伝え方が上手い人は、何が違うのか。元NHKアナウンサーの墨屋那津子さんは「伝わりやすい言葉は、書くときと話すときで異なる。相手に話すときには、“今から何を言うか”と準備を促すのが大事だ」という――。(第2回)

※本稿は、墨屋那津子『あなたの話が「伝わらない」のは声のせい』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Worawee Meepian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Worawee Meepian

■強調したい言葉の前で、息継ぎする

「意味のまとまり」を意識してひと息で話すと、適切な「間(ま)」が生まれます。わざわざ「間をつくる」必要はなく、話の流れに沿った自然な間がつくられるのです。間は、話す側が呼吸するためだけでなく、聞く側が話の内容を理解するためにも重要な時間です。矢継ぎ早に話すと、相手は内容を整理する時間が取れず、聞いていて疲れてしまいます。

ひとまずは、1つの意味のまとまりをひと息で読めるようになれば十分です。応用編として、さらに強調したい単語や数字がある場合、その「前」で息継ぎをしてみましょう。その単語や数字が重要だと相手に伝えられます。次の例文で練習してみましょう。

例文 「今回の調査の結果により、〈息継ぎ〉70%が支持しました」

この文章で強調したいのは、「70%が支持」という点。であれば、その前に軽く息を吸ってから話すことで、相手により印象的に伝わります。強調したい箇所はだいたい「20文字に1カ所」まで。このような短い文章であれば、強調するのは1カ所で十分です。

強調したい言葉の前で息継ぎをすると、自然な間が生まれて聞き手に息継ぎの後の言葉が印象的に伝わる。[『あなたの話が「伝わらない」のは声のせい』(飛鳥新社)より]

■「今から何を言うか」を相手に伝えておく

次は、相手に聞く準備をさせる「前置きメソッド」をお教えします。声は、相手は記憶しながら聞くので、書くときと話すときでは伝わりやすい言葉の順番が違います。話すときは、ビジネスでもプライベートでも、相手に「今から何を言うか」を前置きすると、とても伝わりやすくなります。

「意味のまとまりをひと息で読む」が、キャッチボールにおける「ボールの投げ方」だとしたら、「これから投げるよ!」と相手に言うのが重要だという話です。そのほうが相手は言葉をキャッチしやすくなります。例文で説明しましょう。

【書くときの自己紹介】
○○○○と申します。△△社××部で□□を担当しております。どうぞよろしくお願いいたします。

【話すときの伝わる自己紹介】
名前は○○○○です。会社名は△△社 部署は××です。担当は□□です。

上がメールなどの書くときで、下が話すときの伝わりやすい例です。

■「前置き」してから固有名詞を伝える

まずは、伝わりづらい話し言葉の例を挙げて解説します。

よくある自己紹介の例(名前や会社名を相手に覚えてもらいにくい)
「○○○○と申します。△△社××部で□□を担当しております。どうぞよろしくお願いします」

このような自己紹介をしている人は多いと思いますが、名前を覚えてもらいたいなら、これは損しています。実はこの話し方だと相手は聞く準備ができず、ほとんどの場合、自分の名前や会社名などの「固有名詞」が相手に伝わっていません。サービスや商品名などはなおさらです。そして、伝わっていないところは、名刺が補っているのです。

次のように、「名前は」「会社名は」「担当は」などと「前置き」してから固有名詞を言うと、相手に声を聞き取る準備ができます。すると、名前や会社名が伝わるようになります。では、実際に以下に自分の自己紹介を当てはめて読んでみましょう。

覚えてもらえる自己紹介の例
「私は、○○○○と申します。会社名は、△△社××部で、担当サービスは、□□です。どうぞよろしくお願いします」

さらに、自分の名前や会社名の1文字目は、ふだんより3〜10倍強く言いましょう。それにより、聞く側に印象深く伝わり、名前を覚えてもらえます。営業の方であれば、自社の商品やサービスを説明する文章を事前に音読しておくのもオススメです。

特に難しい名称やキーワードはしっかり練習しましょう。何回か音読していると、特定の言葉を噛んだり、発音しにくい音がわかってくるはずです。そこにマークをつけ、注意しながら、くり返し読みましょう。

