大人が夢中になる瞬間 シシヤマザキ×若手工芸作家が見つめる工芸と暮らし
三菱UFJフィナンシャル・グループでは、工芸の文化や技術の継承に寄り添う「MUFG 工芸プロジェクト」を2023年から始動。プロジェクト2年目を迎えた2024年に、若手作家を対象に展示・販売などを支援する「KOGEI ARTISTS LEAGUE」を開催。2025年8月20日から8月25日までの6日間、日本橋三越本店で若手作家22名の作品が展示・販売されます。
――「KOGEI ARTISTS LEAGUE」とは
今回は、最終選考会を経て選出されたファイナリストのなかから若手作家3名と、アーティスト・シシヤマザキさんを迎え、彼らが作品作りに込める想いなどを自由に語ってもらいました。

シシヤマザキさん(アーティスト): 水彩画風の手描きロトスコープアニメーションを独自の表現方法として確立し、CHANELや資生堂などのプロモーションイメージを制作し世界的に活躍。2024年にNHK連続テレビ小説「虎に翼」のオープニング映像を手がけ話題を呼ぶ。2020年より陶芸制作に集中するため栃木県益子町に移住。観光大使もつとめる。
素材への探求、感情の表現…“つくる”の根っこにあるものとは
―― 普段ものづくりに触れていない人にとって、「つくる」という行為は未知の領域です。そこでまずみなさんに伺いたいのが、「つくる」とはどんな行為なのでしょうか?
藤本さん:私が扱っている金属は頑固な素材です。扱うのが難しそうな素材だと思われるかもしれませんが、知識と理解があれば思い通りに対応してくれます。一方で、予定不調和が起こることもあるのですが、アプローチを変えれば面白い化学反応を起こしてくれるので、そういうところも含めて好きです。「つくるとはどういうことなのか」と聞かれると…制作中はほとんど何も考えずに制作しているので、言葉で表現するのは難しいですね。

藤本春華さん(金工):東京藝術大学の大学院美術研究科修士2年生。熊本県出身。
―― ものづくりは、あれこれ難しく考えながらというよりも直観的に作業しているんですね。藤本さんはそもそもなぜ金工の道を選んだのですか?
藤本さん:最初は金工ではなくジュエリーを専攻するつもりだったのですが、金や銀は素材そのものに元から価値があるし、ブランド力もありますよね。そう考えたときに、「自分がやらなくてもいいかな」と思ったんです。それよりも、“若手工芸作家”として文化を継承していくことが自分の使命なんじゃないかと考えるようになって。いくら素晴らしい文化でも継承されなければ消えていってしまう――それって悲しいことなので。

―― 藤本さんにとって「つくる」とは、大きなテーマとして文化の継承というものがあるんですね。ガラスを専門としているレイモンドさんはどういうきっかけで素材と出会いましたか?
レイモンドさん:小学校から高校まで油絵をやっていたのですが、美術館でガラス作品をみたときに「こんなにきれいな素材があるんだ」と感動して。それで大学一年生のときにガラスの授業に出てみたんです。最初の授業では、先生が高温で溶けたガラスを成形してみせてくれたのですが、「もう冷めたよ」と先生が仰ったのでもう手で触れるんだなと思ったら700度ぐらいあって…手を大やけどしちゃったんですよ。

レイモンド愛華さん(ガラス):多摩美術大学博士前期課程1年生。大阪府出身。
―― 「冷めた」と言われたら触れられる温度だと思う人も多いと思います(笑)
シシさん:興味から触れてしまったという今の話を聞いて思ったのが、子どもの頃は興味を持ったものに対して、触ったり動かしたりして確かめたいという欲求がありますよね。それって大人になるにつれ、なくなっていってしまうのですが、本来はそれこそが作るという欲求の根源にあるものだと思うんです。
レイモンドさん:そうなんです!思い返せば、3歳のときにも同じような出来事があって。青い炎を見て「冷たい」と勘違いして触っちゃったことがあるんです。大人になった今でも触ってすぐ確かめたくなっちゃうみたいです(笑)。

