連載第17回 
サッカー観戦7000試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」

なんと現場観戦7000試合を超えるサッカージャーナリストの後藤健生氏が、豊富な取材経験からサッカーの歴史、文化、エピソードを綴ります。Jリーグ2部の「J2」は、J1自動昇格の上位2チームの決定が見えてきて、注目は6位までの昇格プレーオフ圏争いになってきました。今回は、リーグを最後まで盛り上げるこのプレーオフの存在意義と歴史を伝えます。

【J2首位攻防戦が白熱した試合に】

 J2リーグの優勝を争う清水エスパルス対横浜FCの決戦が、9月28日に東京・国立競技場にJ2新記録となる5万5598人の大観衆を集めて行なわれた。


国立競技場で行なわれた清水エスパルス対横浜FC。J2の首位攻防戦は白熱したゲームとなった photo by Kishiku Torao

 試合は白熱した。

 今季J2最多得点(この試合前まで61得点)を誇る清水と最少失点(同じく19失点)の横浜FCの対戦だったが、勝点1差で2位の横浜FCが勝利を求めて攻撃意識を高め、MFのユーリ・ララが攻守にわたって活躍。シャドーのジョアン・パウロと組んで右サイドで攻撃を活性化した。

 一方の清水はいつになく慎重な試合運びで一進一退。両者の好守のバランスが拮抗し、ピッチの全面で激しいバトルが繰り広げられる、いわゆる「決勝戦らしい」戦いとなった。結局、56分に横浜FCが先制し、74分に清水が追いついて1対1のドローに終わった。

 横浜FCの先制点は、郄橋利樹のヘディングシュートがクロスバーにはじかれたところにジョアン・パウロが飛び込んだもの。清水の同点弾も原輝綺が起点となったチャンスから矢島慎也がクロスを入れ、そこに原が飛び込んでつぶれたこぼれ球に宮本航汰がつめたもの。2点とも、非常にアグレッシブなこの試合を象徴するようなゴールだった。

 ここ3年ほど、日本のサッカー界ではJ2以下の下部リーグのレベルが急速に上がってきており、J3リーグでも、JFLでも互いの戦術的な狙いがはっきりした好ゲームが増えてきている。

 J2の首位攻防の大熱戦は、そんな最近の傾向を象徴するような戦いだった。

【焦点は6位以内の昇格プレーオフ圏争い】

 首位決戦が引き分けに終わり、首位の清水と2位の横浜は勝点1差のまま。3位のV・ファーレン長崎が失速気味のため、両チームの自動昇格はほぼ決まりといっていいだろう。

 そうなると、J2の焦点は6位以内の昇格プレーオフ圏争いに移る。

 清水と横浜の首位決戦の翌日、3位の長崎がファジアーノ岡山に敗れたため、長崎と4位岡山、5位ベガルタ仙台との勝点差が5ポイントに縮まり、さらに勝点3の差でジェフユナイテッド千葉が6位に入っている。

 千葉は、昨年就任した小林慶行監督の下、真っ向から勝負する戦いのなかで、選手個々の成長が著しい。トップの小森飛絢は第32節のレノファ山口戦でのハットトリックに続いて、第33節愛媛FC戦でも2得点。J2の得点王争いでトップに躍り出た。また、MFの品田愛斗が急成長。テクニックを生かして、中盤で試合の流れを変える仕事をこなしている。

 今の好調さが続けば、千葉はさらに上位を狙えるチームだろう。

 しかし、千葉と9位の山口との差もわずかに5ポイント。J2の残りは各クラブ5試合で、熾烈な昇格プレーオフ圏内争いが最後まで続きそうだ。

 J2の3位から6位までが参加する「J1昇格プレーオフ」は2012年に始まったもので、すでに10年以上の歴史がある(この間、2018年から22年までは、J1リーグの16位も参加する「J1参入プレーオフ」)。その間には、それぞれのクラブのサポーターにとっては忘れられない、悲喜こもごものドラマがあった。

