プレゼントをくれた店舗に対しての忠誠心を高める可能性があります。一方、取引的であり負債を返済したいという欲求に駆り立てられる「義務感」の場合、借りを返そうとして店舗での支出が増える可能性があると研究チームは考えたそうです。

まず研究チームは、北欧の大手総合小売店と提携して最初のフィールド実験を行いました。この店舗には、顧客が入り口から出口にたどり着くまでに、すべての売り場を巡ることができるよう設計された通路がありました。実験日は入店したばかりの顧客に無条件で約5ドル(約800円)相当の缶コーヒーが提供され、対照日には来店した顧客に何も提供しませんでした。
出口付近に配置された研究者らは、出口から出てきた買い物客にレシートの撮影許可を求め、実験日と対照日で支出額がどのように異なるのかを調べました。その結果、無料の缶コーヒーを受け取った顧客の平均支出額は42.38ドル(約6800円)だったのに対し、何ももらわなかった顧客の平均支出額は32.53ドル(約5200円)と、実に32%近くの差が生じていることがわかりました。
2回目のフィールド実験は大型のスーパーマーケットで行われました。研究チームは「プレゼントなし」「8ドル(約1300円)相当のブランドコーヒー豆の現物プレゼント」「店に入ってすぐのところで8ドル相当のブランドコーヒー豆と交換できる引換券」の3つの条件で、顧客の支出額を調査しました。その結果、プレゼントなしの顧客の支出額は54.26ドル(約8600円)、現物プレゼントを受け取った顧客は69.23ドル(約1万1000円)、引換券を受け取った顧客は62.81ドル(約1万円)となりました。いずれのプレゼントも支出額を増加させましたが、現物と引換券の差は統計的に有意ではなかったとのことです。
これらの支出増加の背景にある感情的なプロセスを掘り下げるため、研究チームは被験者に現実的な買い物体験をシミュレートした動画を見せて、無料プレゼントを受け取った場合の感情や支出する予定の金額についてのアンケートを行いました。
その結果、被験者は無条件のプレゼントを受け取ると「感謝」と「義務感」の両方が高まることが判明。「感謝」は再来店したり他人に勧めたりする傾向につながる忠誠心(ロイヤリティ)と強く結びついており、「義務感」は顧客がその場で使う予定金額と強く結びついていることがわかりました。

小売業者にとって最も重要な疑問のひとつが、「顧客にはいくらのプレゼントを渡すべきなのか?」という点です。この疑問について調べるため、研究チームが0.50ドル(約80円)〜16ドル(約2500円)相当まで幅広いプレゼントをテストした結果、たとえ安いプレゼントであっても何も贈らない場合より「感謝」「義務感」「ロイヤリティ」「支出金額」を大幅に増加させることがわかりました。
高価なプレゼントの方が「感謝」はわずかに高まったものの、「義務感」「ロイヤリティ」「支出金額」はプレゼントの価格にかかわらず比較的安定していました。つまり、非常に安価なプレゼントであっても、小売業者は高い効果を期待できるというわけです。
また、無条件のプレゼントがもたらす効果が「新規顧客」と「既存顧客(リピーター)」の間で変わるのかどうかを調べたところ、両グループには有意な差がみられませんでした。新規顧客とリピーターの両方が無条件のプレゼントに好意的な反応を示し、「感謝」「義務感」「ロイヤリティ」「支出金額」のレベルは同様でした。
研究チームは、「無条件のプレゼント」と「ポイントやスタンプに応じた獲得報酬」の間で、被験者の反応がどのように異なるのかを比較しました。その結果、いずれも「感謝」と「支出金額」を増加させましたが、無条件のプレゼントは大幅に強い「義務感」を生み出しました。この結果については、獲得報酬の場合は顧客が「これまでの支出やロイヤリティに見合った報酬をもらった」と感じるのに対し、無条件のプレゼントの場合は「何もしてないのに報酬をもらってしまった」と感じるからだろうど考えられます。
マーケティング心理学系のメディア・Psychology of Sellingは、無条件のプレゼントは短期的な消費と長期的なロイヤリティを高める簡単な方法であり、その費用対効果は魅力的なものだと主張。その一方で、無条件のプレゼントによる効果が買い物以降も続くかどうかは不明であり、時間経過とともに効果が弱まる可能性もあると指摘しました。