―― 大やけどを負いながらも、ガラスが嫌いになることはなかったんですね。
レイモンドさん:そうなんです。むしろ、熱くて綺麗でかっこいいものに触れていたいという衝動のほうが強くて。夏は作業中暑いし、ガラスはもろいからすぐ割れちゃうし…それでもこの素材が大好きですね。

―― 先ほど、「つくることの根源にある欲求」という話がシシさんから出ました。シシさんはダンスパフォーマンスで自身の体を動かしたり、陶芸では土を造形したりとどちらも“動き”という点が共通していますね。そこにはどんな欲求があるのでしょうか。

シシさん:私はアニメーションから絵画、ダンスパフォーマンス、歌、陶芸など様々な表現をしています。そのすべてに共通するのは「動きたい」「動かしたい」「触りながら確かめたい」という欲求です。ひとつひとつが別の技法に見えるかもしれませんが、造形したり自分の体を動かしたりすることは地続きに大きなひとつとして繋がっています。

レイモンドさん:私もシシさんと同じように「手で動かして造形したい」という欲求があります。私にとって「つくる」という行為は本当に楽しさそのものです。
シシさん:手を動かしながら「何が生まれるんだろう」とワクワクする瞬間って良いですよね。さっきまでこの世に存在してなかったものが急に立ち上がってくる――しかも熱を帯びながら2分30秒ぐらいで一気に形成していく。その“時間感覚”もガラス制作の特殊性だと思います。
―― “つくる”ということは何らかの欲求ともつながっている。染織を専門とする髙橋さんはどのように考えますか?
髙橋さん:“つくる”ということからは少し離れるかもしれませんが、「芸術とはなにか」という問いを改めて考えさせられた授業が大学時代にありました。そのときに出した答えは、「誰かに何かの感情や思想・思考を与えるもの」でした。それは、「美しい」とか「魅力的」「かわいい」のようなポジティブなものだけではなくて。たとえば、藤田嗣治の戦争画は戦争の悲惨さを伝える側面がありますよね。そういった社会問題やネガティブなことさえも見ている人に考えさせるのが、芸術作品の存在する意味合いだと思うんです。

髙橋稜さん(染織):金沢美術工芸大学大学院修士1年生。神奈川県出身。
シシさん:ものづくりをする際、パーソナルな感情が起点になっていたとしても、多くの人に自分ごととして受け取ってもらえるのが芸術の意義ですよね。
髙橋さん:まさにそうですね。私は「生活の中の感情のゆらぎ」を制作のテーマにしているので、日常のなかで流れていってしまうような、あるいは無意識的な感情を、作品を通して伝えたいと思っています。「見る人に感動を与えたい」のですが、私にとっては「素敵ですね」で終わらないような感情を呼び起こせればいいなと。

見る人に届けたい、つくり手が作品に込める想い
―― シシさんの作品は鑑賞者を「やさしい気持ち」にさせるパワーを持っていますよね。独特のピンク色は「シシピンク」と呼ばれていますが、見ているだけで心が浄化されるというか。
シシさん:どんなに自分の中で「これは大きなテーマだ」と思っていても、それが他の人にとって“自分ごと”にならなければ意味がなくて。「やさしい」と言ってもらいましたが、実はその根っこにあるのは“怒り”だったりするんです。でも、怒りのままストレートに表現しても、人は怖がって逃げてしまいますよね。だから、どう伝えるかというのはすごく大事なことだと思うんです。

伝えるという点では、“目にとまる仕組み”というのも意識的に取り入れています。まずは「気づいてもらう」ことが大事だから、そういうビジュアルの法則も使うし、あとは単純に自分自身も癒やされたいから、「どうしたら気持ちいいだろう?」って、自分をマッサージするような気持ちで作品を作っています。
もちろん自分の中にも「楽しい」とか「癒やされたい」という気持ちもあります。だからこそ、アウトプットはやさしくありたいし、「あなたにもできるんだよ」っていうメッセージを込めたいと思っているんです。