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■新商品の紹介も「前置き」してから

では次に、商品紹介の例を挙げます。

よくある営業トークの例(伝わりにくい)
「私たちの会社からスピードマックスという商品が出まして、世界最速なんです」

これも「前置き」がありません。このように、商品名を文章の真ん中に入れる話し方だと、商品名が相手に伝わりづらくなります。伝わりやすくするには、次のようにしましょう。

覚えてもらえる営業トークの例
「新商品が出ました。特徴は〈息継ぎ〉世界最速という点です。商品名は〈息継ぎ〉スピードマックスです」

このように、新商品が出ることを「前置き」し、次に商品名を言います。かつ、特徴を言う前に前置きと息継ぎをして、息継ぎ後の言葉を強調しています。

■“お願いごと”にも活用できる

次に、日常でよく言う例を挙げます。

よくあるお願いの言い方(伝わりにくい)
「コンビニでパンと牛乳を買ってきて」

家族に買い物を頼むときによくこういう言い方をしますね。でも、この言い方だと「前置き」がないので、頼まれた人は「え? 何? もう1回言って」となったり、聞きづらいので聞き逃してしまうかもしれません。この場合も、次のように「買ってきてほしいものがある」と前置きしてから、買ってきてほしいものを言いましょう。

聞いてもらえるお願いの言い方
「コンビニで買ってきてもらいたいものがあるんだ。〈息継ぎ〉パンと牛乳の2つ」

このように、今から何を言うかを「前置き」して、相手に聞く準備をしてもらう話し方をすると、ウソみたいに伝わりやすくなります。本書の編集者は、「前置きメソッド」を使って驚きの体験をしました。中学生の子どもに「あのお皿取ってきて」と言っても聞き流されていたのに、「取ってきて。〈息継ぎ〉あのお皿」と言ったら、急にお皿を取ってきてくれたそうです。身近な人にお試しください。

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■「あの」「すみませんが」も効果的

あせると、例文のような「前置き」がとっさに言えないこともありますよね。そんなときは、「あの」「すみませんが」といった、あいまいな言葉で「前置き」しても十分に効果があります。いきなり本題に入るのではなく、少しでも「前置き」を入れることで、相手の注意を引きつけやすくなるからです。

結局、「前置きメソッド」を最大限に活かすためには、相手の状況や気分を読むことが欠かせません。コミュニケーションは相手あってのもの。自分のタイミングだけで話すのではなく、相手の状況に合わせることが重要です。

たとえば、上司や同僚がパソコン作業をしている最中に、急に声をかけても、十分な注意を引けないかもしれません。しかし、相手が手を止めて顔を上げたタイミングで声をかければ、こちらの言葉に集中してくれる可能性が高くなります。

また、「ちょっとお時間いいですか?」「今、話しかけてもいいですか?」というフレーズはオフィスでよく使われる「前置き」です。これも、もっと効果的にするには、具体的な時間を加えて、「ちょっと1分いいですか? 明日の会議の時間の確認です」などと、どのくらいの時間が必要かを明示します。具体的な「前置き」で、相手もより安心して聞いてくれるようになります。

■忙しい相手にも聞いてもらえるようになる

「前置きメソッド」の本質は、相手に自分のための「心のスペース」をつくってもらうこと。相手が忙しいときや自分のことでいっぱいいっぱいのときは、どんなすばらしい言葉も、なかなか心に響きません。

しかし、「あなたにしか相談できないことがある」といった相手の自尊心をくすぐるような「前置き」をすると、話をぐっと聞いてもらいやすくなります。たったひと言添えるだけで、相手とのコミュニケーションをスムーズにし、話を聞いてもらえるようになる魅力的なテクニックです。忙しいビジネスシーンやプライベートで困ったときなどに、ぜひ活用してみてください。

「ここまで読んで、伝わる理屈はわかったけど、果たして自分にできるだろうか?」と不安に思った方もいるのではないでしょうか。話し方のクセを完全に直すのは難しいかもしれませんが、心配はいりません。たとえば、修飾語と名詞をつなげる、つまり第1回で紹介したような「青い/海」を「青い海」とつなげるだけで伝わり方がよくなり、あなたの印象がアップします。それだけで、あなたの話を聞いてもらえます。

