三陽商会、新中期経営計画で「アッパーミドルのトップランナー」狙う 基幹7ブランド×100億円構想も

記事のポイント
三陽商会は2025年2月期の通期連結決算は減収ながら利益確保し、粗利率改善や販管費抑制など収益体質強化に手応えを得た。
新中期経営計画ではアッパーミドル層への明確なポジショニングを打ち出し、成長戦略を本格化させる。
海外展開やM&Aを含む拡張戦略と、顧客基盤の質的強化などを通じて中計目標達成を目指す。
三陽商会は2025年2月期の通期連結決算は減収ながら利益確保し、粗利率改善や販管費抑制など収益体質強化に手応えを得た。
新中期経営計画ではアッパーミドル層への明確なポジショニングを打ち出し、成長戦略を本格化させる。
海外展開やM&Aを含む拡張戦略と、顧客基盤の質的強化などを通じて中計目標達成を目指す。
三陽商会は2025年2月期の通期連結決算で、売上は減少したものの純利益を確保した。一方、既存の事業構造において、気候変動や消費行動の変化といった環境変化への対応力が求められる1年となった。2026年2月期から始まる新たな中期経営計画(2026年2月期〜2028年2月期)では、「アッパーミドルのトップランナーを目指す」というビジョンを掲げ、粗利改善・販管費の抑制といった既存の構造改革を土台に、ブランドの価値向上と成長投資を両立させる戦略を打ち出した。
「仮説どおりに市場は動かない」
2025年2月期は、3カ年の中期経営計画の最終年度にあたる。初年度から営業黒字を維持してきたが、最終年度は減収減益となった。しかしながら、利益面では計画を上回るなど一定の成果を収めた。
売上高こそ前年同期と比べて1.3%減の605億円と減収したものの、営業利益は27億2000万円と前期比3億3000万円の減益ながら計画を2000万円上回った。当期純利益は40億1000万円と、前年同期比で12億2000万円の増益、計画比でも1000万円の上振れとなった。売上総利益率(粗利率)は在庫の鮮度維持や平均売価の上昇、EC・アウトレット専用商品の拡充などにより62.5%と前年比で0.3ポイント改善。販管費は抑制され、計画水準内に収まり、財務面でも自己資本比率が68.9%を維持するなど健全性を保っている。厳しい外部環境のなか、収益体質強化への手応えが得られた。
一方、市場・市況の変化への対応力が課題となった。気温変動による季節商品の販売機会の逸失、コロナ禍からのリベンジ消費終了後の反動、百貨店改革による売場縮小といった外的要因に加えて、当用買い・実需買いといった消費スタイルの変化に対応しきれなかったことも影響した。これに対し、社長の大江伸治氏は、決算説明会で、「仮説通りには市場は動かない。だからこそ、機動力をもっていかに軌道修正できるかが問われる」と語った。
「収益力」と「ブランド力」を両立させる
2026年2月期から始まる三陽商会の新たな中期経営計画は、売上高700億円、営業利益50億円を目指す3カ年プランだ。10年後に売上高1000億円、営業利益率10%、ROE10%という長期ビジョンをバックキャストし、その達成に向けた「実行フェーズ」と位置づける。大江氏は、「中期経営計画は、マニフェストではなく実行計画。公表した以上、実行責任を負う」という。新たな中計(中期経営計画)は、前の中計で明らかになった柔軟性と機動力の不足という課題をもとに、構造改革と攻めの成長を同時に進める内容だ。
ビジョンは、「高い価値創造力と強靭な収益力をあわせ持つ、アッパーミドル領域のトップランナー」。従来のラグジュアリーマーケットの伸びが鈍化するなか、品質と価格のバランスに優れた「アフォーダブル・ラグジュアリー」領域にポジショニングを定め、独自の競争優位を確立する。基幹7ブランドそれぞれを100億円規模へと成長させ、ブランドの価値向上、海外展開やM&Aを組み合わせ、事業ポートフォリオの最適化を図る。
粗利率は、現状の62.5%から2028年2月期には64%へ引き上げ、営業利益率も4.5%から7.1%への改善を目指す。目標達成に向けては、調達原価の抑制、プロパー販売比率の向上、在庫の鮮度改善などの施策を実施する。実際、繰越在庫比率は2025年時点で16%まで低下しており、着実に成果が出始めている。一方で、販管費は極力抑える方針を貫く。「粗利率を上げ、販管費率を下げる。その組み合わせで営業利益率を確保するという基本方針は、今後も変えない」意向だ。
基幹7ブランドを100億円規模に 新ブランド「ビアンカ」でミドル層も狙う
7つの基幹ブランドをそれぞれ100億円規模へと成長させる方針のもと、「マッキントッシュ ロンドン」は旗艦店を含めた出店を強化。新ブランド「ビアンカ」もEC専用として立ち上げ、ミドルゾーン層にアプローチする。同社では、アッパーミドル層を主軸に据えつつも、「過度にアッパー寄りだった商品構成を見直し、ミドル領域にもバランスよく展開していくことが必要」(大江氏)と捉え、ブランドポートフォリオを多様化させる。
チャネル戦略において、百貨店はアッパーミドル向けブランドの主販路として出店を強化するが、そのほかの販路の成長によりチャネル全体での構成比を下げる。ECとアウトレットは構成比を高めながら、いずれも2028年に100億円規模に成長させる。特にECは、プロパー販売を軸に、実店舗との補完関係を強化していく。
海外展開とM&A 外部資源を取り込み拡張化
新中計では、成長戦略の一環として海外展開とM&Aにも積極的に取り組む。
2025年1月には、伊フィレンツェで開かれた世界最大のメンズファッション展示会ピッティ・ウオモ(Pitti Uomo)に出展。主力商材の100年コートは、メイドインジャパンの高品質を強みに高評価を得たといい、今後は受注に向けた取り組みも本格化させたいという。
また海外事業においては、現地パートナーとの提携を軸に事業拡大の可能性を探る。自社によるオペレーションにはこだわらず、進出地域についても「アジアや極東地域を中心に検討している」という。
M&Aについては、「具体案件はない」としつつも、ブランド取得や事業領域拡張の選択肢として検討していく方針を示した。大江氏は、「ストック型(会社ごと買収)でも、アセット型(商標権取得)でも、企業価値向上に資するものであれば、その規模やスコープに関わらず、積極的に対応していきたい」と話した。
チャレンジングではあるが達成可能な目標
販売力の強化も、新中計の重点施策のひとつだ。現在160万人の会員数のうち、アクティブユーザーは40万人。会員の稼働率とロイヤル顧客比率をさらに高め、購買単価とLTVの向上につなげる。
大江社長は、特にシルバーランクの約9万人をいかにロイヤル化できるかが重要だと見る。現在、同社のロイヤル顧客(プラチナ、ゴールド会員)は約8000人で、年間75億円の売上を生み出している。1人あたりの購買額は単純計算で80万円に上るが、大江社長は、「ロイヤル顧客が1000人増えると、年間売上は8億円以上押し上げられる可能性がある」と語り、顧客基盤の質的拡大が業績向上にもつながるとの認識を示した。
最終年度に売上高700億円を見据えた新中期経営計画の目標について、大江社長は「決して低いハードルではない」と前置きしたうえで、次のように述べた。「先ほど申し上げた施策を着実に実行すれば、チャレンジングではあるが、達成可能な目標だ。特に売場面積の拡大と店舗数の増加が大きな要因になる。加えて、商品力と顧客戦略の強化によって、売上拡大を目指す」。
取材・文/戸田美子