藤本さん:私は髙橋さんのように自分の感情を作品に込めるタイプではないのですが、今のシシさんのお話でいう「目にとめてもらう」というところが同じかもしれません。私の作品のテーマは“閑話休題”なのですが、たとえば美術館でたくさんの展示を見て疲れているときに、ふと「何これ?」というインパクトのものがあったら目にとまりますよね。
―― 美術館は作品ごとのエネルギーが強いので疲れますよね…。藤本さんの作品はどういうものですか?
藤本さん:たとえば金工で作ったフランスパンです。「どうしてここにフランスパンがあるんだろう?」と思ってよく見たら伝統工芸の技法で作られているという…。鑑賞者には少しでも工芸作品に興味を持ってもらえれば、それでいいんです。
工芸作品は、元々は日常的に“使われるもの”。今では使われなくなってしまった作品(道具)もありますが、その技術は継いでいきたい。形を変えてでも、工芸品の持つ意味を残していくことが、私の背負っている使命なのかなと思っています。
メダカ、音楽、アニメ…「最近、制作以外にハマっているものは?」
―― 作品制作がみなさんの生活の中心だと思いますが、最近、制作以外に熱中しているものはありますか?
藤本さん:私は大学の研究室でメダカの飼育にハマっています。今は産卵シーズンを迎えてものすごく増えちゃって…。
シシさん:管理してるんだけど、自然のサイクルで勝手に営みが生まれてるっていう状態、いいですよね。
藤本さん:そうなんです。「どこから来たの!?」みたいな生物が住み着いたり。見ていて面白いです。

―― 髙橋さんは制作中も移動中も音楽を聴いていることが多いと聞いています。
髙橋さん:作業に集中するために音楽を聴くことが多いです。1980〜2000年代の邦楽が好きで、今は矢野顕子さんが自分のブームです。彼女の曲っていい意味で生活に根差したものが多くて。ドラマチックではない、淡々とした素直な気持ちをあの独特な声に乗せているのがすごく好きです。

シシさん:矢野顕子さんの声、私も好きです。昔の音楽って過ぎ去った時代の情緒を感じられてなんだか癒やされます。世の中全体にこういうバイブスが響き渡っていたのかと思うと面白いですよね。
レイモンドさん:私は高校生のときからアニメの「ザ・シンプソンズ」にハマっています。エピソードもキャラクターも面白くてすごくかわいいんですよね。

―― アニメーションと言えば、シシさんは自身の表現のひとつにアニメーションがありますが、お気に入りの作品はありますか?
シシさん:一番すごいと思うアニメーションは『ピングー』です。シンプルな白と黒の構成で、ピングーは感情が高ぶると、体を上下させて表現するじゃないですか。あれだけ抽象度が高くて、色のコントラストだけで「何かが起きてる」って感じさせるのはすごく完成度が高いなと思うんですよね。実はこれまでにアニメをすごく見てきたわけではないので、なぜ自分がアニメーションという表現に惹かれるんだろうと最近よく考えることがあります。
―― 多様な素材を使う皆さんですが、ものづくりに対する姿勢や日々の考察の根本には、物事への純粋な好奇心と興味があると感じました。
若手工芸作家の作品と向き合うことで出会える感情
彼らの会話を通して見えてきたのは、子どものころに誰しもが持っていた純粋な興味や欲求が根底にあるということ。さらにその背景には、継承していくという使命感や自分の心情を表現したいという想いなどが込められています。「KOGEI ARTISTS LEAGUE」では、今回の3名をはじめ若手作家22名の作品が展示販売されています。
そんな彼らの作品と向き合うことで、自分のなかにある思いもよらない感情と出会うことができるかもしれません。

・KOGEI ARTISTS LEAGUE

撮影:Inouwye Yuta
[PR企画:MUFG×ライブドアニュース]