本物のお金持ちは、冬のバケーションをどこで過ごすのか。富裕層マーケティングを長く手掛ける西田理一郎さんは「日本に1泊430万円、7泊以上前提の宿泊施設がある。世界の富裕層が殺到し、予約はあっという間に埋まる」という――。
写真=iStock.com/maccj
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maccj

■グローバルエリートが目指す極上の場所

標高1898メートルの羊蹄山――通称「蝦夷富士」――の麓に広がるニセコエリア。この地を特別な存在にしているのが、「JAPOW(ジャパウ)」と呼ばれる極上のパウダースノーだ。かつて地元のスキーヤーたちが愛した素朴な雪国の町ニセコが、グローバルエリートたちを魅了する極上のデスティネーションへと昇華を遂げたのだ。

シベリアから吹き付ける乾いた風が、雄大な山塊にぶつかって生み出す雪質は、世界のスキー愛好家たちを虜にする。オーストラリア・カンタス航空のプロモーションをきっかけに始まった国際化の波は、もはや止まらない。

今や、オーストラリアだけではない。中国(香港)、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア――アジア各国からの富裕層が、続々と集結しているのだ。

■英語が「公用語」になった日本のリゾート地

冬季、スキーシーズンになると、ひらふの町中は、ほぼ外国人。日本語はほぼ耳にしない。ニセコでは英語対応が完全に標準化されているのだ。

ニセコインターナショナルクリニックには英語堪能なスタッフが常駐し、地元病院にも通訳が常駐する。また教育面を覗くと、インターナショナルスクールの生徒数は年々増加傾向だ。全国の大学生や20代の若者が、実践的な英語環境を求めて冬季リゾートバイトに集まり、ワーキングホリデーの外国人スタッフと共に真の国際コミュニティが形成されているのだ。そして「ニセコ留学」という言葉まで誕生した。

24時間コンシェルジュサービス、英語対応医療施設、インターナショナルスクール――これらの生活インフラは、もはやグローバルスタンダードを完全に満たしているといえる。

■ラグジュアリー・マウンテンリゾートの宿泊事情

現在、ニセコにはリッツカールトンリザーブやパークハイアットをはじめ、すでに複数のファイブスターホテルが存在する。そして2025年には、ミシュランキーホテルに6軒が認定されるという快挙を成し遂げた。

ニセコ出身でニセコの観光、ホテル事情に精通しているアシャット社ファウンダーの千葉展義氏によると、コロナ禍で工事がストップしていた期間があるが、再開し始め、バニヤンツリー、カペラ、アマンなどラグジュアリーホテルブランドが軒並み進出予定。この他にもファイブスターホテルが続々進出を計画しているという。

まさに、ニセコは、世界が熱視線を送るラグジュアリー・マウンテンリゾートだといえる。

このように、ニセコの外国人富裕層に絞ったインバウンド戦略で数々のホテルが開業準備を始めているが、外国人富裕層の一棟貸し別荘やコンドミニアムも大きな宿泊需要が見込まれる。

■7泊3010万円があっという間に埋まる

そして今、業界をざわつかせているのが、アッパーヒラフのHakuVillas(ハクヴィラズ)だ。7階建ての建物にわずか4ユニットという贅沢な構成で、ニセコの高級不動産の新基準を打ち出している。

HakuVillasのペントハウス1泊430万円、最低7日〜(画像提供=筆者)

HakuVillasのペントハウスの冬季ピーク価格は「最低7泊」前提で一泊430万円だ。つまり1週間の滞在が3010万円の設定であるが、ウィンターシーズンは予約が取れないくらいあっという間に埋まる。

同じような価格帯としては、スキーのインアウトが直接できる、韓国資本のMUWA NISEKO。ハイシーズンのミニマムリザーブとして「1泊約450万円×5日間」という別次元の価格を提示。それでも予約は絶えない。ニセコから車で30分ほど離れた京極や蘭越なら、その金額で古家付きの土地が買えておつりがくる価格だ。

■子どもに本物の雪を見せたい

「価格? まったく気になりません。子どもに本物の雪を見せられるなら」

シンガポールから訪れた投資家一家は、夏の10倍、15倍以上に跳ね上がった冬のダイナミックプライシングを、まるで水を買うかのように支払った。金額ではなくニセコの冬は感動の振り幅がホテルの価格に反映される。この光景が、ズバリ、今のニセコを象徴している。

