「冷凍」「養殖」とあれば大丈夫?アニサキスを避けるための生魚の選び方と外食時の注意点

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アニサキスによる食中毒がニュースで報じられると、「どんな刺身や寿司なら食べて大丈夫なのだろうか」と不安になる人もいるだろう。 絶対に避けたいなら「食べない」ということになってしまう。 

しかし、寿司や刺身といった魚の生食は日本を代表する食文化。「食べないなんて耐えられない」という人も多いだろう。どうすれば安全に生の魚を食べることができるのだろうか。 

そこで、“魚を楽しく安全に食べる方法”について発信する魚食普及推進センターの早武忠利さんに、スーパーや飲食店での注意点を聞いた。 

早武さんによれば、初心者は、「加熱」「冷凍」そして「養殖」というキーワードを押さえておくといいという。詳しく紹介していく。 

対策は「冷凍」か「加熱」で

アニサキスは魚に寄生する寄生虫。アニサキスが寄生したオキアミなどを魚が食べることによって、アニサキスが魚の体内に入ってしまう場合がある。さらにその魚を人が生食する事で、アニサキスが胃や腸の壁面と反応して、激痛を伴う食中毒「アニサキス症」になる可能性があるのだ(個人差があり、このメカニズムは医師の間でも諸説ある)。

 厚労省のページでは、「アニサキス食中毒」を防ぐため次の方法が推奨されている。 

・加熱(70℃以上、または60℃なら1分)
・冷凍(−20℃で24時間以上)

 ほかの寄生虫同様、アニサキスは加熱か冷凍すれば食中毒を引き起こさなくなる。

では、スーパーで売っている刺身や寿司も一度冷凍などしてから食べたほうがいいのだろうか。また、飲食店で寿司や刺身を食べる機会もある。そのような時はどう判断すればいいのだろうか。 

スーパーでは表示をチェック

早武さんはこう話す。

「アニサキスはどの種類の魚にでも潜んでいる可能性がありますが、必要以上に怖がることはありません。ただ、ここまでニュースになっていると不安に感じる方もいるでしょう。人によって考え方はそれぞれですが、怖い場合は、より安全な選択肢があります。例えば、絶対に避けたい人は冷凍品、次に限りなく安全に近い養殖魚。そして旬や様々な魚種を楽しみたい方は天然魚、というように自分が許容できるレベルと食べたい魚種を天秤にかけて選択するのがお勧めです」

スーパーで買う場合の判断ポイントは、「食品表示のシール」だという。まずはそこに「冷凍・解凍」と印字されているかチェックしよう。

「『刺身用・生食用』」と表示されているものの中でも『冷凍・解凍』と表示されている魚は、厚労省が推奨する『20℃で24時間以上冷凍』の条件をクリアしているので安全です。冷凍されたカツオの叩きやマグロの刺し身などが該当します」

「養殖」と印字されているものも限りなく安全に近いとのこと。

「養殖魚は冷凍か加熱済みのエサを食べているため、エサ内のアニサキスは死んでいます。そのためエサからアニサキスがうつることがありません。養殖のタイやブリは限りなく安全です」

ただし、サバは養殖でも注意が必要だという。その理由をこう説明する。

「サバの養殖には、『完全養殖』という卵から人が育てる場合と、『畜養』という天然のサバを捕まえてきて太らせる方法があります。後者は海にいた時に食べたエサからサバにアニサキスがうつっている可能性があります。ただ、『養殖サバ』はお値段も高めでプロが買いに行く市場などに行かないと手に入りません。普段スーパーで買い物をしている分には心配しなくても大丈夫です」 

外食は店選びが重要 

スーパーでの見分け方のポイントは分かった。では外食する場合は何に気を付ければいいのだろうか。 

「外食では、信頼できるお店を選ぶようにしてください。刺身や寿司は切って盛り付ければよいだけの料理ではありません。経験を積んだプロは、一尾一尾魚の状態を確認しながらおいしく安全に食べる方法を熟知しています。そのような知識や技術があるお店は限りなく安全な形で提供しています」

それでも怖い場合は、「冷凍魚や養殖魚が多いお店を選ぶ方法も悪くありません」と続ける。

「リーズナブルな傾向がありますし、天候に左右されず安定供給されるため年中食べる事ができます」

「天然魚も楽しんでほしい」

ただ、冷凍魚や養殖魚だけでは楽しみに限りがあるのも事実。さらに魚のおいしさを味わいたい人は、天然魚にも目を向けてほしいと話す。

「養殖も冷凍も便利な技術な一方で、市販されている養殖魚は10種程度と限られています。また、冷凍も技術が向上し生鮮との違いが判らないレベルのものもありますが、取れたての鮮魚と比較すると食感が変わってしまう場合もあります。何より市場に並ぶ魚介類は700種類以上。ホタルイカのように、生食用は必ず冷凍してから流通されるものや、フグのように毒を取るのに免許が必要なものもあります。安全性も考えられながら消費者が選択できるようになっています。海に囲まれた日本で、旬を感じながら天然魚の奥深いおいしさを多くの人に知ってもらいたいですね」 

なお早武さんは、魚の魅力にハマり、日常的に魚をさばいて刺身を食べて25年以上。アニサキスを酢に入れて数日間死なない動画を撮影し、初心者向けにしめサバの冷凍処理を推奨するなど、安全に食卓を囲むための注意喚起も行っている。

「安全に天然魚を食べるためには、魚をさばく腕を上げ、自分でアニサキスを見つける力をつけるのも一つの方法です。不安なら冷凍するのも賢い方法。緊張せずにチャレンジしてほしいですね」 

次回の記事では、早武さんに教えてもらった家庭で安全なお刺身を作る方法について紹介する。 

早武忠利(はやたけ・ただとし)
一般社団法人大日本水産会魚食普及推進センター事業課長、水産庁長官任命「お魚かたりべ」、キッズキッチン協会理事、官民連携フォーラム江戸前ブランド育成PT副PT長、名誉海老大使。琉球大学卒、東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。専門は保全生態学、生態学、形態学。著書に、『ハヤタケ先生の魚食大百科』(少年写真新聞社)、『科学で考える食育絵本 魚の教え』(上・下/群羊社)監修。