写真=iStock.com/itakayuki
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■話し方が変われば、よい成果につながる

本稿で紹介したトレーニングを行って、ふだんの話し方にわずかでも取り入れてみてください。少しずつ、話の伝わり方が変わっていきます。難しく考えないで大丈夫。あなたが伝えたい言葉をひと息で話すだけ。

人間は、本能的に心地よいほうを選ぶ生き物です。ここまでのトレーニングで「コツがわかるとラクに話せるし、自分の声のままでいい」と自分も心地よいことが実感できれば、話し方そのものがいつの間にか変わります。そして、あなた自身がかっこよく、エレガントに周りから思われるようになっていきます。

それが積み重なると、周囲の印象も大きく変わるでしょう。プレゼンやセミナー、ライブ配信、打ち合わせ、面接などの前に、これまで本書で紹介したトレーニングをいくつか練習しましょう。

「自分の声がしっかり伝わった」「自己紹介の後に名前を呼んでもらえた」「商品説明の後の問い合わせが増えた」と感じられれば、自信がつきます。この自信がさらに伝える力を高め、仕事でもプライベートでもよい成果をもたらしてくれるでしょう。

■信頼を築くには“寄り添う姿勢”が大切

では、営業の場面で相手の本音を引き出して、営業を成功させるにはどうしたらいいのでしょうか。仕事に熱心な方ほど、「早く営業の成績を上げたい」と思いますよね。しかし、営業の場面では特に、相手の信頼を得ない限り、本当の話はしてもらえません。

あなた自身も、誰にでもなんでもかんでも話したりしませんよね。相手も同じで、こちらがいろいろ質問をしても、信頼がないとすべてを教えてはくれないのです。

「信頼されない人はどんな人か?」を想像してみてください。たとえば、裏表がありそうな人、話がウソっぽい人、誠実さが感じられない人、自己中心的に話を進める人……。こうした人たちは信頼を得られません。営業でも同じで、「自分が知りたいことをどう引き出そうか」と考えているうちは、相手に自分本位な印象を与えてしまうケースもあります。

信頼を築くためには、まず相手に寄り添い、相手の話を真剣に聞く姿勢が大切です。相手の本音を引き出すためには、こちらが相手のニーズや悩みに真摯(しんし)に向き合い、寄り添うのです。

■自然な伝わる声で、信頼構築に集中する

たとえば、こんなふうに質問してみましょう。

「今、お話しいただいた○○の反響はいかがですか?」
「どのような販促をしてらっしゃいますか?」
「私たちがお手伝いできることはありますでしょうか」
墨屋那津子『あなたの話が「伝わらない」のは声のせい』(飛鳥新社)

こうした質問を通して、相手が求めていることを理解し、サポートする姿勢を示すと、無理なく信頼関係が築けます。話す時間が30分ある場合、焦らずに信頼関係を築くことに集中しましょう。最初の28分はそこに集中してOKです。信頼が深まれば、残りの2分で次のアポイントを取りやすくなります。最終的には、相手から自然と仕事の話が出てくるでしょう。

また、本書でお伝えしてきた、自然な「伝わる声」で話すことで、信頼構築の速度がミラクルに上がります。同じ内容を話していても、伝わる声は相手に「この人は信頼できる」と感じてもらえる力を持っています。あなたのナチュラルさは安心感も与えます。

結果として、より早く、相手が「一緒に仕事がしたいな」と感じるので、ビジネスの話に進むことができるのです。信頼関係を築くことに集中すれば、自然と仕事の依頼が来ます。

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墨屋 那津子(すみや・なつこ)
アナウンサー(元NHK)/キャリアカウンセラー
石川県生まれ。NHK「おはよう日本」「ニュースウオッチ9」ニュースリーダー、NHK Eテレ「100分de名著」語り手などで活躍。30年以上にわたる幅広い経験を通じて培った「声のキャリア」と「声の原則」を基盤に、声の出し方を変えることで誰でも瞬時に「伝わる話し方」を実現する「スミヤメソッド」を確立。また、カナダ・トロント大学と専修大学で実践的講義を行う。企業のコミュニケーション顧問やセミナー講師も務める。
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アナウンサー(元NHK)/キャリアカウンセラー 墨屋 那津子)