38年前、日本もバブル後半の頃、『私をスキーに連れてって』という映画が大ヒットした頃は、地元スキーヤーと日本人観光客だけが知る静かな雪国だったニセコ。それが今や、世界中のグローバルエリートがウィンタースポーツを楽しむ場所として、日本屈指のラグジュアリー・マウンテンリゾートへと変貌を遂げている。

ニセコの飲食事情

冬場の飲食に関しては、ホテル客は増えているのに飲食店の供給が全く追いついていないことがニセコ地域の課題だ。

つまり、レストランの予約も準備をせずに雪国を甘く見て訪れる人は、レストラン難民化する。居酒屋価格も高騰しており何より予約がないとまず入ることは不可能だ。

そんな、冬のインバウンドトラベラーに向けて、2025年冬、東京発で海外客にも愛されるPST(Pizza Studio Tamaki)のニセコ進出などは、まさにこうしたニセコ特有の需給ギャップを埋める動きと言える。飲食や夏のアクティビティの充実は、依然としてニセコの観光地としての課題である。

■全国屈指の繁盛コンビニ

ニセコ東急グラン・ヒラフスキー場前に位置するセイコーマート ニセコひらふ店では、3万円のシャンパンや1万円のウイスキー、2000円の高級イチゴをインバウンドトラベラーたちが次々と購入する光景が見られる。

ローソンニセコひらふ店の飲み物売り場。コーヒーの下にシャンパンがずらり(画像=筆者提供)

そして近隣にあるローソンニセコひらふ店は、冬季に驚異的な売り上げを記録するローソン内でも全国屈指の店舗だ。1月・2月・3月の繁忙期には月間売上が年平均の2.5倍以上、客単価も3割増となる月があり、特に調理パン・サンドイッチの販売は今年1月に全国のローソンで7位を記録した。

この店舗の最大の特徴は、ニセコを訪れる外国人客のニーズを的確に捉えた品揃えにある。朝食需要に応えるサンドイッチ、バター、チーズ、食パン、プロテインバーといった定番商品に加え、1本3万円以上する高級シャンパンを常時取り扱い、なんと繁忙期にはシャンパンが1日平均4本も売れるという。

とくに高級シャンパンは、一般的なコンビニでは考えられない独自の品揃えであり、ニセコという国際的リゾート地ならではだ。地元で愛されるセイコーマートとは「対抗」ではなく「差別化」の視点で店舗運営を行っており、セイコーマートが地域密着型のファンベースを持つ一方で、ローソンニセコひらふ店は「からあげクン」やデザートといったローソンならではの商品と、外国人客向けの洋食材の充実した品揃えで独自のポジションを確立している。

■「お一人様25万円」の雪上ランチに世界中から予約殺到

究極のプライベート体験として、超富裕層たちが密かに憧憬を抱くのが、Asyatt.(アシャット)社が提供する「Snowtable(スノーテーブル)」だ。

お一人様ミニマムチャージ25万円――。この価格に込められた価値は、体験した瞬間に言葉を失うほどの感動となる。

広大な雪原に芸術的にデザインされたスノーテーブルが現れる瞬間、ゲストの表情には畏敬の念が浮かび上がる。これは単なる食事ではない。五感すべてを震撼させる特別な儀式なのだ。

50名が着席できる特注テント内部は、まさに「冬の宮殿」。蝦夷鹿の冬毛、上質なブランケット、そして暖炉の炎が織りなす温もりが、厳寒の大自然と見事なコントラストを描く。

写真提供=Asyatt.
1日1組限定、最低1人25万円の雪上ランチ - 写真提供=Asyatt.

体験は料理だけでは終わらない。大型スノーモービルでのパウダースノー駆け抜け体験、子どもたち向けのバックカントリーギアを使った宝探し、ファイヤーピットを囲んでのスモア作り――家族の絆が炎のように温かく燃え上がる。

さらに驚嘆すべきは、徹底したカスタマイゼーションだ。プライベート花火、和楽器演奏、著名アーティストによる羊蹄山のライブペインティング、最新テクノロジーを駆使したドローンショー。――海外ゲストが心に描く理想を、次々と実現していく。