 一発勝負であり、たったひとつのゴールがクラブの歴史を変えてしまうドラマ性が人々を引きつけるのだ。

 そして、また、昇格プレーオフの存在によって、J2(J3も同じだが)は最後まで盛り上がることになる。

 もし昇格プレーオフがなくて、2位までの自動昇格だけという制度だったら、すでに清水と横浜の昇格が事実上決まっている今年のJ2は、「J2残留争い」以外は"消化試合"となってしまうところだった(その残留争いも、現状を見ると早期決着の可能性がある)。

 J2の盛り上げのためにも、昇格プレーオフがあって本当によかった、のだ。

【リーグ戦にプレーオフは邪道か!?】

 ただし、このように様々な意味で魅力的なプレーオフだが、リーグ戦のあり方として"邪道"であることは間違いない。

 ホーム&アウェー方式による勝点制のリーグ戦というのは、順位決定の方法として最高のものだからだ。

 1888年にイングランドで世界最初のフットボールのリーグ戦が始まった。世界最初だから、名称に「イングランド」という国名はついていない。「ザ・フットボール・リーグ(FL)」である。

 12クラブが参加して始まったFLは、勝点制で優勝を争うことになった。

 新リーグがお手本としたのは、先に始まっていたアメリカのベースボールリーグだった。だが、引き分けがないベースボールリーグでは勝率で順位を決めていたが、引き分けが多いサッカーでは、それでは正当にチーム力を測れない。そこで、導入されたのが勝点制だった。勝利には勝点2、引き分けには勝点1が与えられ、シーズン終了時の合計勝点で順位を決めた。

 それから136年が経過した。

 この間、1981年には勝利へのインセンティブを上げるために、勝利時の勝点を2から3に増やしたものの、「勝点制」という順位決定方法は維持されている。これ以上、公平な順位決定方式が見つからないからだ。

 だから、リーグ戦の順位は勝点によって決めるべきなのである。

 アメリカのプロスポーツは、リーグ戦のあと「ポストシーズン」と称するプレーオフを行なって優勝を決める(メジャーリーグでは、いよいよポストシーズンが開幕。大谷翔平をはじめ、数多くの日本人選手が出場する)。オーストラリアのスポーツでも、アメリカとは方式が違うがプレーオフが行なわれる。

 したがって、サッカーでもアメリカのMLSやオーストラリアのAリーグでは、それぞれの国で一般的な方式のプレーオフが行なわれている。

 だが、サッカーの本場であるヨーロッパではプレーオフは行なわれず、リーグ戦で勝点を最も多く獲得したクラブがチャンピオンとなる。

 日本では、Jリーグが始まった当初は2ステージ制(1996年を除く)で、前、後期の優勝チーム同士の「チャンピオンシップ」で年間王者を決めていた。2ステージ制は2004年までで終了。2015年に2ステージ制が復活したが、わずか2年で廃止。2017年以降は1ステージ制で優勝を決めている。

 2ステージ制だった2016年には、年間勝点74の浦和レッズがチャンピオンシップで年間勝点59の鹿島アントラーズに敗れて準優勝扱いとなり、すでに勝点による順位決定に慣れていたファンから批判の声が上がった。

 だから、昇格プレーオフも本来なら"邪道"なのである。

【プレーオフを取り入れたのはリーグ戦を始めたイングランド】

 だが、その"邪道"を取り入れたのは、世界で最初にサッカーのリーグ戦を発明したイングランド人だった。1992年にFLから20クラブが離脱してプレミアリーグが創設された時、FLからプレミアリーグへの昇格を決める制度として採用されたのだ。

 優勝をプレーオフによって決めるというのは明らかに"邪道"だが、3チーム目の昇格チーム(ボーナスのようなもの)を決めるためなら、リーグ戦の注目度を上げるためには目をつぶってもいいということなのだろう。

 ただ、2部リーグ6位のチームが昇格してもトップリーグで戦っていけないのではないかという心配もある。実力差の大きなチームが昇格してしまったら、翌年のリーグ戦がつまらなくなってしまうかもしれない。

 それなら、昇格プレーオフ勝者とJ1の18位とは入れ替え戦を実施するほうがいいかもしれない。あるいは、昇格プレーオフ参加のために、順位以外に、たとえば「2位との勝点差10以内」などの条件をつけるといったことも考えるべきかもしれない......。

 ま、そんな理屈はともかく、プレーオフ圏内争いとプレーオフを大いに楽しもうではないか。J3も含めて......。

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