予約の瞬間から当日まで同一のVVIP対応チームが一切の妥協を許すことなくゲストの嗜好、アレルギー、記念日に至るまで完璧に把握し完全オーダーメードの時間を創造するため、スノーテーブルの一人25万はあくまでミニマムプランであり、唯一無二の体験をオーダーする場合は全てオプションとなり別途費用が加算される。

この1日1組限定という究極の排他性が、この体験の本質的価値であり大人気だ。

■「夏のニセコ」という新たな発見

「冬だけ」のリゾート――そんな常識が、今崩れ去ろうとしている。

アジアの富裕層は、ヨーロッパや北米の上流階級が実践する「一年を通して豊かさを楽しむライフスタイル」に憧れを抱いている。都市部の灼熱の夏を逃れ、「夏のニセコ・ライフ」を再発見する人々が急増しているのだ。

写真提供=Asyatt.
夏のニセコも人気がでてきている - 写真提供=Asyatt.

春から秋にかけては、尻別川の清流でのラフティング、羊蹄山麓の緑豊かなトレイルでのトレッキング、そして北海道の大地が育んだ極上食材を味わう美食体験――多彩なアクティビティが五感を刺激する。

温泉の湯気が立ち上る静寂の中、四季折々で表情を変える羊蹄山の美しいシルエットを眺めながら、世界中の言葉で交わされる上質な会話。そこにこそ、新しいニセコの姿がある。

軽井沢が夏の暑さで魅力を失いつつある中、ニセコでの数週間から数カ月のロングステイを選ぶ国内富裕層も増加しているのだ。

■投資家の意識の変化で不動産市場激変

ニセコの大地で、今静かな革命が起きている。

2014年から2020年にかけての“熱狂期”に、外資流入により地価が40〜50%も跳ね上がった。あの興奮の時代を経て、ニセコの不動産市場は重要な転換点を迎えている。投機目的から、成熟した安定成長期へと歩みを進めているのだ。

何より注目すべきは、投資家たちの意識の変化だ。香港、シンガポール、オーストラリア、米国から集う投資家たちは、もはや短期転売に躍起になることはない。

彼らが求めているのは「長期滞在・ウェルネス型」の豊かなライフスタイルである。高級コンドミニアムやラグジュアリーホテルへの投資には、確固たるサステナブル志向が息づいている。

この10年間、コンドミニアム主導のリゾート開発が華々しく展開されてきたが、潮流は確実に変わりつつある。低密度の区画分譲地やヴィラ開発への転換は、より上質で個人的な体験を求める富裕層の価値観の変化を物語っている。

森に囲まれた場所にひっそりとたたずむ大きな家、静謐な環境に身を置くこと――それが新たな憧れとなっているのだ。

セレブリティにとって最も貴重なもの――それは「時間」である。そしてその前提となるのは「異国でありながら安心して暮らせる場所」という環境だ。

誰の影響も受けず、自分の軸で時間をプロデュースできる自由。ニセコは、その究極の舞台を提供している。もはや単なるバケーションではなく、人生を豊かにする投資であり、新たな可能性への扉を開く稀有な価値を持つ聖域として語られているのだ。

----------
西田 理一郎(にしだ・りいちろう)
価値共創プロデューサー、ディープルート 代表取締役
富裕層向けブランド体験の「物語」を紡ぐナラティブ・マーケティングをプロデュース。また、情報伝達を超えた行動を仕組化し、個の全盛時代において、ラグジュアリー市場での持続的成長を実現する知の「価値共創」戦略を構築する。プレミアムブランドの世界観を体現する戦略的プラットフォームの商品化を手がけ、ミシュラン・ガストロノミーから超高級ライフスタイルまで、文化的価値を経済価値に転換するマーケティング、ブランディングを専門とする。「to create a Real LIFE 敏腕マーケターが示唆するこれからの真の生き方とは」「Life is a Journey」「食と文化の交差点 ガストロノミーへの飽くなき情熱」などのメディア掲載・連載を通じて真のラグジュアリーとは「所有」ではなく「体験」であり、その体験に宿る物語こそがブランド価値の源泉である――という信念のもと、富裕層マーケティングの新境地を開拓し続けている。主要著書に『予測感性マーケティング』(幻冬舎)、『アフターコロナ時代のトラベルトランスフォーメーション』(ゴマブックス)、『GRAND MICHELIN ミシュラン調査員のことば[特別編集版]』(アンドエト)がある。個人サイト
----------

(価値共創プロデューサー、ディープルート 代表取締役 西田 理一郎)